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ep.47 効率100%の地獄

5Fから6Fへの境界線を越えた瞬間、空気の「質」が変わった。


1Fアトリウムの喧騒や巨大時計『ユックリズム』の規則的な振動が遠のき、代わりにフロアを支配したのは、無数の精密機器が発する微かなコイル鳴きと不快なオゾンの匂いだった。


「……ここはIT企業の集まったフロアのようだな。」


一郎は、割れた液晶モニターから漏れ出す青白いブルーライトの中に足を踏み入れました。


天井からはLANケーブルが蜘蛛の巣のように垂れ下がり、足元には数年分の埃を被ったエナジードリンクの空き缶が散乱している。


かつてここは、不眠不休でコードを書き続けた人間たちの「戦場」だった場所だ。


暗闇の奥から、「ガガガガッ!」と硬いプラスチックがコンクリートを削る音が響く。


「……来たか。挨拶回りは不要だぞ」


青白い光の中に姿を現したのは、異形の騎士群だった。


上半身は青白い肌のゾンビだが、下半身は多脚の事務椅子オフィスチェアと無残に融合している。


かつて椅子から立ち上がることすら許されなかった者たちの成れ果て――『キャスター・ケンタウロス』。


彼らはデッドコピーのキーボードを槍のように構え、キャーターを高速回転させて突進してくる。


「Raise Zombieレイズゾンビ


一郎が短く唱えると、足元の影から四体のゾンビが這い出した。


ユニーク兜『The Baron(男爵)』の加護、そして一郎のSTR+30という暴力的なステータスの半分を譲り受け底上げされている。


膨れ上がった筋肉が腐った皮膚を突き破り、一歩踏み出すごとに床のタイルが粉砕される。


一郎の筋力値(STR)がシステムを通じて転写された「重戦車」だ。


「殲滅しろ。1秒でも早く利益(経験値)を確定させろ」


 ドォォォン!


最前線のゾンビが厚い拳が、突進してきたケンタウロスのキーボード槍を真っ向から粉砕した。


直後、支援ジェム『Melee Splash Support(近接範囲攻撃補助)』が発動。


衝撃波が周囲の個体へも伝播し、事務椅子のパーツとゾンビの肉片がブルーライトの中に飛び散る。


(……これだ。この手応えを待っていた)


一郎の網膜の端で、長い間止まっていた「経験値バー」が目に見える速度で右へと滑り出した。


1Fでのレベルスケールされた経験値テーブルとは桁違いだ。期待以上のリターンだ!


「ギギッ……仕様……変更……納期……厳守……!」


天井からLANケーブルの束を操る『ケーブル・ウィーバー(配線蜘蛛)』が降りてくる。


一郎の四肢を拘束しようと絡みつく配線。


だが、一郎はそれを素手で掴み、強引に引きちぎった。


「仕様変更だと? 却下だ。このプロジェクトの主導権リードは私にある」


STR+30の暴力。


一郎自身の一撃がウィーバーの頭部を捉え、スイカのように爆発させる。


死体から溢れ出したマナの光が、一郎の身体に吸い込まれていく。


『Lv.46 → Lv.47』


「……上がったか」


久々のレベリングの感触に、一郎の口元が吊り上がる。


戦場には、戦利品ドロップも散らばっていた。


透明な輝きを放つ Scroll of Wisdom(鑑定のスクロール)、反映して装備のソケット色を変える Chromatic Orb(色替えのオーブ)。


さらに、粉砕されたデスクの影から未開封のパッケージを見つける。


「……これは、旧文明の高級メカニカルキーボードか。山手線内のコレクターなら30,000Gは出すはずだ」


一文無し、資産ゼロからの再出発。


だが、ここは100%の効率が約束された約束の地だ。


一郎は、背後に従えた「筋肉の重戦車」たちと共に、さらに暗いフロアの奥へと進む。


そこには、巨大なサーバーラックを鎧のように纏った、このフロアを統べるネームドモンスター――『Project Manager: The Red-Eye Sentinel(プロジェクトマネージャー:充血の監視者)』が待ち構えていた。


「さて……どれほどのカレンシーを貯めこんでいるか見せてもらおうか?」


一郎の瞳に、底知れぬ貪欲な光が宿った。

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