4話
「格好のいい言葉を並べているが、やっていることはただの拉致だ」
思わず、三人は顔を見合わせた。
「自分の名前も、俺たちの名前も記さずに、一方的に要求だけを書いている。これだから神も宗教も嫌いなんだ」
玉座は不快そうに無精髭を撫で、二つの太陽を忌々しげに睨みつける。
「お前らも、あまり真に受けるな。おだてられて調子に乗れば、向こうの思う壺だぞ」
少年たちは気づいた。自分たちが、神への非難の言葉を無意識に恐れていたことに。
「……エロい目で見るなよ」
そう言いながら、玉座はコートを脱ぎ、Tシャツ姿になった。そこには、ニヤリと笑うサイボーグパンダが大きくプリントされている。
「見てませんよ」
張り詰めていた空気が緩み、少年たちの表情も和らいだ。
「まあ、とにかく。この島から脱出しろってことだな」
「ええ。だから、みんなで協力して、一緒に脱出しませんか?」
「断る」
一切の迷いもなく言い切った。
「……どうしてですか?」
「お前らが嫌いだからだ」
三人をぐるりと見回す。
「揃いも揃って、女にモテそうな顔をしてやがる……。いいか? 俺が学生時代に好きだった女子は、お前らみたいな顔のいい男に軒並み奪われた。協力? 冗談じゃない。お前らの力なんか借りるつもりもないし、貸すつもりもない。俺はイケメンが大っ嫌いなんだよ!」
子供じみた言い分だが三人は笑えなかった。巨大な手のひらで握り潰されるような、不思議な息苦しさに襲われていた。
「分かったら、二度と話しかけてくるな。じゃあな……」
鼻を鳴らし、玉座は去っていった。
その背中が遠ざかってから、ようやく解放された三人は、しばらく茫然としていた。
「……なんだったんだ、あれ?」
答えは出ない。だが、一歩づつ遠ざかっていく芦屋玉座という男が只者ではないことだけは、全員が理解していた。
「蛇に睨まれた蛙、って感じだったな……」
「分かる。体、動かなくなって、マジでヤバいと思った」
「僕たちのこと、はっきり嫌いだって言ってましたね」
「あそこまで面と向かって言われたの、初めてだな……」
「っていうか、なんで嫌われなきゃいけないんだよ。おかしいだろ!」
「仲間と協力して、って書いてあったのに……」
どうするべきか考え始めた、その時だった。
「ぎゃああああああ!!」
どうやらそれは玉座が叫んでいるらしい。
「まさか……魔物に襲われたのか?」
「魔物!?」
「行ってみよう!」
駆けつけた三人が目にしたのは、砂浜に座り込む玉座だった。
その頭の上には、拳ほどもある巨大な《てんとう虫》が鎮座している。
「助けてくれ! 俺は虫が苦手なんだ!」
頭を上下左右に振っているが、手で触れることはできないらしく、奇妙なダンスのようになっている。
「こんな馬鹿デカい虫がいるなんて聞いてないぞ!誰でもいいから助けてくれ!」
「ついさっきだぞ!『お前らの力は借りない』って言ってたのは、どこに行ったんだよ!」
「……かわいそうだから、助けてあげようよ」
北方が二階の顔を覗き込む。
「なんで俺が?」
「ごめん、僕も虫が苦手なんだ」
「俺だって、こんなデカいてんとう虫、見たことも触ったこともねえよ……」
文句を言いながらも、二階は両手でひょいと虫を持ち上げた。すると、てんとう虫は羽音を立てて森の方へ飛び去っていった。
「…………」
三人は、黙って玉座を見つめた。
あれだけ啖呵を切り、十分も経たないうちに助けを求めた男が、最初に何を言うのか。全員が固唾を呑んで待っていた。
「……リーダーなら」
「え?」
「加入してやる以上は、この俺がリーダーだ! その条件なら、お前らと一緒に協力してやってもいい」
玉座は胸を張った。
「はい、もちろんです! ねえ、みんな?」
「それでいいんじゃないか?」
北方の問いかけに横澤が頷いた。
「ったく、チョロすぎんだろ」
「そこのやつ! 今、何か変なこと言ったか?」
二階をビシッと指さした。
「いえ、何も言ってません。よろしくお願いします、リーダー!」
「よろしい!それなら今日が、芦屋玉座率いる最強パーティーの結成日だ!お前ら、俺の後に続けぇ!」
「「「オー!」」」
こうして、イケメン嫌いのオジサンと三人のイケメンによる、
予測不能な孤島脱出生活が、賑々しく幕を開けた。
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