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ep37 奇怪なピエロ

嵐のようなブリーチ戦を終えた一郎は、NSビル1階の隅、営業を停止したカフェのテラス席にいた。

懐から取り出したのは、自宅から持参した安物の合成インスタントコーヒーが入った水筒だ。


「……ふぅ。金が無いのに外食などしていられんからなあ。まあ、そもそも文明崩壊後に店などないが・・。」


ぬるいコーヒーを啜りながら、一郎は先ほど手に入れた『激変するナックル』を眺める。

指先から伝わる魔力は、先ほどの熱狂が夢ではなかったことを告げている。

一息つくと、ふと闇市の情報屋が言っていた噂の続きを思い出した。


「そういえば……『NSビルには、ブリーチ以外にもアツいスポットがある』と言っていたな。……確か、1階の飲食店街の奥にあるマクドナルド跡地だったか」


「アツい」という言葉には二種類ある。

爆益か、あるいは地獄か。

今の自分には、3リンクのゾンビとブリーチリングがある。

一郎は強気に空になった水筒を仕舞うと飲食店街の奥へと足を進めた。


そこには、かつての面影を残したまま、異様な静寂を保つ店舗があった。

カウンターの奥、薄暗い影の中からそれはゆっくりと姿を現した。


「……ッ、なんだ、あれは」


黄色いジャンプスーツに、真っ赤な髪。

白塗りの顔に描かれた不気味な笑み。

かつて子供たちに愛されたはずのピエロの格好をしたモンスターが、ハンバーガーのパテを叩くようなリズムで、巨大な靴音を立てて歩み寄ってくる。


「ふん……見た目は奇抜だが、しょせんは単体個体だ。ゾンビ、排除しろ!」


一郎の号令で、4体のゾンビがピエロに襲いかかる。

Melee Splashを乗せた強力な連撃が、ピエロの体に叩き込まれた。  ……はずだった。


 ゴッ、ガギンッ!


「……なっ、ダメージが通っていない!?」


ゾンビの拳が、まるで鋼鉄の壁を叩いたかのような音を立てて弾かれた。

ピエロの頭上に表示されたModを確認した一郎の顔が、一瞬で青ざめる。


[Armoured(重装甲)]

[Physical Damage Reduction(物理ダメージ軽減) 90%]


「物理耐性の極振りだと……!? クソッ、物理特化の私のゾンビとは最悪の相性だ!」


ピエロが不気味に笑いながら、手にした巨大なヘラを振り下ろす。


 バキィィィン!!  


ゾンビのライフが一撃で半分以上削り取られた。

ブリーチの外である今、指輪の「ダメージ回収」も「ライフ増加」も、本来の数値にまで激減している。


「……ダメだ。今のビルドでは、この損失をカバーしきれん。損切りだ、全軍撤退ッ!」


一郎はプライドを捨て、無様に背を向けて走り出した。

ブリーチで得た全能感は、たった一体の「物理無効に近いピエロ」によって粉々に打ち砕かれた。


「……出直しだ。新宿駅の浅い階層まで戻るぞ。物理が通らないなら、別の攻撃手段を探すしかない……!」


一郎は命からがらNSビルを脱出し、安全圏である自宅へと逃げ帰るべく、駅への地下道を全速力で駆けていった。

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