ep.24 リプランニング
新宿駅近く、雑居ビルの3F。
一郎は自室へ戻るなり、作業机の上に本日の「収穫」を並べた。
カラン、と乾いた音を立てて転がったのは、変電所のヌシから剥ぎ取った戦利品だ。
「……さて、リザルト確認を始めるとしよう」
まずはカレンシーの確認だ。
『Orb of Alteration(変化のオーブ)』が3個。
『Orb of Transmutation(変成のオーブ)』が2個。
そして、道中のパックから回収した『Scroll of Wisdom(鑑定のスクロール)』が数枚。
「不採算エリアだと思っていたが、変化のオーブが3個か。今の市場レートなら、最低限の設備投資費用にはなるな」
一郎の視線は、次にマジック(青)のブーツへと向けられた。
変電所で拾い上げた直後は「ただの美味しい金」としか見ていなかったが、実装備として運用できるかどうかの「検品」が必要だ。
「……鑑定を使うまでもない。この魔力の揺らぎ、付与(Mod)は一つか」
一郎が魔力を通して確認すると、そこには[+12% Lightning Resistance(雷耐性)]の文字が浮かび上がった。
「……今の私には、まだ贅沢品だな」
一郎は冷静に分析した。
雷耐性は既に上限の75%に達している。
変電所での損耗を考えれば、上限を超えて耐性を積むことには価値がある。
だが、限られたModの枠を「万が一の雷対策」に割くよりも、今のポートフォリオにはもっと優先すべきModがある。
「ベースの性能は今のボロ靴よりマシだ。なら、この変化のオーブで『洗浄』し、価値を再定義する。狙うは移動速度の改善だ」
一郎は迷わず、貴重な『変化のオーブ』をブーツに叩きつけた。
一回目、[+5 Intelligence(知力)]。
悪くはないが、爆発力に欠ける。
二回目、[+8 Mana]。
論外だ。マナは他で稼ぐ。
そして最後の一回。
[+10% Increased Movement Speed(移動速度上昇)]
一郎の指が止まる。
たかが10%。
だが、ファームにおける移動効率の上昇は時給アップを意味する。
雷耐性の積み増しによる「守り」よりも、移動時間の短縮による「攻め」の投資。
これこそが、一郎が最も愛する複利の源泉だ。
「……採用だ。この足回りの改善により、次回の周回では時給の向上が確定した」
リザルトの確認を終えた一郎は、次に自身の脳内にあるスキルツリーを開いた。
変電所での損耗から得た教訓。
MOMという保険は、受け皿であるマナプールが小さければ、一撃で「破産(マナ枯渇)」を招く。
「……余剰のポイントを、知力ノードへ。マナプールの最大値を拡張し、ショックに対する支払能力を底上げする」
リプランニングは完了した。
拾ったゴミを「資産」に変え、脆弱だった防衛線を「マナプールの拡充」で固めた。
一郎は新しく調律されたブーツを履き、冷え切った自室で静かに立ち上がる。
「時給を削られた分は、次の現場で倍にして回収させてもらうぞ」
窓の外、新宿のネオンは死に絶えているが、一郎の瞳には次なる利益への道筋が明確なチャートとして描かれていた。




