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第一章 混念徘塊

こんにちは。

私自身の二作目になります。

まだまだ未熟者ですが、今の自分の表現力を出し切った作品です。

よろしければ最後までお付き合いください。

           第一章 混念徘塊(こんねんはいかい) 

 

 ~ 混念徘塊 1/4 ~

 月明かりが小さな窓から差込む薄暗い部屋で何かは動いていた・・・・


「見ての通り奴です、これで四人目です。」

鑑識の男が中年の刑事を見て言った。中年の刑事はただ眺めていた、部屋中に飛び散った血液、人の形をしていない死体、こんな光景を見るのはこれで四回目だった。

「こいつは何を考えているんだか、いやこいつらはか・・・・」



 いつも通りの朝だった。大学に行く為に起き、少し時間に余裕があったから朝食を取りながらTVをつけていた。たまたまニュースがやっていた、普段から朝テレビを見ないからか、画面から流れるニュースに新鮮さがあり、朝食を取りながら目を向けていた。

「これで四人目の犠牲者です・・・・・」

「四目人か」

世間はとある事件の話題で持ちきりだ。

 解体魔、解体屋・・・・・

多くの呼び方を持つ殺人鬼が多くのメディアの注目を集めていた。最初の事件は半年ほど前になる、一人の男の遺体が見つかった。普段の殺人事件と同じように処理されるはずだった。しかし、とある掲示板に事件現場の画像が流出した。まさにバラバラ、この画像が事件を変えた。明らかな猟奇殺人、そして事件は続いた。

TVから流れる専門家の意見は退屈だ、犯人の精神状態?宗教的?

「こいつは何も考えてないよ」

俺はTVを消して朝食を終えいつも通り大学に向かった。


 大学の授業中に着信があった、高校の友人からの連絡だった。高校時代の二つ上の先輩が亡くなったらしい、その通夜についての連絡だった。最初にそのことを聞いた時は特に興味はなかった。正直な所、先輩の顔はぼんやりと思い出せるが特別深い仲ではなかった人だった。名前もしっかりと思い出せなかったし、だからついさっきこの名を聞いたことをすぐに思い出せなかったのかもしれない。


 薄暗い部屋の中に一つだけ明かりの点いた机に中年の刑事がいた、男は鑑識の報告結果を見ながら、深くタバコの煙を吸い込んだ。この刑事はこの事件に一件目から関わっていた、前代未聞のこの事件にはすでに対策本部が出来ていた。しかし、本庁から派遣された奴の計らいで俺達も捜査を継続させてもらっている。

「こいつは何人なんだ・・・」

刑事は鑑識記録を見直して、額に皺をよせていた。鑑識を見る限りでは同じ人物の犯行のように思える、しかし決定的な違いがあった。こいつは毎回癖が違う、どんな犯罪者も必ず癖がある。殺し方、場所、時間・・・そのすべてに全くの習性が見られない。だから警察は何も動けない、手がかりがないのだ。

迎戸(むいかど)

