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4

ここまできて、ヒロインの存在が気にかかる。


『恋愛学園~精霊に愛された乙女たち』は、

セリフを選択するだけの、誰でもできる簡単ゲームで、

最初の方で、攻略対象を選択でき、

ほとんどその対象と結ばれる。


恋愛のいちゃいちゃ、甘いセリフを楽しむのが、

ゲームの主題なので、難しい攻略などは一切ない。


なので、平民の主人公も、王太子といちゃいちゃし、

伯爵家養女となり、結ばれるなんてエンドも現実性がある。


しかし、学園は、平民と貴族で教室が分かれている、

当然貴族の教室にいる私は、平民のヒロインと接点がないし、

王太子ルートで、いちゃいちゃの阻害をするはずが、

いちゃいちゃを目撃した事がない・・・


うーん

ゲーム始まってそこそこ経っているんだけど、

このまま流れに任せていいのかしら?


と言っても、私がいきなり平民の教室に行くのは、

どう考えてもおかしいし・・・


そんな事を考えていた時だった。





学園でのある日。


「きゃ」


ゲームで聞いた、可愛らしい声がする。

間違いないヒロインだ!


そして、お約束、王太子との出会い頭のぶつかりイベント発生!


「も、申し訳ありません!」


尻もちをついたまま、あわてて頭を下げる主人公、

そんな主人公に手を差し伸べ、

優しく立ち上がらせる王太子。


とうとう王太子との出会いイベントが始まったのね。

(かなり遅すぎる気がするけど・・・)


胸がぎゅっと苦しくなる。


手を差し伸べる王太子を見つめるヒロイン、

ああ、これで恋に落ちるのね・・・


そして、王太子も・・・


「まあ!よろしいのですか、クリスティーナ様!」


エリザベスとアウローラが憤慨している。

それを、「いいのよ」とぽつりと言って、私はその場を後にした。





その日の授業が終わった後、

王太子の側近が迎えに来た。


曰く、王太子が話をしたいそうだ。


王太子専用に設えられた部屋へ行く。


「久しぶりだね」


「はい」


「そこに掛けて」


「はい」


紅茶が淹れられ、テーブルに置かれる、

お菓子もいくつか用意される。


私はそれらをそっと手に取り、

貴族として、優雅に頂く。


「君の友人から、君が元気がないと聞いてね」


ヒロインとの出会いイベントを見て、

どうしてもうつむきがちになって、

口数が少なくなっていた。


どうやら、それを指摘されているのだろう。


自分でも自覚があるので、


「申し訳ありません」


とだけ答える。


「謝って欲しい訳ではない、

 不安があれば取り除こう、言って欲しい」


婚約者に対する義務での返答だと分かる、

だって、表情は全然心配してないんだもの・・・


そう、私の事は本当はどうでもいい。


仕方なく、


王太子の立場として対応してるだけ・・・

黒い気持ちがどんどん沸きあがってくる。


そして、今まで、クリスティーナが王太子を好きで、

それにつられて私も苦しくなっていると感じていたけど、

そうじゃなく、転生前の私の気持ちも含め、

王太子が好きなんだと気づいた。


どうしてこんな時に・・・


好きになっても仕方ない人、


身分的には結婚するのが当然なので、余計に辛い。


このまま、ヒロインといちゃいちゃするのを見るの?


そんなの耐えられない!


そして、恋愛を妨害して・・・


胸が苦しい。


くるしい・・・


クルシイ・・・





「なんでもありませんわ」


胸の苦しみを抑えて、何とかそれだけを言う。


「そんな訳はないだろう、私は頼りないか?」


王太子の言葉に黙り込む。


紅茶をテーブルに置いた。





もういい!


どうとでもなれ!


この鈍感!




「王太子殿下におかれましては、

 他のご令嬢と仲良くされているようで、

 私はもう不要かと」


「それはどうゆう意味だ?」


驚いた声がする。


ふん!ヒロインに惹かれてるくせに、

白々しいのよ!


「婚約破棄の覚悟はできてますわ」


王太子は衝撃を受けているようだった。


「せめて聞かせてくれ、他の令嬢とは誰の事だ?」


「レオナ嬢(ヒロインの名前)ですわ」


「レオナ嬢?・・・平民のか?」


「ええ」


王太子は何か悩むように黙り込む。


ほら!やましい事があるのでしょう?

