ep.38 ダイレクト・インベストメント
「……やはり、今のままで勝てないなら、新しいジェムを導入するしかない」
一郎は、ブリーチで稼いだカレンシーをテーブルにぶちまけた。
カオス・オーブこそないが、変換効率の良い小銭はそれなりにある。
「狙うのは『Animate Guardian』。本来は装備を消費して動く鎧を作るスキルだが……。これはゲームじゃない。現実ではこれをゾンビと組み合わせる魔改造できないか?」
夜の新宿。
文明崩壊後、生存者たちがひっそりと物資を交換する闇市。
一郎はフードを深く被り、慣れた足取りで露天商を回った。
いまだ一郎以外に覚醒者がいないため、一般にはジェムの価値は知られていない。
「……その赤いガラスの石。いくらだ?」
店主が差し出したのは、鈍い血のような光を放つ赤いジェム。
一郎は手持ちのカレンシーと引き換えに、その重みを掌に感じた。
(これを男爵の空いた『赤ソケット』に差し込む。だが、普通に使うんじゃない)
帰宅した一郎は、さっそく『男爵』の4番目のスロットに赤いジェムを叩き込んだ。
「……よし。さて、ここからが『現実』のルールだ」
一郎は工具箱から太い針金とペンチを取り出した。
召喚したゾンビを床に組み伏せ、その腕にNSビルの厨房から拝借してきた巨大な「中華鍋」を押し当てる。
「アニメイト・ガーディアンの術式を、ガーディアンではなくゾンビの肉体に『上書き』する。物理的に針金で固定してしまえば、システム側もこれを『装備品』として認識せざるを得ないはずだ」
本来、ガーディアン以外の召喚物は装備を持てない。
だが、魔力が「装備を動かせ」と命じ、物理的な針金が「肉体と装備は一体だ」と主張すれば、そこにバグが生まれるのではないか?
だが、鉄兜の内部で火花が散り、システムが拒絶反応を示す。
「……クソッ、そうか。アニメイト系の術式をゾンビに干渉させるには、ただ嵌めるだけじゃダメだ。『すべてのジェムが相互に接続』していなきゃならんのか」
現在の男爵のソケットは、青・青・青の3つが繋がっており、最後の赤だけが独立している。
ゾンビ(青)をガーディアン(赤)の術式で武装させるには、この4つを一本のラインで繋ぐ必要がある。
だが、現在の男爵では、そんな連結は存在しない。
「ソケットの色を変える『クロマティック・オーブ』で赤に変えるか? ……いや、男爵は知性ベースの防具だ。青が出やすく赤は極めて出にくい。下手に回せば、今の3リンク(青青青)すら失って、一文無しになるぞ」
一郎は、手元にある数少ないカレンシーを眺め、冷や汗を流す。
これはギャンブルだ。
失敗すれば、今の主力である「3リンク・ゾンビ」すら機能不全に陥る。
「……待て。兜がダメなら鎧だ」
一郎の視線が、床に放り出されたボロ布同然の「鎖帷子」に向いた。
ジェムソケットもなく耐性も火炎15%と冷気20%というゴミのような数値だ。
「このゴミ鎧を新しいソケットのある鎧に買い買える。欲を言えば今より耐性が上がった方がいい。男爵からゾンビと範囲攻撃ジェムを移し、そこにアニメイトとサポートを繋ぐ。……そのためにはどこかでレア以上の鎧を調達する必要がある」
火炎耐性15%すら失えば、NSビルのデーモンの一撃で一郎本人が即死する。
防御(耐性)を取るか、攻撃(魔改造ゾンビ)を取るか。
「しかしレア以上の鎧は闇市では買えないだろう。」
一郎はブリーチリングを見つめながら決意する。
「しばらくはNSビルへ行きブリーチファームで鎧を入手する必要があるな。」