後からカップ麺を食べながら一人の男が話しかけてきた。

上邊(うわべ)か、あれだけのモノを見てよく食べれるな」

上邊と呼ばれた男は近くの椅子を引き寄せ座った。

「どうだ、犯人の目星はついたか?」

「それなら、こんな机に張り付いてやしないよ」

上邊は大きく頷き麺を口に一気に含んだ。

「で、何のようだよ?お前から来るってことは何か思い当たることがあったのだろ」

「実はな、凶器のことだ」

「凶器?」

「あぁ、上は必ず何かの凶器があると考えている。だから俺達は毎晩徹夜で必死さ、だからな、調べるほどに答えが分からなくなっていくんだよ」

「どういうことだ?」

上邊は三人目と四人目の被害者を指差した。

「この二人は素手で殺されている」

迎戸は唖然としていた。

「引きちぎった様な痕があったんだよ」

「引きちぎる・・・・・」

タバコの煙が二人の間を流れ静かに消えていく・・・・



 仕方のないことだった、血に染まる床、動かない塊、ただそれを見て微笑む姿。振り下ろされる凶器と共に飛び散る赤、塊は片と化す。

「僕はまだ終われない。やらなくちゃ、まだこんな所で終わっていいはずはないんだ。だから神様は僕にチャンスをくれたんだ」

 血に染まった姿で男は繰り返す、解体作業をただただ・・・・・・



 結局、通夜には行かなかった。しかし数日後、たまたま高校の友人に会った。

「先輩、解体屋に殺されたんだぜ。まさか知り合いから犠牲者がでるなんてさ、何か今までは他人事だったけど急に怖くなったよ」

「確かにそうかもな」

俺の反応に友人は少し不思議そうな顔で俺を見ていた、俺は特に気にすることなく適当に話を続けて友達と別れた。

 最近の大学生の経済状況は皆さんご存知だろう、生きていくのには金がかかる。だから多くの大学生はアルバイトをしている、おれ自身も例外ではなく働いている。暫くの間、大学のレポートやらで忙しくて顔を出すことが出来なかった。

「こんちわー」

 俺はいつも通りこの古びた骨董品屋遊夕堂(ゆうゆうどう)に入った。店の中は薄暗く色々な物が無作為に置かれている、この店は駅からも少し離れており殆ど客が来ることはない。と言うか、気付くことも出来ない店だ。

六夜(ろくよ)さーん、居ますか?」

ひと気のない店に俺の声が響いた、そして店の奥から声が返ってきた。

「いるよー、ちゃんと買ってきたかーい?」

「一番新鮮なのを選んできましたよ」

俺は店の奥へ歩いて行った、そこには青く光る大きな水槽が一つあった。水族館でしか見たことない様な大きな水槽の中にそれはいる、青く怪しく光る目をした大きな魚が静かに姿を現す。

「元気そうですね」

「お前さんが中々来ないから、魚の餌は食べ飽きた」

「すいません、大学が忙しくて。暫くはちょこちょこ来られますから」

「で、例のモノを早く、早く」

俺はスーパーの袋から生の海老を取り出し、水槽の中へ入れた。大きな魚は嬉しそうにそれに食らいつく、あまり見ていて気持ちいいものではないが、魚であっても喜んでいることは良く分かった。買って来た海老を食べ終えると大きな魚は水槽の底へと体を下ろし話始める。

「お前さんが来ないから、もう五人だよ」

普段通り大きな魚は話しかけてくる。この大きな魚が六夜さん、この店の主で俺の雇い主。この人?この魚の話をすると長くなるので今回は省略、一つ言えるのはこの姿は仮の姿でちゃんと人間の形をしていることもあるらしい。ただし俺はこの姿しか見たことがないので本当かどうかは知らないけど・・・・。

「解体屋でしたっけ?俺は四人までしか知らないですけど」

「昨晩また一人殺られたよ、まだ現場に行ってないからそいつかどうか分からないけどね」

俺は話をしながら店の中を見渡した。

(はく)の奴は?」

「伯ならその辺で寝ているだろ」

俺はもう一度店を見渡した、店の隅にある古い大きなソファーの上に微かに動く者が見えた。ちらちらと見えていた銀色が黒い毛布に覆われた。

「伯、寝てばかりいないでそろそろ起きてくれ。仕事だよ」

 水槽で寛ぐ魚が言うと、どうも説得力に欠けるように思えるのは俺だけではないはずだ。黒い毛布に覆われたものは静かに起き上がった。銀色の綺麗な髪を振り女は猫のように眠い目をこすり俺達を見つめる。

