ep.12 ポートフォリオの有効性証明
「……排除する!」
執行官の指がトリガーを引いた。
狭い廃棄区画に、自動小銃の激しい破裂音が反響する。
本来なら、非登録市民の体など一瞬で挽き肉に変わっているはずだ。
だが――。
ベチャッ、ベチャッ!
湿った音と共に、放たれた弾丸のすべてが「肉の壁」に吸い込まれた。
一郎の前に立ちふさがった三体のゾンビ。
その分厚い背中の向こうにいる一郎には、一発の弾丸も届いていない。
(……ライフバーが、1ミリも減っていないだと?)
一郎は、網膜に表示されたゾンビたちの赤いゲージを凝視した。
レベル46の召喚士が放つゾンビの耐久力は、この世界の「物理法則」を完全にバグらせていた。
「バカな……、至近距離で20発は叩き込んだんだぞ!」
執行官が悲鳴のような声を上げる。
弾丸は確かにゾンビの腹を食い破り、中身をぶち撒けている。
だが、痛みを感じない彼らにとって、それは単なる「描画上の破損」に過ぎない。
(……ああ、これはいい。投資効率が極めて高い。私が一歩も動かずに、相手のリソース(残弾数)だけが一方的に枯渇していく)
一郎は恐怖で震えていたはずの指先で、そっと鼻眼鏡を直すような仕草をした。
「無駄な消耗はやめるべきだ。あなたは今、一円の利益も出ない作業に貴重な命を注いでいる」
「黙れ、化け物……!」
パニックに陥った執行官が予備のマガジンを叩き込もうとした瞬間、一郎はゾンビに「指示」を出した。
殺せ、ではない。
「……右腕を、叩き折れ」
ズン、とゾンビが踏み込む。
銃を構え直そうとした執行官の腕を、腐った巨大な手がつかみ、そのまま万力のような力でひねり上げた。
鈍い破砕音。
絶叫する執行官の足元に、空になった自動小銃が転がり落ちる。
「……殺しはしない。わざわざ警察の本気を引き出すような『高い買い物』をするつもりはないんでね」
一郎は吐き捨てるように言い放った。
死体なんて残したら、捜査ランクが跳ね上がり、当局の「本気」を買い取ることになる。
そんなリスク、これからの隠居生活には一秒だって必要ない。
悶絶する執行官をゴミのように放置し、一郎はゾンビを連れて霧の奥へと消えた。




