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1-1.

 山の木々が鬱蒼(うっそう)と迫る細い獣道を、鎧や法衣に身を包んだ四人組が登っていく。

 先頭の勇者が、汗を拭いながら声を張った。

 

「もう少しで村のはずだ、頑張ろうっ」

 

 賢そうな魔法使いが、眼鏡の位置をくいっと直しながらつぶやく。

  

「あるといいな、『抗異(こうい)の腕輪』。あらゆる状態異常を回避するなんて、まさしくレジェンドアイテムだ」

 

 四角い顔の重鎧戦士が、快活に笑って景気づける。


「いずれであろうとも、一匹でも多く魔物退治すればよしっ。ワハハハッ」


 紅一点の僧侶は、顔にかかったブロンド髪を掃いつつ使命感を燃やす。

 

「この世にはまだまだ危険な魔物や魔王軍の残党が潜んでおりますから。気を抜けません」


「そうだね。僕たちに出来ることはやっていく。困っている人たちを一人でも多く救うべくっ」


 黒髪短髪の、少しあどけない勇者の青年は、生真面目に気勢を発しながら仲間を鼓舞(こぶ)していく。

 口に出せない弱音を胸に秘めつつ。


(魔王と和平を結んだ『その後』RPGみたいな世界なんて、やり込み勢しか楽しめないやつだよなあ……僕はライト層だってのに。ああ、スマホとコンビニチキンが恋しい……)


 

───ここで少し、彼らの経緯を補足しておく。

 

 勇者の青年は、このバーキン王国にて『召喚の儀』によって時空を超えて呼び出されたニホンの大学生。ベッドに寝転がってスマホでお手軽JRPGをプレイしていたところ、突然光に包まれて魔法陣の上に。

 とまどう彼を石造りの部屋で迎えたのは、王冠を被ったおじさんやローブを着たおばさんたちだった。人種は欧米風。


 勇者はド素人から始まるも、レベルアップというちょっとズルい仕様を持つ。その辺の諸々を狩ると経験値を得て身体能力が飛躍的に成長、武術や魔法など、九割は暴力に使う技を次から次へと覚えて一騎当千と化していく。

 実のところ、一個師団を練兵して装備を整えるよりだいぶコスパがいいらしいのは秘すべきところだ。


 そんな人類最終兵器(成長中)と、(あつら)えられた少数精鋭。

 彼らは王命により、魔王軍残党の撃破に日々当たっている。その合間に戦力を強化すべく、各地に眠る伝説の武具や装飾品を、噂を伝手(つて)に探しているのであった。自転車操業感がある。

 

 


「───さっきの木こりの話だと、もうそろそろ……あ、家っぽいのがぽつぽつと見えてきたぞっ」


 斜めな眼鏡も忘れて歓喜に沸く魔法使い。その指さす先には、確かに質素な木組みの建物が見て取れた。


「一応警戒してくれ。村がまとも(﹅﹅﹅)かどうかわからないから」


 腰の(つか)に手を添えながら慎重に進む勇者。こんな辺鄙(へんぴ)なところだ、盗賊のアジトや魔物が横行する廃墟になっていることもある。

 しかしそれは杞憂(きゆう)だった。


「こんにちは」

「おお、旅のかたかな。旅じゃなくてもようこそ」

 

 後期高齢者な村民、登場。

 

「失礼します。僕らはバーキン王国の勇者パーティなんですけど」


 勇者は首に掛けていた王国紋章が入ったプレートを見せた。


「この辺りの情報をいろいろお伺いしたくて。代表のかたはいらっしゃいますか」

「それはそれは、ご苦労様です。村長ですな。ご案内しますので、ついてきてください」


 そう言って軽快に背をむけると、しっかりとした足取りで歩いていく。

 粗末だが小奇麗に着こなされた衣服。背筋はしゃんと伸び、妙に体幹がいい。


「何とも元気なご老体だ、ワハハハッ」

「元気どころか……見てみろよ、あの腕と足」

 

 肌は年齢相応にくすんで艶がないものの、筋骨隆々なさまが半袖半パンから覗いている。


「山合いの過酷な環境だからじゃないのかな」

「あんなに年寄り概念ひっくり返るほど鍛えられるかぁ?」

「それよりこの村……何だか妙に〝まとも〟すぎませんか」


 道はただの土だが、(なら)され踏み固められている。山間(やまあい)特有の石や根が突き出て荒れた様子が無い。

 

「確かに。どの家も古いけどボロっちくないし。きちんと維持されてる感じだよね」


 山奥の一見しての限界集落は、総じて活力がみなぎっているように見える。

 勇者一行は、別に怪しくないのに漂うビミョーな違和感に包まれつつ、村長宅へと着いた。


「村長、旅の方々が御用があるそうで、お連れ致しました」

「はーい、ご苦労様です」


 軽快な返事とともに扉を開けて出てきたのは、歳の頃20後半の男性。なのだが……男をひと目見るなり、勇者はめちゃくちゃ驚いた。


「ぇ・え・ええ───っ、そ、そんな。あなたはっ……」


 黒髪にイケてるようなイケてないような平たい顔。ユ〇クロな黒のソフトジャケットに白Tシャツ。この異世界の山奥で、まさかの「日本の路上からそのまま持ってきたような男」が立っていた。


「おっ、そのリアクションにそのお顔……キミ、ひょっとして〝同郷〟の人?」

「そうですっ。こ、こんなことってあるんだ……あ、は、初めまして。」


 くだけた感じでウェルカムな男と、ただならぬ歓喜と興奮を見せる勇者。その様子に他のパーティは啞然とするばかり。


「今『同郷』って……ではこのおかたも、召喚の儀で参られた勇者さまっ?」

「いや、それはないはず。前回の儀式があったのは50年前だぜ」

「ワハハハッ、二人ともどこか似ているな確かに」


 あたふたする僧侶に眼鏡を何度も直す魔法使い。ブレずに笑う戦士。

 そんな温度が高い中でめちゃ冷静で普通にしている、村長と呼ばれる男。


「あ~……何かいろいろ察したかも。まあ遠路はるばるようこそ。ひとまずお茶でも淹れるね」


 村長に促され、勇者以外は少々いぶかしんだ様子で、家の中へと入っていった。



 

 

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