嬉々也(ききや)か・・・・」

女はそう言って長い綺麗な自身の髪を上手に枕のようにして眠りについた。

「六夜さん、伯の奴また寝ちゃいましたよ」

「・・・・・・・・・・」

六夜さんは俺をじっと見つめていた。

「わかりました」

俺は伯に近づき別の人に言うように言い始めた。

「あーあ、せっかく新しい味出たのになーあ。新商品もたくさん買ってきたのに」

伯はそーっと俺のことを見ている、俺は目線を合わせずにスーパーの袋からスナック菓子を出して開けようとした。

「待て」

艶やかで気品のある小さな声が聞こえてきた。俺は気にすることなくスナック菓子を開けて食べようとする。

「待てって言ってるだろ」

さっきより少し大きな声が聞こえた。俺はそれでもスナック菓子を口に運ぼうとした。寝ていたはずのものは俊敏に動き俺の手からスナック菓子の袋とスーパーの袋を奪った。

「ユッケ風味か、科学の進歩と言うものは常に私の想像の先を行く」

伯はソファーの上に胡坐をかき、スナック菓子を頬張る。この女が伯、俺と同じこの店の従業員である。俺よりも長くこの店に勤めている。普段は寝ていることが多く、俺が知っている限り好きなものはお菓子くらいだ。見た目は俺と同じ年位だがえらく落ち着いている、普通にしていれば間違えなく美人であろう。俺も最初見た時は目を奪われた、長く美しい銀色の髪に端整な顔立ちは人を魅了するには十分すぎる代物だ。

「伯、ちょっと嬉々と一緒に出かけて来てくれ」

奥の水槽から声が聞こえた。伯はスナック菓子を食べながら立ち上がり、自身の臭いをかいで言った。

「わかった」

そう言って俺を見てきた。俺はボサボサの髪を手で整える伯を見て言った。

「風呂に入ってきてくれ」

伯は気だるそうに返事をして風呂へ向かった。

 

 俺は伯が風呂に入っている間に水槽の掃除などの仕事を済ませ、ソファーで売り物の本を読んでいた。

「目がようやく覚めた、覚めた」

伯が裸同然の姿で風呂から出てきた、一応異性である俺を気にすることなく服を着始める。正直な話、嬉しくも悲しくも感じている自分が居る。伯は多少体の凹凸で者足りぬ所もあるが、十分なほど魅力的だ。白く美しい肌にすらりとした体は、本来こんな所で埃をかぶっているべき代物ではない。うちの大学にいたら間違えなくミス・キャンであろう。

「嬉々、少しは自重しろ。私の体が魅力的なのは十分に自覚している、だがチラチラ見るとか指の間から見るとかしてくれるか」

俺は思わぬ指摘?いや気付かれていたことに顔を赤くしていた。伯は嬉しそうに俺を見て笑っていた。

「だから、ガキは困る」

「・・・・・・・・・・・・・・」

俺は何も言い返さず、伯の方から目線を逸らし本に目を向けた。暫くして伯の準備が出来た。黒地に赤の刺繍が施されたボレロに長い銀髪を結わいた姿は、綺麗でどこか凛々しい。外出の時は伯の服装はいつもきちんとしている、どこで手に入れてくるのか上品でどれも上質な物ばかりだ。

「さぁ行くぞ、嬉々」

「あぁ」

 

 

 ~ 混念徘塊 2/4 ~

 俺は伯と二つの事件現場へ向かった。最初に昨晩起きた五人目の現場へと向かった。車での運転中、助手席に座る伯は退屈そうに外の風景を眺めていた。俺も少しは話かけたがあまり会話が続くことはなかった。

「今回の奴はやっぱり境界の向こう側の奴なのか?」

伯はそのまま外の風景に目を向けたまま言った。

「今はどうか分からないが、二人目まではまだ越えていなかった。だから六夜は動かなかった」

「どんな奴だと思う?」

伯は何も言わず俺を見て、また外へ視線を向けた。

「なんだよ」

 

 俺達は車から現場の廃ビルを見ていた、周辺には複数の警官達がいた。多くの報道人が現場の状況などを話している。伯は車から降りることなく廃ビルを見ていた。

「何か聞こえるか?」

伯は俺に尋ねた。俺はさっきから聞こえるこの騒がしさをありのまま伝えた。

「騒がしな、色々な声?が聞こえるよ」

「こいつは違う、次に行こう」

俺は伯の言ったことに従ってペダルに足を置いた。俺にはまだこう言う事件のことはよく分からない。だから、俺に違和感があっても、伯の判断を否定することも何も出来ない。所詮俺は境界の内側の人間で、外のことは知っていることしか見えないし、触れられるかも分からない。ペダルを踏み込もうとした時、車のガラスを叩かれた。

