ep.21 業務効率化
新宿駅、地下三階。
かつては数百万の通勤客がせわしなく行き交ったそのコンコースは、今や湿った冷気と獣臭が滞留する「死の市場」と化している。
一郎は崩れた柱の影に身を潜め、自身の『アイアン・ガントレット』を確認した。
滞在税の工面に泣きついてきたクソガキとは、配給再開とともに別れている。
現場に未熟な人員を抱えるのは管理コストの増大を招くだけだ。
(……ようやく、ソロか。やはりこの方が「回し」が早い)
一郎が進めているのは、単一エリアの掃討ではない。
新宿駅の「地下三階・北通路」から「西口デパ地下」、さらには「地下変電所跡」までを一本の動線で結ぶ広域巡回だ。
敵の集団――パック(pack)がリスポーンするタイミングを計算し、最短時間で最大数のカレンシーを回収する。
それが投資家 一郎の「業務」である。
「……さて、連結の性能試験といこうか」
隣り合うソケットには、先の戦いで得た青いジェム―― 『Melee Splash Support(近接範囲攻撃補助)』 が連結されている。
一郎が地面から『Desecrate』で死体を捻り出し、そこからゾンビを再起動させた。
前方から、腐敗した皮膚を揺らしながら「地下徘徊者」のパックが迫っていた。
「……突撃。一括処理だ」
一郎の短い命令に従い、ゾンビが先頭の個体に拳を叩きつける。
その瞬間、衝撃が物理法則を無視して横方向へと飛散した。
殴られた一体だけでなく、パックを形成していた左右の敵も同時に衝撃波に呑み込まれ、汚泥のような血を撒き散らして沈む。
(……ほう。伝播効率は想定以上だな。これなら、この『北通路』を三〇秒は短く抜けられる)
これまではゾンビ一体につき一体の敵を処理する個別対応だった。
だが今はSplash効果による「パック単位での一括処理」が可能だ。
一郎は足を止めない。
崩れ落ちるパックの死に様など確認せず、地面に落ちた光る屑鉄だけを流れるような動作で回収し、次の「現場」へ向かう。
「一分一秒の遅滞が、そのまま時給の損失に直結する。連結一つでここまで歩留まりが改善するなら、次は『西口エリア』のパック密度もまとめて計算に入れるべきか」
九条を恐れて、目立たない低層でチマチマと小銭を拾っていた日々は終わった。
監視コストが浮いた今、彼は「北」「西」「深層」を繋ぐ高効率のファームルートを確立しようとしていた。
「予定より十五分は前倒しできそうだ。……この余剰時間で、一気に『地下変電所』のパックまで攻め落とすとしよう」
一郎は召喚獣たちを引き連れ、まるでスケジュール表にチェックを入れるような事務的な手際で、新宿の深淵へと消えていった。




