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次の週、学園に行くと皆の様子がおかしい、

いつもきゃっきゃっ言っている女の子が、

ひそひそと話して、私と距離を取っている。


違和感を感じながらも、何か報告があるでしょうと、

静観する事にした。


ランチの時間、いつもの通り王太子と食事を取る為、

専用の部屋へ向かう。


その途中だった。


「皆様!クリスティーナ様は王太子殿下の婚約者でありながら、

 他の男性と休日一緒に行動し、

 同じ匂いをさせていらっしゃいましたわ!」


声の主を探すと、元取り巻きのエリザベス嬢だ、

勝ち誇った顔で、堂々と立っている。


リアンとレオナのプレゼントを買いに行った時の事だと思い当たる。

あほらしくて、スルーしてランチする部屋へ向かう。


「何かおっしゃったらどうなの!

 黙っていると言う事は、やはりやましい事があるのね!」


私は何も答えない。


すると、王太子が部屋から姿を現した。


「何の騒ぎだ?」


すると、畳みかけるように、エリザベスが言う。


「王太子殿下!クリスティーナ様に騙されて

 いらっしゃいますわ!

 他の男性と一緒に過ごした上、

 香りを一緒にしていますのよ!」


一応、香りを一緒にするというのが、

体の関係を持つという意味というのは、

王妃教育で一応知識としてはある、

まったく馬鹿馬鹿しい話だが、どう説明しようか迷う。

というか、いちいち説明する必要あるのかしら?


はあ、とため息をついていると、

王太子殿下がエリザベスの前に向かう。


「テイラー嬢、それは昨日、

 クリスティーナがリアン・ロッシーニ男爵と、

 一緒にいた事を言っているのかい」


「王太子殿下!ご存じだったのですね!

 その通りですわ!男性と2人きり!

 浮気意外のなんでもありませんわ!」


「その事については、事前に話を聞いている、

 ロッシーニ男爵から相談を受け、出かけるとな」


エリザベスの目が大きく見開かれる。


「しかし!同じ匂いがしていたと!」


「とある店では、香水を炊いていたようだ、

 それに、クリスティーナは次期王妃、

 休日でも王宮から護衛をつけている、

 その護衛の報告では、あくまでロッシーニ男爵の

 買い物のアドバイスをしただけで、

 体の接触は一切なかったと聞いている」


「そんな・・・」


エリザベスはかなりショックを受けているようだった。


「いろいろ吹聴して周ったようだな、

 次期王妃を嵌めようとした罪は大きい、

 不敬罪も含め、学園からの退学を言い渡す」


「そんな!あんまりです!

 私は王太子殿下の事を思って!」


「憶測で他人を陥れようとする人間は、

 危険人物としか判断できない、貴族として失格だ、

 まだ、身分を剥奪しないだけ、優しいと思ってもらいたい」


エリザベスはその場でわんわん泣き出しだ、

王太子付きの人達によって、

強引に学園から連れ去られていく、

おそらく、自宅に連れていかれるのだろう。


「皆にも言っておく、クリスティーナは王族に連なる者として

 対応するように、

 彼女に対する不敬は、王家に対する不敬と評する、

 重い罰があると心得よ!」


王太子の言葉に、皆が頭を下げる。


「大変だったね、さあ、食事にしよう」


王太子にエスコートされて、

ランチをする部屋へ入る。


「ああは言ったが、実は私も嫉妬していたのだよ」


「王太子殿下がですか?」


「いつも、”殿下”と呼んでいるだろう」


「ええ、それが当然かと」


「リアンの事は呼び捨てにしていたと聞いた」


「リアンは男爵です、呼び捨てで問題ないかと」


「私も名前で呼んでもらいたい」


私は目を見開く。


「殿下をですか?」


「まさか、名前が分からないなんてないよね」


「もちろんですわ!」


「では、言ってみて」


そう言われても、いきなり敬称を無くすのは難しい、

私が困っているのを見ると。


私の手を握って、心臓がどきりと跳ねる。


「次期王としては、命令すればいいのかもしれない、

 しかし、命令はしたくない、

 お願いだ・・・名前を呼んでくれ」


甘えた声で言われて、

あああ~と頭がぱんぱんになる。


こんなの反則!


