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ep.34 ゾフの寵児

籠手から放たれた衝撃波が、一郎の周囲にわずかな空白を作り出す。

だが、その安堵を塗りつぶすように、ブリーチの最深部から巨躯が這い出してきた。


燃え盛る巨大な斧を担いだ『Xoph's Favoured(ゾフの寵児)』。

駅の雑魚とは比較にならない質量感と、その全身から溢れる殺意。

それが放つ物理特化のプレッシャーに、一郎の頬が引き攣った。


「……ッ、物理特化のレア個体か。今の私のアーマー値では、掠めれば即座に死ぬな」


ブリーチの円形領域が収縮を始める。

領域の端はすぐそこだ。

一歩外へ出れば、この化け物は消え一郎は安全圏へ逃げ延びることができる。


(……ここで引くのが正解だ。命さえあれば、次がある。引け、一郎。これ以上の勝負はただのギャンブルだ!)


長年の社畜根性で保守的な気持ちがしみ込んだ理性が撤退を叫ぶ。

だが、その時。

ゾフの寵児の巨体の隙間で、ドロップしたばかりの「青い石」が、これまで見たこともないほど眩い輝きを放っているのが見えた。


「——ッ、あの光り輝く『欠片』を残して帰れるか……! ここで逃走すれば、私は一生このボロ布を着て、小銭を拾うだけの人生で終わるぞ!」


欲望が恐怖を塗りつぶす。

一郎は泥臭く地面を這い、火炎に焼かれながらその石を掴み取った。

それは、駅での退屈なファームでは決して拝めなかった新規のサポートジェム。


「……『Minion Life Support(ミニオンライフ補助)』だと!? 今、このタイミングでこのドロップ……!」


一郎は震える手で『男爵(The Baron)』の鉄兜にある、たった一つの「空きソケット」にその青い石を叩き込む。


【ポートフォリオ:男爵(鉄兜)の3連結完成】


【発動スキル:Raise Zombieレイズゾンビ

【支援効果:Melee Splash Support(近接範囲攻撃補助)】

【支援効果:Minion Life Support(ミニオンライフ補助)】


ガチリ、と魔力のリンクが繋がった。

直後、再召喚されたゾンビの周囲に、これまでとは比較にならない濃密な生命力のオーラが渦巻いた。


振り下ろされるゾフの寵児の斧。

先ほどまで一撃で粉砕されていたゾンビが、その凶刃を肉体で受け止め、なおも地面を踏み締め耐えてみせた。


「——耐えた! 耐えたぞ、この『戦略』は正解だ!」


生存性が向上したことで、ゾンビたちは消滅することなく至近距離から3リンクの衝撃波を叩き込み続ける。

一郎は、籠手の『被ダメージ時キャスト』による衝撃波で周囲の雑魚を散らしながら、主力であるゾンビを支え続けた。


「……清算の時間だ。ミニオンのライフがお前の攻撃力を超えた今、貴様に勝ち目はない」


ついに、ゾフの寵児が四体のゾンビによる絶え間ない連撃に膝を屈し沈黙した。

ブリーチの赤い霧が嘘のように引きNSビル1階に静寂が戻る。


「……ハァ、ハァ……。勝った……のか」


足元には、レア・モンスターが落とした数々の戦利品が転がっている。

一郎は、崩れ落ちるように地面に座り込み、不気味な鉄兜の奥で今日一番の安堵に満ちた(そして卑しい)笑みを浮かべた。

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