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幕間 攻略キャラたちのお茶会

「やあ、よく来たね。」

にこやかな笑顔で三人を迎えたのは、この国の王太子フライス・パール・リンクスだった。バラの咲き誇る王宮自慢の庭園に設えたテーブルには、招待客の傾向を反映して、軽食が並べられている。

「お招きいただき光栄です。」

そう頭を下げたのは、青髪と灰色の瞳が理知的な少年。宰相を父に持つギャバジン・ツィル侯爵令息。

「やはり、俺は、護衛として後ろにいます。」

そう言って、立ち上がったのは、赤髪と黒色の瞳の筋肉質な少年。騎士隊隊長を父に持つシャンブレー・オックスフォード伯爵令息。

「オックスフォード公子が、お仕事モードでは、わたくしたちもゆっくり出来ませんわ。」

優雅にティーカップを持ち上げて、口を付けたのは、リリアン・ニッチング公爵令嬢。金髪を緩く後ろで結わえ、王族のカルタムスの瞳の変異系・紅の瞳をもつフライス王太子の婚約者だ。

「リリーの言う通りだ、座り給え。」

フライス王太子にそう言われ、シャンブレーは渋々、再び腰を下ろした。


「さて、今日、君たちに来てもらったのは、他でもない、光の乙女についての話だ。」

暫く、たわいもない世間話をした後、フライス王太子は本題を切り出した。

シャンブレーとギャバジンの背筋が伸びる。

「お二人とも、ルミナさんにはお会いしましたよね。」

頷くのを確認して、リリアンは続ける。「どう、思われましたか?」

「どう、とは?」

二人の公子の警戒度が上がった。

「光の乙女ルミナをどう思われました?と言う質問ですわ。」

リリアン公女の口元は扇で隠されている。

目元はにこやかだが、本心は測りかねる。ゴクリと息をのむギャバジンに対し、シャンブレーは恐れることなく言い切った。

「俺は、やはり、あのまま市井に置いておくことには反対です。あの能力は、貴族にこそ相応しい。」

「シャン。」

フライス王太子は窘めるように名を呼んだが、それを止めたのはリリアン公女だ。

「殿下、ここは友人たちとのお茶会ですわ。幼馴染の素直な意見を聞く、と決めたではありませんか。ねえ、オックスフォード公子。理由をお聞かせくださいな。」


『おい、やめろ、シャン。』

フライス王太子とギャバジンは同時に心の中で叫んだが、それでは当然シャンブレーには届かない。

「光の魔力持ちは、この国ではもう何年も見つかっておりません。貴重な属性持ちの魔法使いが、あんな所にいて良い筈がありません。王宮で保護し、大切にお守りすべきです。」

「守る、とは、何から?」

「勿論、その能力を悪用されない為です。あんな所にいて、他国に誘拐でもされたら、どうされるのですか?我が国の利益をみすみす失ってしまう。」

「光の魔力とは、治癒や浄化の魔力と聞きます。それをどうやって悪用する、と?」

リリアン公女の問いに、やれやれとシャンブレーは肩を竦めた。


「いいですか、リリアン様。誰しも怪我や病気にかかるのです。そんな時、光の魔法使いがいたら、直ぐに治してもらえます。お前の怪我を治してやる、と言われて法外なお金を要求されたら?戦いで傷ついた騎士が直ぐに治って、また、戦いに参加したら?それはどれ程の脅威になるか。」

「怪我や病気が治るのなら、それは良い事なのでは無くて?」

「勿論です。ですが、法外な金額を要求するのは間違いです。」

リリアン公女は小首を傾げた。

「誰もが匙を投げる大怪我や重病を光の魔力で治す事が出来たなら、それに見合う対価を支払うのは当たり前の事では無くて?」

「え?」

「ねえ、オックスフォード公子。例えば、あなたのお母さまが明日をも知れない命、と診断されて、それを完治させてあげると言われたら、あなたは幾らなら支払うと言うの?それとも、治す力があるのなら、それを無償で提供せよとでも言うおつもり?世の中からお医者様がいなくなってしまうわね。」

ぐ、とシャンブレーが詰まる。


「ツィル公子はルミナさんをどう思って?」

「私は、彼の方とは直接、会話をしたわけではありません。」

笑顔で切り捨てられた友人を前に、ギャバジンはフライス王太子をちらりと見る。頼むからこれ以上婚約者を怒らせるな、とその目は懇願していた。

「ただ、下町を教会の巡回と共に周り、浄化や清掃に能力を使っているのは、素晴らしい行いと思います。」

「まぁ。」

とリリアン公女の笑顔が輝いた。

「その様子を見せて頂きたいと思ったのですが、宿屋の娘に邪魔されてしまいました。」

しかし、続いたセリフに、公女の表情が凍り付き、フライス王太子が頭を抱えた。

「宿屋の娘?ひょっとして、栗色の髪と瞳の女の子、かしら?」

「え?いえ、それがよく覚えてなくて。光の乙女ルミナ様のふわふわしたピンクブロンドの髪とエメラルドグリーンの瞳は印象深いのですが。その横に背の高い褐色の肌の異国風の少年がいた事は覚えているのですが、どうもあの娘は印象が薄くて・・・。貴族の義務とか、公共事業とか、わかった様な口をきいて、」