ずばり指摘されて、内心狼狽えていらっしゃるのかしら。


王太子から、確かに彼女に惹かれていると、

言われるのが嫌で、急に立ち上がる。


「お話が以上なら、私は退出させて頂きます」


そう言って、足早に部屋を出た。





気の赴くままに、学園内を歩く、

まだ家には帰りたくなかったし、

取り巻き令嬢と話しをする気にもならない・・・


何となく歩いていると、保健室の前に来た。


そっと戸を開け、中に入る。


奥の方に白いシーツのベッド。


それが、どこか病院を思い浮かばせて、

吸い寄せられるように、ふらふらとベッドに向かう。


他に誰もいない事を確認して、

ベッドに入り込む。


しばらくして、胸がぎゅーっと苦しくなり、

涙が溢れてきた。


王太子が好きだ。


前世、あんなに憧れた恋愛、

どきどきして、ときめいて、幸せに包まれて・・・


でも、現実はこんなにも苦しい。


王太子は追いかけても来てくれなかった、

しょせん婚約破棄になっても困らない程度の存在なのだろう。


また胸がぎゅっとなる。


もう、嫌だ。


いっそう嫌いになれればいいが、

恋焦がれる気持ちだけが、沸きあがる。


好き、好き、好き。


布団の中で、体をぎゅっと丸めて縮こませる。


悪役令嬢だけど、断罪されないといけないけど、

ヒロインとの邪魔なんて、多分無理。


そんなシーンを見たら、逃げ出す自分しか見えない。


彼の心はヒロイン一色、

そんなの・・・・いや。


思考がぐるぐる回り、気分が悪くなって、

ここにきて、無理やり考えるのをやめる。


もう、悪役令嬢とか考えない、

私は家を出て、この国で生活する、

それだけを考えていたらいい。


どんどん溢れる涙に、「うっ、っう」と

声が出ないように堪えて、保健室でしばらく過ごした。





それから、数日が経った。


また、王太子から部屋へ呼ばれた。


私はお断りしたが、命令でどうしてもとの事だった。

王族の命令には逆らえない、

私はかなりしぶしぶ部屋へ向かう。


「失礼致します」


「ああ、よく来たね」


王太子殿下と・・・ヒロイン!?


彼女を見つけて、目を見開く。


入口の前で立ち尽くす私を、

王太子殿下が傍に来て、エスコートしてくれる。


マリオネットのように、

操られるように歩いて、

私は王太子と並んでソファーにかけた。


目の前にヒロインがいる!


ピンクのふわふわボブ。

くるりとした緑の瞳。


どこをとっても可愛いの一言。


ただ、緊張しているせいで、赤くなっているが、

それも余計可愛さを増長するだけだった。


「レオナ嬢、先ほど話していた件だ、

 ぶしつけな質問で申し訳ないが、

 貴女の想いを寄せいている人は誰かな?」


「はい!私はリアン様をお慕いしております!」


ますます赤くなりながら、元気よく答える。


リアン様?


確か、攻略対象の1人で研究者の名前のはず。


王太子が私を見つめて言う、


「どうやら誤解があったようだが、

 私の婚約者は君1人だ、彼女の入り込む余地はない」


あれ?攻略されてない?


「だいたい、平民と王族が結婚するなんてありえない、

 どうして、そんな勘違いをしたのだい?」


だって!ゲームでは結ばれたんです!


ぼーぜんとする私に王太子は続ける。


「今まで、王妃教育をきちんとこなしている事も知っている、

 もっと自信を持って欲しい、

 いや、今まで泰然とした姿しか見てなかったから、

 私のフォローが足りてなかったのか、

 これからは、もっと積極的に交流を持とう」


王太子の言葉に、返す言葉もない。


あんなに泣いたのはなんだったのかしら?


「クリスティーナ様は王太子殿下がお好きなんですよね!」


レオナに元気よく言われて、


「ええ、もちろん好きよ」


と答える。





ん・・・あああああ!告白してしまった!


いいのか?いいのよね?婚約者なんだし!


顔が赤くなるのを自覚しながら、王太子を見る。


王太子もどこか嬉しそうだ。

 

「王族の結婚は義務だ、

 この結婚も早くに決まったし、恋愛など不要だと思っていた、

 クリスティーナが私と結婚するのも、

 義務で仕方なくだと思っていた、

 しかし、本当に私の事が好きでいてくれたのだね、

 なら、これからは、

 私も愛情を表現してもいいという事だね」


ん?


なんだ?この展開?


目が回りそうになる。





そして思い至る。


そうだ、このゲーム、攻略対象の甘いセリフを堪能するゲーム!

しかもツンデレ王太子が、デレにスイッチが入った!


前とは別の意味で胸が痛い。


心臓がばくばく言っているのを感じる。


王太子が、そっと私の手を取り、

顔を近づけ、ちゅっと額に口を付ける。


「これで、誤解は解けたね、私には君だけだよ」


あああ~甘あまスイッチが切れない!


脳が解けそう~





「ふふふ、お幸せそうで、羨ましいですわ」


ヒロインのレオナがどこか曇った顔をする。


「どうなさったの?」


「リアン様にアプローチしているのですが、

 なかなか思い通りにいかなくて・・・」


私は少し考える、

前世王太子ルートしかプレイしてないので、

リアンルートは詳しくないが、

確かリアンは紅茶が好きで、

自分でブレンド紅茶を作る程。


「もしよろしければ、

 リアン殿と紅茶のお話をなさってみては?」


「紅茶ですか?」


「ブレンドなどこだわっていらっしゃると聞いています、

 何かきっかけになるかもしれませんわ」


驚いた顔をしたレオナが、一気に元気そうな顔になる。


「はい!頑張ります!」


レオナが返事をする。


上手くいくといいわね、

そう思いながら、王太子と微笑みあった。

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