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ep.11 初めての資産運用

「……はぁ、はぁ、……死ぬかと思った。いや、今も死ぬほど痛い」


廃棄区画の冷たいコンクリートの上で、一郎は這いつくばっていた。

足元には、衝撃波の乱れ打ちによって文字通り「肉片」に変わった巨犬の残骸。

その中央に、血に濡れた一際鮮やかな緑の石が転がっている。


一郎は震える手でそれを掴み取った。


【スキルジェム:Desecrateデセクレイト


(手に入れた……。これで3万Gの『不良債権』が、稼働可能な資産に変わる……!)


一郎は震える手で、自身の右腕を覆う古びた「鉄鋲打ちの籠手アイアン・ガントレット」を引き寄せた。

文明崩壊前のジャンク品を改造した無骨な防具だが、その表面には、一郎の網膜にのみ青白く光る「3つの連結されたソケット」が存在している。


今、そこには『被ダメージ時キャスト(青)』と『効果範囲拡大(青)』、そして『衝撃波(赤)』が、細い光のリンクで繋がれた状態で収まっている。


「……ここだ。頼むぞ、認識してくれ」


一郎は籠手の側面に空いた、まだ何も嵌っていない独立した緑のソケットへ、デセクレイトを押し込んだ。

カチリ、と機械的な音と共にジェムが固定される。

直後、籠手を通じて一郎の脳内へ、不気味で冷徹な「死体生成」の術式が流れ込んできた。


(……試すぞ。まずはデセクレイト、そして……レイズ・ゾンビだ!)


一郎が念じると、籠手の緑の石が鈍く光り、足元の空間からドロリとした肉塊が湧き出した。

間髪入れず、青いソケットのジェムを意識の中で叩く。


「……起て、私の『肉壁』!」


死体からバキバキと骨が組み換わる嫌な音が響く。

泥の中から這い出したのは、三体のゾンビだった。

かつての人間や犬の意匠を継ぎ接ぎにしたような、感情の欠落した醜悪な肉の塊。


だが、一郎にとってそれは何よりも愛おしい「保険」に見えた。


(……素晴らしい。この圧倒的な安心感。これなら、私が直接殴られるリスクはかなり……いや、無視できるレベルまで下がる)


一郎が歩き出すと、三体のゾンビが彼の周囲を囲うように、ズシン、ズシンと足音を立てて追従する。

まさに「動く肉壁」。

これこそが一郎の求めていた平穏の形だった。


しかし、安堵したのも束の間。

廃棄区画の出口付近から、鋭い声が響いた。


「――そこまでよ。手を上げなさい」


暗がりの向こうから、タクティカルライトの強烈な光が一郎を照らす。

九条燈子……ではない。

だが、彼女が連れている執行官の一人だ。

最新鋭の自動小銃を構えた執行官が、ゴミ溜めから這い上がってきた不審な男――一郎を、冷徹な目で見下ろしていた。


「非登録区域での不審行動、および徴税官への暴行容疑だ。大人しく跪け。……その、周りにいる気味の悪い『化け物』の操作も止めろ。少しでも怪しい動きをすれば即座に排除する」


一郎の背中に、冷たい汗が伝わる。

昨日の自分なら、ここで膝を突いて命乞いをしていただろう。

だが、今の彼の前には、3万Gと命の危険を冒して手に入れた「資産」がある。


(……射殺? 冗談じゃない。せっかく手に入れた肉壁を、お役所仕事で台無しにされてたまるか)


一郎はフードを深く被り、網膜に浮かぶゾンビたちのステータスを確認した。

レベル46のプレイヤーが召喚したゾンビだ。

その耐久力は、並の防弾チョッキを遥かに凌駕する。


「……悪いが、私にも生活があるんだ」


一郎の呟きに合わせ、三体の肉壁が、ゆっくりと、だが威圧的に一歩前へ踏み出した。

それは、社畜として虐げられてきたおじさんが、初めて暴力でもって国家へ反撃する瞬間だった。

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