ep.22 生産ライン増設
新宿駅の深部、「地下変電所跡」。
かつて巨大な電力を都心へ送り出していたその空間は、今や高圧ケーブルの残骸がのたうち、漏れ出した火花が不規則に闇を焼く危険地帯だ。
「……さて、ここからが本番だ」
一郎は、先日ジャンク屋で手に入れた珊瑚の指輪の存在を指先で確認し、生存マージンの厚みを再認識する。
この変電所エリアはパックの密度こそ「北通路」に劣るが、個体の耐久力と属性攻撃のランクが高い。
効率(時給)を維持するためには、止まらずに「処理」し続ける必要がある。
先行する三体のゾンビが、漏電する水溜まりを蹴立てて突撃した。
『Melee Splash Support』を介した拳が、放電する変異ネズミのパックを捉える。
衝撃波が鉄錆混じりの壁を叩き肉塊を飛散させた。
一郎はその惨状を無視し、経験値という名のデータが脳内のシステムに蓄積されていくのを感じていた。
そして、変電所の最奥――巨大なトランスが並ぶ広間へ踏み込んだ瞬間。
ガントレットに埋め込まれたジェムが、熱を帯びた輝きを放った。
脳内の仕様書が更新され、新たな機能がアンロックされる。
『Raise Zombie: Level UP』
――最大召喚数:3 → 4
「……生産ラインが拡張したか」
一郎は間髪入れずに『Desecrate』を唱え、新たな死体を生成する。
地面から這い出した四体目のゾンビが、無機質な動作で列に加わった。
ミニオンが一体育ち、数が増える。
それは単なる戦力の向上ではない。
固定費(マナ予約)を変えずに、生産能力を33%向上させるという、経営者からすれば奇跡に近い「規模の経済」の達成であった。
「四体体制か。これなら、一体あたりの負荷を減らしつつ、制圧面積をさらに広げられる。……変電所最深部への『突入手順』を書き換える必要があるな」
一郎の歩みはさらに加速した。
四体のゾンビが形成する陣形は、狭い通路を完全に封鎖するほどの横幅を持ち、出会い頭のパックを文字通り「一括削除」していく。
敵の反撃を許さぬ圧倒的な処理速度。
回収されるカレンシーの頻度が上がり、一郎の懐で硬質な音が絶え間なく響く。
「時給が跳ね上がった。……やはり、現場でのレベリングこそが最強の投資だ」
変電所の核、主制御盤室の扉が見えてきた。
そこには、これまでとは比較にならない質量のパック――巨大なレア・モンスターの影が蠢いている。
だが、今の生産ラインなら、あの巨体もただの美味しい金にしか見えなかった。