お願いなんて、


叶えちゃいます~


「ヴィルジール殿下」


下向き加減で、ぽつりと言う。


「殿下はいらない」


「ヴィルジール」


そう言うと、いつもの触れるだけのキスではなく、

数秒唇を合わせ、舌を絡ませ合う、濃厚なキスをされた。


「うう・・ん。あっ」


合間から甘い声が漏れる。


更に私を抱きしめ、キスを続ける。


しばらくそうして、キスを堪能した後。


「もう一つお願いがある」


私が呆然としてると。


「私とも買い物に行って欲しい」


しばらくして、落ち着いた私は、

やっとの事で言葉にする。


「本当に妬いてらしたんですね」


「民の間ではデートというのだろう、

 そういうのをしてみたい」


「しょっちゅうお会いしているのに」


「王になれば、なかなか街には出れない、

 それに、一日中クリスティーナを独占したい」


好きな人にそんな事を言われ、断れる訳がない。


「でん・・・ヴィルジールが街に行くとなると、

 護衛とかいろいろ手続きがいると思います。

 王と、王妃にもきちんと許可を頂いて、

 全ての問題がなくなったら、ご一緒します」


「ありがとう」


ヴィルジールにもう一度ぎゅっと抱きしめられ、

私も背中に手を回した。





ヴィルジールが街へ出たいと言ってから、

もう3週間が過ぎた。


やはり王太子が街へ行くとなると大変みたいで、

街の警備隊や各ギルドなど、

いろいろやり取りがあったようだ。


そんないろいろを乗り越えつつ、街へ行く日。

ヴィルジールは頭からフード付きのマントを被って、

少しお金持ちな男爵ぐらいの服装になっていて、

いつもとの違いに、驚いてしまった。


「街へ行くなら、この恰好と決められてしまってね」


「そうなのですね」


「貴族街もいいが、できるだけ民がいる所も見て見たい。

 屋台があり、買ってその場で食べるそうだ、

 クリスティーナが嫌なら強制はしない、

 ただ、私だけでも、一度やってみたかった」


「屋台!楽しそうです!

 もちろんご一緒しますわ!」


「意外だな」


「そうですか?」


「マナー教室を開くぐらいだ、

 マナーには気を使っているだろう、

 買い食いなど、もっての他と言われると思った」


「その場、その場での対応がありますわ、

 民の生活を体験できるいい機会、

 ヴィルジールに感謝したいぐらいです」


「では、貴族街ではなく、

 普通の民がいる場所へ行く、いいな?」


「お願い致します」


そうして、馬車に乗り、街の外れに向かう。


街に入ってしまうと、馬車が豪華すぎて、

何事かと思われてしまうので、少しの距離歩く事になった。


「歩かせて申し訳ない」


「いいえ、気にしませんわ」


私はこれからの街の様子が気になって、

わくわくしてる。


大きな公園のような開けた場所に来ると、

100を超えるかという程の出店が並んでいるエリアに来た。


呼び込みの声があちこちからかかり、活気がある。


「凄いな」


「本当ですわね」


1つの店は、花火大会の出店の1店舗分ぐらいか、

大きくても3店舗ぐらいの比較的小さな店が多い。


中には下に絨毯を敷いて、そのまま商品を並べて売る店、

机を並べ、机に商品を並べているだけの店もあった。


「面白いですわね」


「ああ」


いろんな店を見て回る。


しばらくそうして店を見て、お目当ての買い食いを

する事にした。


「ここでいいか」


ヴィルジールが選んだのは串刺しの肉を売っている店、

焼き鳥の大きい版といった所だろうか。


炭火焼で焼かれ、タレにつけた、

美味しそうな一品だ。


「2つもらおう」


ヴィルジールが店主に頼む、


すると、


「あいよ!」


と威勢のいい声が返ってきた。


炭火焼の肉はすぐ手渡される。


「はい!2つで40リラだよ!」


安い!1本20リラ?


