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ep.72 氷結のネームドと完全憑依

パシフィコ横浜の最深部。

かつての「展示ホールC」と医務室を繋ぐ重厚な扉の前にそれは鎮座していた。


全身が透明な氷の結晶に覆われた巨大な変異ゾンビ。

その周囲には常に極低温の霧が立ち込め、床の植物は霜に閉ざされて白く沈黙している。


「……いたな。このエリアのネームドモンスターか」


一郎が足を止めた、その時だった。

背後から追いすがってきたあの青白い亡霊――『トーメンティッド・スピリット』が、歓喜に震えるように発光した。

亡霊は一郎たちを嘲笑うようにすり抜け、一直線に氷の巨体へとダイブする。


「させん! ゾンビ共、ブロッキングだ!」


一郎の叫びも虚しく、亡霊は吸い込まれるように氷の巨人の胸中へと消えた。


【システム警告:ネームドモンスター『Hailrake the Frozen』への完全憑依(Possessed)を確認】

【個体性能が極限までブーストされました。戦域の環境変化に注意してください】


直後、ホール全体を震わせるような咆哮が響き渡った。

巨人の氷の外殻が、亡霊の青白い光を吸収して禍々しいラピスラズリの色へと変貌する。

床から鋭い氷柱が次々と突き出し、吹き抜けからは雪ではなく「氷の刃」が降り注ぎ始めた。


「……っ、ハハッ! なんという攻撃力だ。殺意高すぎだろ。」


一郎は顔を掠めた氷のつぶてを拭い、狂気に似た笑みを浮かべた。

網膜に表示されるボスのステータスは、先ほどまでの予測値を遥かに上回り真っ赤に点滅している。


完全憑依ポゼス。ただでさえ厄介な氷結属性のネームドに、亡霊の全リソースが注入されたわけか。これこそまさに『Black Swanブラックスワン』……予測不能な破滅的な暴落リスクだ」


Hailrakeヘイルレイク』がその巨大な拳を地面に叩きつけると、衝撃波と共に凍てつく波動が広がり、一郎のゾンビたちの足首を瞬時に凍りつかせた。


「移動速度の低下、そして継続的な冷気ダメージか。嫌なデバフのオンパレードだな……。だが、これだけの高リスクを背負わされたんだ。その『腹』の中には、相応の配当ドロップが詰まっているんだろうな?」


一郎は不敵に笑い、懐から歪な形状のスキルジェムを取り出した。


「リソースは現地調達、これが鉄則だ。――Desecrateデセクレイト!」


一郎が地面を叩くと、床のタイルを突き破って禍々しい「死体の山」が次々と召喚される。

腐敗臭と共に溢れ出した死体は、単なる肉の塊ではない。

それは、さらなる強化のための「燃料」だ。


Buffバフを最大化する。捧げろ、Bone Offeringボーンオファリング!」


一郎が呪文を唱えると、召喚された死体たちがボロボロと崩れ、鋭い骨の破片となって舞い上がった。

その骨片は、前線で凍りつきかけていたゾンビや守護者アニメイトガーディアンの肉体に吸い込まれ、強固な骨のボーンバフを形成していく。


【スキル発動:Bone Offering(骨の奉納)】

【効果:召喚体のブロック率および回復性能を大幅上昇】


「くはは! ガードを固め、生存率を引き上げる。……逃げ場はないぞ、Hailrakeヘイルレイク。貴様が纏ったその不自然なバフ、俺の目にはただの『粉飾』にしか見えんぞ。その代償、今すぐその身で支払わせてやる!」


鎧を纏い、耐久値ヘルスを底上げした死霊の軍団が、氷の巨神に向かって再び牙を剥く。


「リスクを飲んで、リターンを最大化する。……さあ、バブルを弾けさせようじゃないか!」


青白く光る氷の魔神と死霊の軍団を従えた投資家。

かつては平和なビジネスの拠点だったパシフィコ横浜が、今、凍てつく戦場へと変貌した。

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