間章:I know, but you don’t
「あなたはなんであんなことを言ったんですか?」
見えなくなった月の方向を見ていた。
「ずっと友達だったのに...ずっと大切な友達だったんでしょ?なのになんであんな酷い事を言ったの...。」
泣きながら菜穂の目を真っ直ぐ向いて捉えて言った。友達に関して彼女は許せなかった。自分と似た状況なのにずかずかと相手の嫌がる事を許せなかった。
「私だって...私だって言いたくなかった。でも、あの子は動かない。未だに過去に囚われているの」
15年間一緒に居たから気づいていた。彼女1人が月の闇に気付き、何かしようとずっと行動していた。でも、たくさんある方法を試して最後に残った選択肢はこれだけだった。
「このままだとずっとあの子は逃げている事になる。私はいつまでも同じ事に囚われている月ちゃんは嫌だ」
そう。彼女は見たくなかった。大切な友達の苦しむ姿を。だから彼女は行動した。例えどんな結果になったとしても。
「蛍は知っている?時々遠くを見ているあの子の視線を。いつも恋焦がれていると同時に怖く動けない子なんだ。夜寝ている時だってそう。苦しそうにいつも涙を流している」
一時期菜穂の家に泊まった時も同じように泣いていた。本人には自覚がないらしいが、いつも悲しそうに泣いていた。その悪夢から覚ましたいと思って、月が家に泊まった最初の日の夜に誓った。
「だから早くあの子に立ち向かって欲しい。私の事を例え嫌いになっても私は...私は...あの子に前に進んでもらいたい」
辛そうに彼女は涙を流していた。顔がぐちゃぐちゃでいつもクールな菜穂はいなかった。そこにはただの友達想いの少女が居た。
「私はあなたを誤解していました」
菜穂の涙を自分のポケットから出したハンカチで拭いた。
「クールではなく、ただの不器用で友達想いな女の子じゃないですか」
「うるさい」
「照れていますか?」
「月ちゃんと同じような行動しないで」
フフと蛍は笑った。
「私は友達想いであるけど、月ちゃんには向き合って欲しい理由がある」
「向き合って欲しい理由?」
「あの子は知らないんだ彼の想いを...知らなすぎなんだよ」
遠くを見た。夕陽がだんだん沈んで、星空の景色が見えてくる時間だった。
ふと菜穂は手を伸ばした。空に。
「あの星空の星を捕まえられたらなぁ」
「無理ですよ。星は私達が肉眼で捉えた時にほとんどが死んでいるので」
「さっすが星空の教授」
「教授じゃないですよ。私はいずれ星空の研究を開拓する開拓者ですよ?」
「そんな夢を持っているんだ」
「あんまり人に言った事ないので知らないと思います」
『今日は一日色々な事が起きた。まだ解決していないけど私のやるべき事は終わった。』
「んーーーはぁー」
腕を伸ばし、今までの重苦しい空気を吹っ飛ばした。
「何もやらずに一生後悔するよりも当たって砕けて欲しい。砕けた時には私達が沢山慰めればいいから」
夕陽と星空が彼女を照らし、この瞬間彼女は誰よりもクールだった。