「ひさしぶりだね、磨姫路(まきろ)くん」

ガラスの向こうには中年の男が立っていた。

「迎戸さん、久しぶりです」

この男は刑事だ、以前お世話になったことがあって面識がある。

「もう大丈夫かい?」

「はい、おかげさまで」

迎戸さんは怖い、彼の目はいつも笑っていない。相手の動きを注意深く観察している、今も俺をじっとその目が捕らえている。

 「それは良かった。今日はえらいべっぴんさんを連れているね、羨ましいよ」

迎戸さんは伯をいつもの目で笑いながら見ていた。伯は嫌そうに会釈をした。俺は伯がこの人を嫌いなのがすぐに分かった、だからすぐにこの場を離れることを決めた。

「そんな、ただのバイトの先輩ですよ。仕事中にわざわざ声をかけてもらってすいません。それではまた、お仕事頑張ってください」

俺はそのまま車を進めた。迎戸さんは笑顔で俺達の車を見送っていたが、確実に何かを疑っていた。

そのまま車で次の現場に向かったが、伯がすぐに「ここはあいつだ」とだけ言ってすぐにその場を後にした。


 俺達は遊夕堂に戻った。俺は六夜さんに、4人目の被害者の母親が犯人を目撃しているらしいから話を聞いて来いと言われ、俺は病院の前にいる。このバイトは給料がえらくいい、その辺の学生が聞いたら目を疑うような額を貰っている。それにシフトも自由だし、たぶん頼めば食費や交通費も出してくれると思う。伯によれば六夜さんは初めてバイトを雇ったらしい、だから相場も分からずえらく羽振りもよい。それもあってか俺は基本的に六夜さんには忠実だ、大抵の頼みは引き受ける。

この病院に来るのは半年ぶりだろうか、あの時以来、俺は普通の人間が聞こえない声がはっきりと聞こえるようになった。だから仕事以外ではこう言う場所に近づかない、声の主もこっちが特別意識しなければ特に何かしてくる訳ではないが、でもあまり気分のいいことではない。

 病室に向かう途中に多くの声が聞こえた。俺はそれらを気にすることなく歩いていると、目的の病室のある階で視線を感じた、俺はその視線のある方に目を向けると少女がいた。真っ白な病室に一人で窓際のベッドから俺を見ていた。俺はその子に軽く笑顔を見せた、少女はとても嬉しそうに俺に笑顔を返してくれた。でも少女の笑顔とは別にその部屋には少女と別の声?叫びに満ちているように俺は聞こえた。

俺はその病室を通り過ぎて目的の病室に向かっていた。俺がその病室を見つけた時、病室から二人の男が出てきた。その二人の職業は何となくすぐに分かった、俺は通路の脇へ体を寄せ男達とすれ違った。

「駄目ですねあれじゃ、息子さんを失ったショックでやられちゃっている」

「少女がかぁ・・・・」

二人組みの男は顔を曇らせぶつくさ言いながら去っていった。

「少女?」

俺は二人の姿が消えたのを確認して病室の中へと入った。



 迎戸はまた薄暗い部屋の中で一人報告書などを見つめ、自身の頭を整理していた。


「引きちぎった様な痕があったんだよ」

「引きちぎる・・・・・」

「あぁ手形があったんだよ。指紋もしっかりついていた」

迎戸は驚いた顔で上邊を見た。

「でも指紋はみんな死んだ人間のもので、それに指紋と手の大きさが一致しない、あの手の大きさは間違えなく子供なんだよ」

「・・・・・・・・・・・・」

「上もこの情報は一部にしか流してない。このことが世間に流れればどうなるか分かるだろ、ただでさえ現場写真の流失で上は頭が痛い。全く世間は猟奇殺人だの解体屋だの言っているが、これは本当に人間のやったことか調べるほどこっちが疑いたくなるよ」

