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ep.16 デパ地下のデッドライン

かつては「食の楽園」と呼ばれたであろう場所には、今や甘い香りの代わりに死と腐敗の臭いが充満していた。

新宿駅直結、百貨店の地下1階。

瓦礫の隙間から差し込む月光が、高級ブランド菓子の錆びついた看板を青白く照らし出している。


「おい、おっさん……ここ、マジでやべぇって。空気の重さがさっきと違うぞ」


クソガキが、一郎の背中に隠れるようにして辺りを警戒する。

一郎は答えず、無言で三体のゾンビを扇状に展開させた。


彼らの足元には、先ほど仕留めた「変異ラット」の残骸が転がっている。

だが、一郎の関心はその死体よりも、ゾンビたちが放つ『熱量』の変化にあった。


(パッシブの『攻撃速度』が効いている。先ほどから、索敵範囲に入った敵を排除するまでのリードタイムが30%は短縮されているな。……素晴らしい。召喚時に一度マナを払ってしまえば、その後の攻撃に一切の追加コストが発生しない。これほど福利厚生の不要な労働力があるだろうか)


一度呼び出したゾンビは、壊れるまで無償で働き続ける。

まさに一郎が理想とした、究極の「不労所得」に近い暴力の形だった。


その時。

陳列棚の影から、カチカチと硬質な音が響いた。


現れたのは、全身を外殻で覆われた『大百足メガ・センチピード』の群れだ。

一匹一匹が成人男性の腕ほどもあり、その鋭い鎌には金属すら腐食させる毒液が滴っている。


「ギチッ、ギチギチギチッ!」


数にして二十以上。

本来なら、遭遇した時点で「死」を意味する物量だ。


「ヒッ、おっさん! 逃げようぜ、こんなの多すぎる!」

「無駄だ。逃走にかかるエネルギーと捕捉されるリスクを考えれば、ここで一気に『処理』するのが最も合理的だ。……やれ」


一郎が短く命じると、三体のゾンビが地を蹴った。

以前のような鈍重な動きではない。

パッシブで強化された反射速度により、ゾンビは百足の突進を最小限の動きで回避し、その頭部を容赦なく踏み抜いていく。


ベチャッ、と緑色の体液が飛び散る。

一体、また一体。

一郎は、ゾンビが攻撃を受けるたびに変動するライフバーを冷静に観察していた。


肉壁ミートシールドがなくても、この殲滅力なら強引に押し切れるな。……だが、単体攻撃だけでは効率が悪い。やはり、複数のターゲットを同時に減衰させる『範囲攻撃』が必要か)


百足の王と思わしき、一際巨大な個体が鎌を持ち上げた瞬間。

一郎の視界に、金色の光が走った。


『ドロップ確認:サポートジェム【Melee Splash Support(近接範囲攻撃補助)】』


「……ほう。ようやく『サポートジェム』が届いたか。これで単調な単体攻撃ともおさらばだ」


一郎は、その結晶を迷わずアイアン・ガントレットの3リンクスロットの「空き」へと叩き込んだ。

これまではリンク先に何もない、文字通りの「素」の状態で戦わせていたゾンビだが、この『近接範囲攻撃補助』が接続された瞬間、その性質は劇的に変化する。


ガチン、と脳内でピースが嵌まる音がした。

直後、ゾンビが繰り出した拳が、命中した百足だけでなくその周囲にいた個体までも衝撃波で一気に粉砕した。


「は……? おっさん、今何したんだよ!? ゾンビが爆発したみたいに……!」

「サポートジェムを充実させただけだ。……さあ、残りのモンスターを一掃するぞ」


一方的な蹂躙が始まった。

かつてのデパ地下は、一郎によって、急速に静寂を取り戻していく。

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