ep.41 連結(リンク)の狂気
自宅に戻った一郎は、拾い上げたばかりの四つ穴(4ソケット)の革鎧を汚い机に広げた。
なぜ、この薄汚れた革鎧に執着するのか。
目的は明白だ。
現在、ダンジョンで落ちる装備品は換金性も低く、鑑定しなければただの鉄屑だ。
だが、ここに赤ジェム(Animate Guardian:アニメイトガーディアン)を導入し、青ジェム(Raise Zombie)と一本の魔力ライン(リンク)で繋げば話は変わる。
落ちているゴミ同然の装備を、無理やりゾンビに着せその上から「アニメイテッドガーディアン」のスキルを叩き込むのだ。
守護者と化した装備のステータスは、依代となったゾンビ自身の肉体を劇的に底上げするはずだ。
むろん、ゲームの仕様上ではそんな芸当は不可能だった。
だが、ここは現実だ。
「死体」を媒体にする召喚術と「装備」を媒体にする守護術。
この二つを同じリンク内で干渉させれば、ゾンビそのものを「武装ゾンビ」へと昇華させられるに違いない。
成功すれば、我が戦力は大幅に跳ね上がる。
だが、現実は非情だ。
目の前の鎧はソケットが四つあるだけで、一つも繋がっていない。
おまけに色は緑が二つに赤と青。
これではスキルが全く連動しない。
「……まずは連結だ。ここを妥協すれば、全てが絵に描いた餅に終わる」
一郎は、これまでのブリーチファームで血反吐を吐きながら集めた『連結のオーブ(Orb of Fusing)』を握りしめた。
「一発……一発でいい、通れ……ッ!」
カチッ。
オーブを叩きつける。
二箇所が繋がり、一箇所が離れる。
「……っ、ふざけるな! 確率計算が合わん!」
カチッ、カチッ、カチッ!
焦りが怒りを加速させる。
一郎の顔は、かつてパチンコ屋の角台で軍資金を溶かしていた時の「カイジ」そのものだった。
三つまで繋がって、最後の一つが外れるたびに、一郎の心臓が不整脈を打つ。
数十回の試行の後。
ガキンッ、という重い手応えと共に四つの穴が一本の光るラインで結ばれた。
「……ハァ、ハァ……。通った。だが、カレンシーの残りが大幅に減ってしまった……。」
連結は終わった。
だが本当の地獄はここからだ。
革鎧という「回避(DEX)」ベースの装備に対し、知性(青)のソケットを三つも出す。
本来の期待値を無視した、無謀極まる染色ギャンブルだ。
「青、青、青、赤。……来い、来い来い来い……ッ!」
カチッ……緑・緑・赤・青。
カチッ……緑・緑・緑・青。
「殺す気か! どいつもこいつも搾取しやがって! この『色』の偏りは、明らかに運営の操作だろうがぁ!」
一郎がモニター(脳内インターフェース)に向かってブチギレ、最後の『彩色のオーブ』を震える指で掴んだその時。
ガラッ! と、襖のようなボロいドアが蹴破られた。
「おい、おっさん! まだブツブツ言ってんのかよ。腹減ったから何か食わせろ!」
隣のクソガキだ。
一郎の指が、驚きで勝手に跳ねた。
「……あっ!」
カチッ。
最後の一つが鎧に吸い込まれる。
刹那、一郎の視界が青い光に包まれた。
【ソケット色:青・青・青・赤】
「………………」
一郎は、口を半開きにして固まった。
揃った。
天文学的な低確率を、クソガキの乱入というイレギュラーが打ち破ったのだ。
「でかした! でかしたぞ、このクソガキがぁーっ!」
「うわっ、なんだよおっさん、急に抱きつくな! 汚ねぇ!」
狂喜乱舞。
一郎はクソガキの肩を掴み、ブンブンと振り回した。
カイジばりの圧倒的僥倖。
完璧な基盤が、今ここに完成したのだ。
「よし! 祝いだ! 飯に行くぞ、クソガキ!」
「えっ、マジ!? 肉!? 肉食えるの!?」
「ああ、出店の一番高いやつだ! 今の私は機嫌がいい。私に貢献した分の報酬だと思え!」
一郎は興奮冷めやらぬまま、ガキを連れて新宿の雑踏へと繰り出した。
カレンシーは底をついたが、心は晴れやかだ。
(ふふふ……。これで明日から戦場は私が支配する!)