「人間じゃないか」

迎戸は奇怪を信じるような男じゃない、彼は以前にも説明出来ないような事件に出会っている。だからこそ今回は人間の仕業にしか思えなかった。そして何より五人目の被害者の違和感が引っかかる。短くなったタバコを灰皿に押し付け立ち上がった。



 俺はバイトの日はよく遊夕堂に泊まることがある、たいていは六夜さんに頼まれて泊まる。今夜も六夜さんの頼みで泊まることになった。夕食はたいてい俺が作ることになる、魚の六夜さんはもちろん無理、伯は料理をしている所を見たことはない。夕食を二人分作り早めの風呂を済ませ、俺は缶チュウハイを片手に六夜さんと話していた。伯は夕食を終えるとすぐに寝てしまっていた。俺は今日の仕事のことを大まかに説明した。

「一応、目撃者の話では犯人は少女だと言っていましたよ」

六夜さんは水槽の底に体を下ろしていた。

「あと伯は、五人目は違うって言ってました。でも俺にはすげーたくさん聞こえてましたけど」

「伯が言うなら間違いあるまい、五人目は模倣犯か何かなのだろ。やはり今回の奴は分からないな、殺人の動機、いや何故あんな殺し方をするかも」

俺はチュウハイを口に含み咽を潤した。

「バラバラの理由ですか?」

 そうだよ、この手の猟奇殺人には必ず思い、悪意に近い何かがある。単にバラバラにするにも犯人は自身の個を示す、体の一部を盗んだり、並べたり、何かしらの個を示す。例外にそのこと事態に快感を覚える奴もいるが、その割には間隔や手段が適当すぎる」

「何も考えてないんじゃないですか?」

「四人目の現場に行った時はどうだった?」

俺は少し酔った頭を動かした。

「少しは聞こえましたけど、静かに感じたような?」

「悪意なき殺人か」

「悪意のない殺人があるんですか?バラバラにしているのに」

六夜さんは水槽の底から体を離し、静かに泳ぎ始めた。

「あくまで現場の状態からの推測だよ。お前は五人目の現場では五月蝿いほど聞こえたのだろ?向こう側の奴らは少なからず思いや感情に反応する。それが殺人をするほどの思い(もの)なら当然、それなりの興味を示す奴も多くいる。人間だって同じだろ、普通の事件じゃたいして興味を示さないが、殺人ともなれば野次馬達が放っておきまい」

「でも、四人目は静かだった」

「ますます手掛かりがなくなっちゃうよ」

ここでバイトを始めてもう少しで一年が経つ、最初の頃は色々驚いたり、信じられなかったりしたけど今ではこんな話もすんなり信じてしまう。慣れの恐ろしさを痛感するなぁ。

「嬉々、暫くここに泊まれ。深夜の見回りでもするか」

俺は軽くチュウハイを吐き出しそうになった。

「俺、これでも学生ですよ!!正直な話、去年はバイトで忙しかったりして単位あんまり取れてないし、今年ミスったら留年が」

「私は今までに強要したことはない、自己の責任だと思うが」

「いや、今回は無理です!!それにもし会っちゃったら俺、間違えなく殺されますよ!!」

「普段の二倍だそう」

「やります」

俺は反射的に答えていた、自身の命を簡単に売ったのだ。

「頼んだぞ」

そう言って六夜さんはまた水槽の底へ体を下ろし静かになった。俺は店の隅のソファーで寝ている伯に布団をかけ、青白く光る水槽の明かりを消し眠りについた。



 ~ 混念徘塊 3/4 ~

 遊夕堂に泊まり始めて数週間がたった、大学には何とか出席だけを取りに行くことは出来ていた。毎晩、伯と二人で当てもなく町を回っていた。伯の奴は何か感じるのか一人でどこかへ行ってしまうことも度々あり、その度に俺は「今日はやめて」と祈っていた。

