ep.49 強欲のロジスティクス
戦闘が終わり、静寂が戻った8Fフロアには、莫大な「資産」が転がっていた。
だが、ここで一郎は現実的な問題に直面する。
(……重すぎるな)
未開封のUPS(無停電電源装置)は、鉛蓄電池の重量も相まって軽く20kgはある。
それに加えて数十枚のメカニカルキーボード、さらにバラしたサーバーラックのパーツ。
この世界に「四次元ポケット」のようなアイテムボックスは存在しない。
あるのは、自分が背負えるバックパックの容量と、自らの筋力(STR)が許す積載重量だけだ。
「……一往復で全てを運び出す。時間の浪費は最大の損失だ」
一郎の視線が、床に散らばったサーバーラックの残骸や先ほど剥ぎ取ったクズ装備の山へ向けられた。
「Animate Guardian」
一郎が短く唱えると、足元に積み上がった鉄くずとクズ装備の山に魔法陣が展開される。
ガシャガシャと耳障りな金属音が響き、歪なパーツ同士が磁石に吸い寄せられるように結合していく。
形成されたのは、人型を模した金属の塊——「動く装備のゴミ山」だった。
本来は強力なユニーク装備を与えて戦力とするスキルだが、今の一郎にとって必要なのは戦力ではなく「運搬力」だ。
「今日からお前が私の『動く金庫』だ。これを背負え」
一郎は手際よく、剥ぎ取ったLANケーブルをロープ代わりに使い、巨大なUPSとキーボードの束をガーディアンの背中に固定していく。
一郎なら自重で崩れるような重量だが、STR+30のバフを分け与えられた「重戦車ガーディアン」は、膝一つ折ることなくその荷重を受け止めた。
「よし。すべて回収できた。……これでようやく、一息付ける」
一郎自身は身軽な状態で警戒に当たり、背後に「物言わぬ荷物持ち」を引き連れて非常階段を下りる。
向かう先は、ビルを出た先、新宿の廃墟に広がる『新宿の闇市』だ。
そこには、拾ったジャンクを「カレンシー」や「装備」に変えてくれる業者が溜まっている。
階段を下りるガーディアンの足音が、重々しくコンクリートに響く。
その一歩一歩が、一郎にとっては新たなる装備の更新へと近づく足音に聞こえていた。
「……待っていろよ。この重みを全て、私の戦力に変えてやる」
一郎の瞳に宿る光は、欲望に鈍く光っていた。




