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第四章:Goodbye summER

ブーン。

車の音で私は目が醒めた。一瞬自分がどこにいるのかわからなかったけどすぐに思い出した。今私達は家に帰っているんだ。

朝にあった事を思い出していた。3人で別荘の周辺を歩いた事を。面白い物や楽しい事が沢山あった。蛍ちゃんが蝉を片手で捕まえたり、菜穂ちゃんが自信満々に道案内して迷った事だったり、絶景スポットを見つけたりした。全てが懐かしく思えた。

朝はあんなに楽しく遊んでいたのに今は車に乗って帰っている。今日は旅行の3日目だと錯覚するぐらい午前中で沢山遊んだ。

私達とは反対側に向かっている人はどんな人なんだろう?今は家に帰る人なのか?それとも今から遊びに行くのか?羨ましい。私はまだ遊び足りないよ。そんな事を考えながら川辺で止まった。

「着きましたよ」

「でも、ここって菜穂ちゃんの家の近くじゃないけど?」

「お嬢様はここでまだ2人と遊びたいと言っていたので、ここがちょうどいいかと思いました。あと私もちょっと休みたかったので、お嬢様が気を遣ってくれたのかもしれません」

菜穂ちゃんの座っている助手席を見ると起きていた。同じぐらいに起きたのかな?蛍ちゃんは逆にぐっすり寝ている。よだれも垂らして、旅行で余計にガードが柔らかくなったんだね。

「蛍ちゃん起きて〜」

「う...ん...あと3分...」

「今星がめちゃくちゃ見えるよ」

「えっ?」

「うっそ〜」

「月さん私の扱い上手くないですか?ムムム」

車のドアを開けて降りたら、そこに茜色の空が広がっていた。星空が好きな私でも一瞬で虜になった。

「星空と同じぐらい綺麗」

蛍ちゃんも空を見て私と同じ事を思っていた。この景色を忘れたくないと思って携帯で写真を撮った。また忘れられない思い出が出来ちゃった。

「2人ともちょっと歩こ〜」

「「はーい」」

私達は菜穂ちゃんに付いて行った。

綺麗な川を見ながら歩いた。凄く穏やかな気持ちだった。でも、同時に寂しかった。この旅行の終わりが着々と近づいている。明日会おうと言えば会える関係なはずなのに...離れたくない...今日という日を終わらしたくない。

「前から気になっていたんですけど!」

蛍ちゃんが慌てた様子で話題を作った。彼女もこの瞬間を長引かせる為に話したいと思ったと思う。なんとなくそんな気はしていた。

「月さんは当たったチケットでどこに行きますか?」

「えっ...なんでそれを?」

「私もちょうどあの時当てていたのを見ていましたので!あれを当てる人を初めて見ましたので気になります!」

興奮が止まらない様子だった。期待とワクワクしているのを感じた。すぐ言えばよかったのに言葉は出なかった。わざと考えないようにしていた。突然出てきて戸惑って答えられなかった。

「北海道だよ」

「なほちゃん?」

「北海道の最果ての地だよ」

「えっ...」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「私は一言もそんな事を言った事ないのに...なんで?」

月は驚いていた。この思いを誰かに告げた事がなかった。この小さな夢を。

「私達何年の付き合いだと思っているの?それぐらいは分かっているよ」

どこか苦しそうな顔をして言った。でも、彼女は意地でもこの気持ちを言わなきゃいけなかった。

「北海道...その言葉を聞く度に憧れと同時にいつも怖かったでしょ?それに私はあなたの事情も知っている。だから行きなよ」

夕陽に照らされたその顔は眩しいと同時に彼女が涙目という事が分かったが、月にはそれが見えなかった。

「でも、私は...行きたくない...そこに行ったら...行ったら」

彼女には行く機会が沢山あった。でも、彼女はそうしなかった。その理由は彼女が一番知っていた。

「月ちゃんはそこまで弱い子だったの?でも、そっか弱いもんね。いつも私の後ろに付いていて私以外の友達も居なくて、いつもひとりぼっちだもんね」

菜穂の顔がさっきよりも苦しそうだった。心を殺し、必死に涙を堪えていた。

「私はそこまでよわk-」

「いや弱いよ。だって月ちゃんは逃げたから。あの時父親とは話さずに逃げたから」

「...」

「どうしたの?図星を突かれて?だんまり?やっぱり月ちゃんは私が居ないと何もできない弱い、か弱い女の子だもんね!北海道も私が付いて行こうか?『彼方さん』」

その一言で月の頬に一粒の涙が流れた。その涙を追うように沢山の涙が流れた。

『菜穂ちゃんなんで...なんで...そんな他人のように呼ぶの...』

それを見た菜穂は更に苦しくなった。

「どうしてそんな酷い事を言うの?今まであんなに仲良かったのにどうしてそんな酷い事を言うの?」

「酷くないよ。可哀想な人に可哀想って言って何が悪いの?今までだって全部全部可哀想さと思って色々やってあげたじゃん。ご飯を奢ったのもそう。お金が全然ない彼方さんは可哀想だったから普通の食事ができるように奢った。家に泊めたのも父親から逃げて可哀想だと思ったから泊めたよ。いつだって彼方さんは可哀想だから私は行動した」

これまで以上に苦しい気持ちを抑えて、彼女は続けていった。

「母親が居ないから...母親の愛を知らない子は可哀想だと思ったよ」

その時月は今まで以上に胸がざわざわしていた。

『私は...私は...』

それが徐々に悲しいという気持ちを飛び越えて怒りへ変化した。

「私は自分がの事を可哀想な人だと思った事はないよ。幼い頃にお母さんが死んだから可哀想?お父さんから虐げられたのが可哀想?そんなのは決めつけだよ。お父さんがその後廃人のようになった?それがどうしたの?私は自分で可哀想だと思った事がない」

涙が流れ続けた。だが、それは悲しい涙ではなく、悔し涙だった。菜穂への怒り、自分の不甲斐なさへの怒り、色々な感情が渦巻いていた。

「友達っていうのは対等な関係の事。菜穂ちゃんがこれからも私をそんな目で見るなら絶交する!さよなら」

月は夕陽が沈んでいる方に逃げた。止めようとしていた蛍も居たが、彼女は自分が一番この状況で無力だった事を知っていた。

彼女は走った。

走って、走って、走った。

どこに向かっているのかわからずにがむしゃらに走った。その姿はいつかの日のようだった。

「あああああああああああああああああああああああ!私は!私は...」

いずれ彼女の足が止まり、そして別れを告げた。乱れた髪、泥だらけの靴と服、そして、その目には美しい夕陽を捉えて言った。


さよなら夏。


そして、今日という日忘れられない日がまた彼女の中に刻まれた。


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