「これか」

伯はそれだけ言ってどこかへ消えてしまった。前に一度、伯を追いかけたこともあったがすぐに見失ってしまった。今日もいつも通り祈りを捧げつつなるべくひと気の多い所を目指していた。自身の後に迫る気配に気付くこともなく。


 ひと気のない公園に数人の若者達がいた、彼らは目の前に広がる光景があまりにも不自然で信じることが出来ていなかった。若い男の腕は肩から綺麗に千切り取られ、男は自身の身に起こったことを正しく理解出来ていなかった。

「おい、腕が取れちゃったよ。すげー痛い、痛い!!!」

男は叫びと共に崩れ落ちる、仲間の内の一人が言った。

「解体屋だ、解体屋だよ、殺される」

仲間達は一斉に片腕の男を置いて逃げ出して行く。

「やめてくれ、たのむよ、お願いだから・・・・」

片腕の男は痛みを忘れ何も答えぬ相手に言葉を投げかける。解体屋はただ男の片腕を握り締めそれを注意深く見つめる、それを更に二つに裂いて中を覗き込む。そして、無表情に男の片腕を投げ捨て、男へ近づいて行く。

「そいつをバラしても何もないよ」

公園のベンチに腰掛けた伯が解体屋に話しかける。解体屋は伯を見つめる。

「お前が求めている何か、私なら持っているかもよ」

伯は凝った作りをした拳銃を構え、銃口を解体屋に向ける。


「磨姫路くん」

俺は突然聞こえた声に背筋を凍らせた、恐る恐る振り向くと知っている顔がいた。

「迎戸さん、驚かさないでくださいよ」

正直な話、薄暗い夜道の迎戸さんの顔はそれなりの怖さがあった。

「驚かす気はなかったよ、こんな時間に一人で歩いていると危ないよ。最近は色々ぶっそうだからね」

「そうですね」

俺はこの人の目が嫌いだ、今も身のない話をしながらも俺の反応を観察している。

「磨姫路くんは解体屋を知っているかい?」

俺は突然の話題に僅かに反応が遅れてしまった。

「まあ、人並み位には知っていますけど」

「人並みねぇ、刑事の私がこんなことを言うのも難だが面白い噂があってね」

俺は迎戸さんの雰囲気の変化を感じていた、解体屋の名を出した時から確実に俺に何かを求めている。それが俺にとって良いことでないのはすぐに分かる。

「面白い噂ですか?俺は聞いたことはないですけど」

「実はね、解体屋の正体は子供だって噂があるんだよ」

迎戸さんの言葉に俺はふと先輩の母親が言っていたことが頭を過ぎる。

「えっ、子供ですか?」

俺は何とか自然に答えることが出来た。すると迎戸さんは一瞬、俺の顔をじっと見つめ笑い始めた。

「はっはっは・・、冗談だ。ちょっとからかっただけだよ」

迎戸さんはそれから適当な話をすると別れ告げて、姿を消した。

「あの人と話すと神経が磨り減るなぁ」

その時、銃声が鳴り響く。俺はとっさに人気のある方に走った。しかし、誰も銃声に気付いている様子はない。

「伯の奴」

俺は銃声の聞こえた方向と自身の感覚を信じて走りだした・・・・・


 俺が目的地に着くまでに何発かの銃声が聞こえた。聞き取ることと感じることに集中していた為に、正確な数は分からないがそれなりの数が放たれたはずである。

「伯!!!」

俺が公園に着くとベンチにぐったりと伯が座っていた。公園は酷く荒れていた、飛び散った血液、破壊された遊具、何かの肉片などが目についた。

「大丈夫かよ」

伯は俺に気付き少し安心した様な表情だった。

「あぁ、手を貸してくれ。少し無茶した」

伯の服は血に染まっていた。それが伯のものなのか、そとも別の者のものなのかは分からなかった。でも、ぐったりとした伯の姿を見る限り決して無傷でないことは十分に分かった。俺は伯に肩を貸した。