中学の時花火大会行ったけど、20円で買えた物なんて、

何もなかったはず。


ヴィルジールがお金を払おうとする。

するとその硬貨を見た店主か困った顔をする。


「1万リラ硬貨なんておつりないよ!」


私はあわてて40リラ払う。


「すみません、これで」


ヴィルジールは1万リラ硬貨を眺め、


「申し訳ない、お金は必ず返す」


と言っていた。


「いいです、それより食べましょう!」


大きな肉の塊を口にする。


肉は少し固めだが、しっかり味がついていて美味しい。

これで20リラなら、毎週通ってしまいそうだ。


「美味しい!」


「本当だな」


2人で串焼き肉をもぐもぐ食べながら、

次何を食べるか店を見て回る。


そして、串焼き肉が特別安いのではなく、

全体的に安い事に気づいた。


例えば、麺。


日本だとラーメンだと800円から1200円ぐらい、

この国では100円で食べれる。


ワンプレート物だと200円ぐらい、

300円もあれば、かなり豪勢な食事となる。


商業ギルドのランスが言っていた事が良く分かる、

これなら食費は少なくて済むはずだ。


そして、果物が食べたくなり、

護衛にこっそりとついてきた人に尋ねる。


「果物屋ってあるかしら」


「果物だけというのはないですが、

 果物を切って盛り付けた店ならあると思います」


そう言って、店を探すよう、他の人に指示を出している。

そういえば、果物だけでなく、野菜も売ってないわね。


「野菜とか売っている店などが少ないようだけど」


「野菜などは店の者しか買いませんので、

 こうゆう場所ではあまりございません」


「民は野菜を買わないの?」


「民は料理をしませんから」


当然のように言われ、衝撃を受ける。


「では食事はどうしているの?」


「こうして、出店で食べるか、

 買って持って帰って食べるかです」


「キッチンは使わないって事?」


「キッチンがあるのは、貴族の家ぐらいで、

 民の家にキッチンなどございません」


ええええ~キッチンなし?


でも、こんなに安く、いろんな料理が食べれるなら、

それでもいいのかな?


そんな事を考えながら歩く。





そんな時、1人の女性がいきなり倒れた。


「大丈夫!?」


私はあわてて駆け寄り、女性を支える。


すぐさま護衛の人が来て、


「治療院につれて行きます」


と言って、負ぶって言ってしまった。

治療院って、多分病院の事よね。

しばらく店を見て回るが、どこか気が入らない。


「どうした?気になる事でもあるのか?」


「ヴィルジール、治療院に行ってみたいの」


ヴィルジールはかなり驚いたようだった、しかし、


「そうだな、次期王と王妃としては、

 そういった場所の事を知る事も必要だ」


と言ってくれた。





大変だったのは護衛の人。


いきなりの予定変更に、

次期王に何かあれば大変なので、

感染症患者などがいなくて、

話ができるだけ余裕がある治療院を探してくれた。


馬車に乗り、治療院に向かう。


治療院に入ると、病院独特の匂いを感じた。


小さな子供が泣いている。


「痛いよね、早く治してもらおうね」


そう声をかけると、母親らしき人が頭を下げた。


しばらくその様子を見て、

治療は薬草を使った物が主流のようだった。


しばらくして、治療院の医院長と話しができた。


やはり、治療は薬草を渡すだけ、

手術などはなく、科学的な薬もないようだった。


「治療院の料金はどうなっていますか?」


一番気になっていた事を知る。


前世、私は長い間病気にかかって、

両親に経済的に負担をかけた。


そして、その甲斐もなく死んでしまった、

それが心残りだったのだ。


「治療院ではお金はかかりません」


無料って事?かなり驚く。


「では、どうやって運用を?」


「民は農作物と一緒に薬草も育て、それを寄付します、

 商人達はお金ですね。

 そうして、寄付と、余った薬を売って運営しています」


そう言えば、王妃教育で、

この国の薬草は他国で高く売れると教えられていた。


その事を知って、一安心する、

お金がないからと言って、治療を受けれない人が、

いない事が嬉しかった。


「ありがとうございました」


そう言って治療院を後にしようとする、

その時、明らかに体調が悪い男性が、

2人の男性に支えられ、治療院を後にしようとしていた。


「あの男性、入院させた方がいいのでわ?」


あまりにも、体調が悪そうなので言ってみる。


「ニュウインとはなんでしょう?」


「治療院に泊まって、治療してもらう事です」


「治療院は宿屋ではありません、

 泊まる事などありませんよ」


その言葉に驚く、


入院システムがない?


私は深く考え込んだのだった。

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