ep.48 強制終了と資産回収
フロアの最奥、巨大な無停電電源装置(UPS)が唸りを上げる一画にその怪物はいた。
『ネームドモンスター:Project Manager: The Red-Eye Sentinel(充血の監視者)』
数台のサーバーラックを継ぎ接ぎしたような歪な巨躯。
ラックの隙間からは、過労で赤く発光する無数の小型モニターが監視カメラのように一郎を凝視している。
「進捗は……? エビデンスは……? 報告……連絡……相談……!」
PMが咆哮すると、床にのたうち回る LANケーブルが神経系のように脈動し、周囲の『キャスター・ケンタウロス』たちに過剰なマナ供給を行いはじめた。
さらにボスの背後のラックが開き、中から派遣社員スケルトンの群れが吐き出される。
「リソースを投入しろ! 納期は……絶対……順守……!」
ボスの周囲には強力な「Energy Shield」が展開され、物理的な干渉を拒絶している。
群がるスケルトンたちは、一郎と四体のゾンビを数で押し潰そうと襲いかかる。
「……インフラの維持にリソースを割きすぎだな。管理職の典型的なミスだ」
一郎は冷徹に観察する。
ボスの背後、太い電源ケーブルが床下のハッチへと繋がっている。
1Fのマック店長(物理無効)で学んだ教訓。
システムで守られた無敵には、必ずそれを維持するための「コスト」が存在する。
「ゾンビ諸君。あの床下のハッチ——『メインブレーカー』を叩き壊せ。派遣社員スケルトン相手に時間を食うのは非効率だ」
四体の重戦車ゾンビが、重々しい足取りで床を粉砕しながら突進する。
PMが慌てて『Change Request(LANケーブルの鞭)』を放つが、STR+30を分け与えられたゾンビたちの突進力は止まらない。
バキィッ! という硬質な破壊音。
フロアを支配していたブルーライトが激しく点滅し、PMの赤い眼が次々とブラックアウトしていく。
同時に、マナ供給を絶たれたスケルトンたちがガラガラと崩れ落ちた。
「ギギッ……停電……!? バックアップ……未……設定……」
「バックアップのない計画など、ただの願望だ。強制終了の時間だぞ」
外壁が消失し、剥き出しになったサーバーラックの筐体。
一郎はここからが本番だとばかりに、獲物を見定める目をした。
一気に倒すのは非効率だ。
このボスの「装甲」に使われているパーツこそ、高値で売れる資産の塊なのだから。
「ミニオン。まずは右肩の『RAID構成ハードディスク』から剥ぎ取れ。丁寧にだ、中のデータを損なうな」
ゾンビたちの『Melee Splash Support(近接範囲攻撃補助)』を伴う精密な打撃が、PMの身体を構成する高価なパーツを一つずつ「解体」していく。
一撃ごとに、ボスの絶叫と共にカレンシーが飛び散った。
——『Chaos Orb(混沌のオーブ)』。
——『Alchemy Orb(錬金術のオーブ)』。
さらには、ラックの奥に隠されていた未開封の『UPS(無停電電源装置)』。
「いいぞ……。実に素晴らしい。君の仕事の引継ぎは私がいただこう、現物でな!」
もはや戦闘ではなく、一方的な「資産回収」だった。
徹底的に身ぐるみを剥がされ、最後の一枚になったPMの本体——干からびた老人のようなゾンビが、力なく床に転がる。
「サービス残業のツケを払う時間だ。……お前の全資産で、派遣スケルトンの未払い給与を清算させてもらうぞ。まあ、受け取るのは私だがな。」
一郎が最後の一撃を振り下ろすと、PMは膨大な経験値の光へと霧散した。
網膜に浮かぶ経験値バーが、快音と共に跳ね上がる。
『Lv.47 → Lv.48』
一郎は足元に散らばった大量のカレンシーと、30,000G越えが確定したメカニカルキーボード、剥ぎ取ったパーツ群を冷徹に計算し、満足げに鼻を鳴らした。
一文無しだった財布は、今やかつてないほどの熱を帯びている。
だが、一郎の貪欲な視線は、すでにさらに上のフロアへと向いていた。
「……次のフロアへ行こうか。目標利益には、まだ遠い」