「伯、負けたのか?」

伯は俺を睨みつけて言った。

「誰にものを言っている。勝ったよ、まあ逃げられたがこいつの弾をあれだけくらえばもう長くはあるまい」

伯は自慢げに拳銃を俺の視界にチラつかせた。

「そうか」

俺の頭はこの時は伯への心配で一杯だった。まずは伯と共に遊夕堂へ戻ることになった。傷ついた伯に尋ねることには少し気が引かれたが、自身の気持ちに勝てず一つだけ尋ねた。

「なぁ、解体屋ってどんな奴だったんだ?」

伯は俺を見て静かに言った。

「空っぽな奴さ、いや、だからこそ多くを受け入れてしまった。そして、より見失ってしまった」

俺はもっと違う答えが返って来ると思った。実際に返って来た言葉は深みと重みがあり、俺は正しい解釈が出来たか分からなかった。でも、この答えがこの事件のすべてである事は何となく理解する事が出来た・・・・・

 

 伯の傷は並みの人間なら十分に致命的であったが、伯自身が「暫く寝ていれば治る程度」と言うので、今は静かにいつものソファーの上で眠っている。俺は六夜さんに伯から聞いた事をそのまま伝えた、六夜さんはそれだけで十分だと言っていた。六夜さんは探偵や便利屋ではない、この人?は探求者だ。自身の知らないことをただ求める。今回の事件も犯人への興味と好奇心で動いたのだろう。まぁ、実際に動いたのは俺達なんだが。

「空っぽか、だから人間の体に個の証明を求めた」

六夜さんは魚の頭で考えている、俺は静かに缶チューハイを片手にそれを眺めていた。

「六夜さん、結局、犯人はどんな奴なんですか?」

「面白いことは聞くな、お前なら分かっているだろ。この中で一番犯人の手掛かりを知っているのはお前さんだよ」

六夜さんの言葉に、俺の頭を一つの答えが過ぎる。

「伯の弾をくらっているようだが、明日まではもつだろう」

「明日は出かけてきます」

六夜さんは少し笑って?眠りについた。



 ~ 混念徘塊 4/4 ~

 俺はまたこの病院の前に立っていた。昨日の会話から俺の答えは出ていた、自身の導いた答えは明らかにかつての自身では信じられないものだった。でも、今の自分ではこれが答えである事を確信している。

俺は静かに扉を開けた、病室の中はとても静かで生物的な音はない。病室の窓の近くに一つのベッドがあった、小さな人形のような女の子が窓の外を静かに見ていた。少女に近づくにつれてそれは聞こえた、少女から聞こえる複数の声、いや今は叫びのようにも聞こえた。少女は俺の方を向いた、その姿は儚く今にでも折れてしまいそうだった。

「初めまして」

「こちらこそ」

「退屈な部屋ですいません、どうぞ座ってください」

少女から聞こえる声に比べて、少女自身の声は弱々しく儚かった

「ありがとう」

「今日は何だか気分がすごくいいの、普段はこんなに口が動いてくれないから」

俺は黙って彼女の話を聞いた、彼女にとって最後の話し相手が俺に成るかもしれないと思うと、考え過ぎて言葉うまく出なかった。

「私ね、あなたのこと知っていたのよ。半年位前までよく病院に来ていたでしょ?時々見かけてね、いつも綺麗な花を持って歩いていた」

そう、俺は半年前まではよく病院に来ていた。毎回、見てもらえるわけもないない綺麗な花を持って。

「見られていたのか」

少女はクスクスと笑っていた。

「その人は今は元気ですか?」

「あぁ、元気さ。君より少し年上の妹がいたんだ」

「妹さんが羨ましいな、こんな優しいお兄さんがいてくれて」

少女はゆっくりと視線を俺から外して窓の外を見る、その悲しそうな姿が何故かすごく絵になっていた。

「優しいお兄さんか…‥」

俺は少女と一緒に窓の外を視線を向けた。

「私には何もないの、家族も友達もなにも。私のこの命も本当は私のモノじゃいの、だから私は何もない。空っぽの入れ物…」

俺はこの子に何も言えなかった。この子は理解している、自身のことを誰よりも。だから、俺はこの子に会うことになった。利巧である為、あまりにも自身のことを考える時間(とき)があった為に、彼女は自身の存在の証明を問いた、そして存在の証明を求めた。