「ギャバジン!頼むから、黙ってくれ!」

フライス王太子の悲鳴が響いた。

リリアン公女の手元でティーカップがカチャカチャと音を立てている。淑女の完璧な所作を身に付けている公爵令嬢のその様子に、控えていた侍女たちも慌てている。


「フライス王太子殿下?」

そんな時、救世主が現れた。

「アラン・フィッシャー!よく来てくれた!さあさあ、座ってくれたまえ。」

銀髪淡紫色の瞳の若き魔導師は、何故自分がこの場に呼ばれたのか、わからないまま、年下の公子たちに軽く一礼し、リリアン公女とフライス王太子には深く頭を下げた。

この間に、自分を取り戻したのは流石と言えよう。リリアン公女はにこやかに、アランに片手を差し出し、その甲に挨拶を受ける。

「今、皆で光の乙女ルミナのお話をしていましたの。フィッシャー魔導師様は、彼女の魔法の先生をされているのですよね。」

「はい。月に1,2度ですが。とても優秀な生徒ですよ。」

これは一体、どう言った意図での質問なのだろうか、と考える。

「今、彼女が中心となって下町の井戸の浄化を行っているのは、ご存知ですか?」

「ええ、勿論。最初はケイティの宿屋の井戸を浄化したのですよ。それが上手くいったので、近隣へと広げていったのです。そこへ、教会が協力を申し出て、と言った流れですね。」

「流石です、フィッシャー魔導師様。よくご存じでいらっしゃる。」

シャンブレーとギャバジンが唖然とする。リリアン公女は上機嫌だ。フライス王太子は大きく安堵の息をついた。


「ですが、」

とアランは言葉を濁す。

「どうかなさいまして?」

「教会が彼女を取り込もうと動いており、今回の井戸の浄化もそう言った動きの一つかと。ですので、これ以上、井戸を浄化して回るのは止めた方が良いのではないか、と考えております。」

「それはっ!」

「それでは、まだ、浄化されていない井戸のある地区から文句が出るのではないですか?」

シャンブレーとギャバジンが、声を上げる。

それに対し、アランは、前回の勉強会の後でケイティが心配していた事が現実になりつつある事を実感した。

「王太子殿下や高位貴族の公子様方の前で言う事では無いのかもしれませんが、」

と前置きをしておいて、

「だから、何です?」

と、冷ややかに突き放した。


「井戸の浄化は、あくまで光の乙女ルミナの善意で行われた事です。彼女の光の魔力の練習に使わせてもらう。その副産物として、井戸の水が清浄化された。ならば、感謝こそすれ、浄化してくれないからと文句を言う謂れは無い筈。それが、教会の巡回と回る事で、一種の教会の権威付けに使われてしまった。教会に頼めば、光の乙女が井戸を浄化してくれる、と。全く、あのシスターには上手くやられました。貴族の方々も教会経由でルミナさまの活動を知ったのでしょう?だから、一度は、彼女を市井のままに留め置く、と言う、王家の約束を反故にしてまで、彼女を取り込もうと画策している。

彼女自らが望んだなら、約束を反故にした事にはならない、でしたか?」

それは、一体、誰に向けて言われた言葉だったのか。

フライス王太子を始め、シャンブレーもギャバジンも下を向いたまま、何も言わない。


「今、ルミナ嬢はケイティやチャルカ、友人たちと一緒に浄化の魔道具作りに取り組んでいます。自分が直接、井戸まで行かずとも浄化を可能にするアイテムです。」

これを、とアランは手作りの巾着を懐から取り出して、リリアン公女の前に置いた。

「浄化石の第一号です。是非、リリアン公女様に、と(ケイティが)。」

最後は小声で付け加える。


リリアン公女の瞳がぱっと輝き、侍女たちが止める間も無く、巾着を掴んだ。

紅色のサテンの生地に金糸のリボン。リリアン公女の瞳と髪の色に合わせて作られた巾着の中には、親指の爪ほどの水晶が入っていた。取り出したリリアン公女の手の中で、それは、内部がキラキラとした光を湛えていて、ほのかに暖かい。


「それは、最初、ケイティの為にルミナが初めて作った物で、加減が分からず、目一杯、光の魔力が籠ってしまったらしく、」

とアランがくくっと声を出して笑う。

いつも殆ど表情を変える事の無い冷静沈着の化身のような青年の素の笑顔に、控えていた侍女たちばかりか、王太子たちも呆けた。

「こんな国宝級の物は自分には勿体ないから、是非、リリアン公女に、と、お願いされました。ルミナもそれでよい、と。」


アランはその時の様子を思い出して、更に笑顔になる。リリアン公女も、慌てるケイティの姿が想像できて笑ってしまった。

「でも、よろしいのかしら?」

「よろしいのではないですか?その巾着袋が証拠です。」

「えぇ、そうね。」

大切そうに水晶を巾着に戻す。リリアン公女はそれを両手で包むとそっと胸に当てた。

「暖かいわ、とても、暖かい。」


そうして、アランはフライス王太子たちに、ケイティがルミナの力を搾取されずに、下町の公衆衛生をどのように改善していこうとしているのか、その概要を伝えるのだった。


その日以降、リリアン公女は、常に襟のあるドレスしか着用しなくなった。

服の下に、公爵令嬢にはとても似つかわしくない粗末な巾着袋を首から下げるために。

そして、光の乙女ルミナが教会の巡回に同行する事も無くなり、王家主導で、下町の環境改善がなされることになる。






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