1話 ~キスより少し遠い距離~
眩いばかりの白砂の上に、男は無造作に打ち棄てられていた。
幾重にも重なる波音が、優しくも執拗に男を揺さぶる。しかし、その体はピクリとも動かない。
降り注ぐ太陽は、彼の豊かなパーマの曲線を温め、数日手入れを怠った無精髭が顎のラインを縁取り、妙な存在感を放っている。
砂を踏みしめる三人分の足音が、男のもとへ近づいてきた。
短い会話のあと、三人の中で最も幼い顔立ちの少年が、倒れている男のすぐそばで膝をつく。
少年は男の顔を覗き込み、慎重に距離を詰めていく。海風が二人の間を吹き抜け、吐息がかすかに触れ合うほどまで近づいた、その時だった。
倒れていた男の瞼が、ぱっと開いた。
「……ッ!? 何をしている!」
男は反射的に両手で少年の胸元を押し、距離を取った。
「ち、違うんです! これには深い理由が!」
突き飛ばされたみつきは砂浜に尻もちをつき、戸惑った表情を浮かべる。
男の黒目がせわしなく動き、周囲の状況を確認する。見渡す限りの白い砂浜、やけに鮮やかな色彩の植物。そして、すぐ近くに立つ、個性の異なる三人の少年たち。
「ここは……どこだ……。私は、誰だ……? いや、私は芦屋だ。芦屋玉座。一月一日生まれの山羊座、O型。好きな女性のタイプは上戸彩。清涼感と脱力感、明るさの奥に潜む妖艶さ――それが彼女の魅力だ。モスバーガーではいつもテリヤキチキンとロースかつバーガーを頼む。香水はイッセイミヤケ。靴下はユニクロに絶対の信頼を寄せている。最近は肌のために、キレートレモンでビタミン補給も始めた。……そんな男だ」
「戸惑うのは分かります。僕たちも同じなんです」
「黙れ! ドスケベ淫乱中学生!」
最後まで読んでいただきありがとうございました。
「ブックマーク」と「いいね」を頂ければ大層喜びます。
評価を頂ければさらに喜びます。
☆5なら踊ります。