「きっともう少しで私は消えてしまう、やっぱりこう言うことって自分が一番よく分かるみたい 。お医者さんに今朝とても元気って言われたけど、もうダメだって分かる。これが最後に神様が、私にくれたご褒美なのかなって」

少女は俺に微笑む、俺はその顔がとても悲しく、切なく、俺にのし掛かる。

「私の所には誰も来てくれない、いつも一人で外を眺めていた。でも、私は今気付いてもらえた、私がここにいること知ってもらえた。私の存在はここにあったんだって」

少女の手が俺の顔に触れた、冷たく細い指がそっと顔を撫でた。

「お兄さん、泣いているよ」

「ごめんな、俺はまた何も出来ない・・・・・」

少女は俺の頭に触れて言った。

「私が許してあげる」

俺は何をここに求めて来たのだろうか、ただ何も言えずに、何も出来ずに俺はここに来た。自身の心が答えではなく、許しと解放を求め・・・・・・


 俺は少女と約束をして、遊夕堂へ戻った。六夜さんは俺の帰りを待っているように水槽の中から入り口を見つめていた。俺は水槽に近づき近くの椅子に腰を下ろした。

「どうだったい?」

「六夜さんと伯の言っていることが分かりました」

六夜さんは静かに水槽の中を泳ぎ始めた。

 「人間の存在の証明は自身のみでは見つけられない。もし世界で自分一人ならば個は種でしかない、種は個ではない。少女は自身の証明が欲しかった、だから無意識下に人間の個の証明を求め、それを探し、人をバラし、そして多くを意識に飲み込んだ」

「きっかけは?」

「その子は心臓の移植を受けている。そして、最初の事件の起きる数ヶ月前に事故にあって輸血を受けている。嬉々、人間の心はどこにある?」

俺はそっと自身の胸に手を当てていた。

「そこもそうだ、私はね。体のすべてに心が宿っていると考えている、だから健全体に健全な精神とかはあながち間違っていないと思う。体のすべてに少なからず心は宿る。人間は自身の一つの心も制御出来ない。それなのに一つの体、まして常人より弱い体に複数の心が宿ってみろ。心は混じり、ただの塊となる。今回は少女の強い思い引きずられ、少女の求める(もの)為に徘徊した」

その時、後からから伯の声が聞こえた。

「存在の証明は自身で見つけるものじゃない、他人から与えられるものさ」

あの子にはそれを与えられる者がいなかった、それがこの事件の根本的な原因でしかない。そして、俺はその原因を何度も拭うことが出来た。


 俺は翌日、両手一杯の花を持って少女のもとを訪れた。

そこには何も聞こえない病室が俺を待っているだけだった・・・・・・


                               混念徘塊 終



                     次章予告

                 これは出会いと別れの物語。

          夢を見続ける虚はただ彷徨う、覚めれば終わってしまう儚き夢。

 

                 第二章  夢想渇虚(むそうかっきょ)


             「覚めれば終わり、夢は夢、続きなんて見れやしないよ」



 最後まで読んで頂きありがとうございます。

まず最初にこの第一章では二番目の時系列の作品です、その為に色々謎が残されているのは了承ください。

この作品は自身が好きなジャンルの作品です。その為に、自身の好きな作品に似てしまわないように書くのがとても大変でした。

書きたいことはたくさんあるのですが、早く皆さんに届けたいのでこの辺りで、活動報告あたりでまた。

次章の投稿なに関しても活動報告で連絡いたします。

最後に、読んでくださった方へ。

貧しい文章でありましたが、最後までお付き合いくださりありがとうございます。


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