ep.61 イキリ骨〇郎(Edgy Bone-Boy)
闇市の奥、埃っぽい露店が並ぶ一角で、一郎は目当ての品を見つけた。
棚の隅に置かれた、濁りのない青い小瓶。
マナを瞬時に回復させるリソースの塊だ。
「店主、その青い瓶を……」
一郎が言いかけた瞬間、横から伸びてきた無骨な手が先に小瓶をひっ掴んだ。
「へっ、こいつは俺たちが買ったぜ。悪いな、おっさん」
現れたのは、時代錯誤なモヒカン頭にスパイク付きの肩当てを装備した、某世紀末覇者にでてくる荒くれ者のような四人組だった。
彼らの背後には、カタカタと骨の音を立てる二十体のスケルトンが控えている。
頭上のUIに表示されたチーム名を見て、一郎は思わず吹き出しそうになった。
「……『Edgy Bone-Boy』、ぶふっ、なんだその名前は!イキリ骨〇郎か!」
「あんだと!? 俺たちのクールなチーム名に文句あんのか! 俺はリーダーの常闇のジョーだ!」
ジョーと名乗った男は、ダサい二つ名を誇らしげに掲げながら勝ち誇ったように笑った。
一郎は内心で「は、まさにイキリ骨〇郎だな」と失笑したが、そのスケルトンの数には目を留めた。
一人につき五体、計二十体。
ゲームと現実では仕様が変更されたらしい。
時間制限なしの召喚維持。
質より量で圧倒する極めて「安全率」の高いビルド構成だ。
「……これを買い占めるってことは、あんたも同類かい。いいぜ、獲物を取り合った仲だ。一杯奢るからよ、情報交換しようじゃねえか」
ジョーの誘いに、一郎は無言で頷いた。
案内されたのは、廃ビルの地下にある荒くれ者共の酒場だった。
並べられたのは、石油のような臭いのする粗悪な合成酒。
ジョーたちが顔を顰めながら飲む中、一郎はそれを水のようにカパカパと喉に流し込んでいく。
「お、おい、おっさん……それ、相当キツいぞ?」
「……これしき、終電を逃した後のサービス残業に比べれば甘露だよ」
社畜とは、ストレスをアルコールで中和して生きる生物である。
その異様な飲みっぷりに気圧されたのか、ジョーたちはポツリポツリと自分たちの手の内を話し始めた。
一郎は酔ったふりをしながら、巧みに質問を差し込む。
「……で、君たちはアセンダンシー――『昇華』のクラスはどうしているんだ?」
「アセン……何だそりゃ? 俺たちはスキルジェムを拾って、骨を増やしてるだけだぜ。とにかく数が多けりゃ、自分が殴られなくて済むからな!」
落胆。
どうやら彼らも、システムの根幹に関わる上位職の情報は持っていないようだった。
だが、その「とにかく死にたくないから肉壁を増やす」という安全性重視の運用方針には、一郎も深く共感した。
「……『いのち大事に』、か。投資家としても、元本を割らない立ち回りは評価できる」
「わかってくれるか、おっさん! やっぱ数は力だよな!」
結局、有益なシステム情報は得られなかったが、自分以外にもミニオンビルドで堅実に生き残っている勢力がいることは大きな収穫だった。
市場の開拓には、こうした「話せる同業者」の存在が不可欠だ。
「……そろそろ時間も遅くなった。今日はこの辺にしよう」
一郎は千鳥足のジョーと握手を交わし、酒場を後にした。
競合相手ではあるが、今はまだ共生できる段階にある。
「また時機を見て情報交換をしよう。……イキリ骨〇郎君」
「あんだと!? 俺たちのチーム名は『Edgy Bone-Boy』だ。そんなんじゃねーよ!」
酩酊しているジョー一行と別れ、闇市の夜風に吹かれながら一郎は自室へと足を向けた。




