星の記憶
彼は星を跳ぶ。彼もまた星だった。
銀色の世界に散りばめられた、金平糖を出鱈目な
ステップで今日も飛ぶ。
彼はいろいろな星を見た。
砂しかない星、踏まない星、思わず火傷してしまいそうな星。
どんな星でも、彼は魅了された。
そんな銀河も忘れてしまいそうな幾星霜の、幾億星霜のある時、彼は緑の惑星と出会う。
彼は魅了された、緑と青が共存するその星に。
彼は初めて足を止めた。
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本当に面白い星であった。
彼と似たような見た目の生き物たちが、
数えきれないほどいた。
彼は自分がどう生まれたのかを知らない。
彼がいた空間に、あとから銀河を貼り付けた
世界だったからか、
いずれにしろ、知らなくてもいいのだ。
初めて言葉を使った、言葉を返してくれるという
事実だけで彼の心は満たされた。
三十年ほど経ってからだろうか、彼はある島国の
役人のもとで雇われていた。
「讃岐殿は、結婚などはしなさんねぇんですか?」
屋敷に出入りする行商人が唐突に聞いた。
「そうですね、あまり考えたことはありませんでした、なにぶん拾われた身ですから。
ただ恩を返すために我武者羅に働いていたので、」
「町中みんな噂してますぜ、『かの役人のお屋敷に、女と見紛うような美しい使用人がいる!』って、
そらぁもう炭屋のオヤジと同じ年でしょうにその美貌ですからな、
その上仕事もできると、都でももっぱらのうわさでさぁ、どうです?少し考えてみては」
「ええ、機会があればぜひ」
彼はそう答えて、屋敷の奥へと消えた。
彼が結婚のことを考えていなかったといえば、
嘘になる。
彼は仕事を終え、いつもの道を早歩きで進む、
というのも彼はもう恋に落ちていたのだ、
相手は都から離れた山に暮らす娘、
透き通るような黒曜石の瞳、湧き水のような声、
心をくすぐる匂い、彼女の全てに惹かれた。
これまでこの星の外で過ごしてきた時間の全てを投げ合ってでも、彼女と添い遂げたいと、強く願った。
さらに二年の時が過ぎ彼らは結ばれた、
あっけなかった、決意を固め話をしたら二つ返事で了承してくれた。
初めて誰かと夜を過ごした、星がただ綺麗だった。
山の奥で、二人肩を寄せ合い静かに眠った。
その夜、彼は生まれて初めて夢を見た。
竹林のなかに、一筋の光がぽうっと光り、
落ちていく
その光を探そうとしたが、ついには探しきれず醒めてしまった。
彼女も同じ夢を見たらしい、
その日から彼はだんだん星の記憶を失った。
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今からずうっと昔
都はずれの村に、老夫婦が住んでいた。
老人はかつて都の役人に仕えていたらしい、
名前は讃岐造
今は夫婦で、竹を刈りいろいろなものに使って
いるという。
ある日竹藪の中に光り輝く一筋の竹を見つける。
好奇心に駆られ割って見ると、一人の手のひらに収まるような美しい少女が眠っていた。
名を「かぐや姫」とよぶ。
星は確かに、受け継がれた。