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ミッション 5

実は、私には最強ルートへの伝手がある。

それは、悪役令嬢ルートだ。

この乙女ゲーム『光の乙女は愛を紡ぐ』に出て来る公爵令嬢リリアン・ニッチングはテンプレの金髪紅眼、ボンキュッボンのドリルヘアなのだが、12歳の今はまだ、矯正可能な可愛らしい我儘令嬢のレベル筈だ。

そんな公爵令嬢と下町の宿屋の娘が知り合ったきっかけはベタもベタ。

王都のお祭りにお忍びでやって来た公爵令嬢が迷子になっている所を助ける、と言うやつ。

なんで、主人公のルミナや隠しキャラのチャルカじゃないかと思うでしょ。

いや、いたんだよ、二人ともその場に。

でもね、うち、宿屋でしょ。

迷子の子供を保護するのに連れて行く先として、うちになったんだ。

で、迎えがくるまで、私はリリアンお嬢様とずっと一緒、だったわけ。

まあ、その時は乙女ゲームの事なんて思い出していないから、どこかの裕福な商人のお嬢さま、と思っていたのだけれど。

その時に、

「何か困った事になったら、必ず、わたくしを頼って。」

と、リリアンお嬢様から渡された物があるのだ。


今、使わずに、いつ使う。


私はルミナの両親に許可をもらって、リリアンお嬢様から渡された手紙を持って、王都の超有名な商会に向かった。

流石に一番良い服を着て行ったけれど、それでも、貴族、しかも上級貴族ご用達の商会に入るのは勇気がいった。まともに相手をしてもらえない可能性も高いと思っていた。

けれど、リリアンお嬢様は、そんな私の不安にもきちんと配慮してくれていた。

もう、何年も前の事なのに、

「公爵家の封蝋にわたくしのサイン付きの手紙を持ってきた人がいたら、丁寧に扱う様に。」

と事あるごとに、商会の人間に伝えてくれていたらしい。

おかげで、私は、邪険に追い返されることも無く、商会の一室に案内され、リリアンお嬢様から渡された手紙を商会長に見せることが出来た。

用件を尋ねる商会長に私はルミナがフィッシャー伯爵家に連れていかれた事。でもそれは、アラン様の望んだ事では無く、ご両親の暴走である事を伝えて、ルミナの解放を願った。


「下町で光の魔力持ちが見つかった事は、私共も、聞き及んでいます。ですが、その子がフィッシャー伯爵家に保護されたのであれば、何の問題も無いのではありませんか?」

商会長の問いかけに、私は必死に首を振る。

確かに、平民が伯爵家に保護される、この上ない幸せな事だろう。だけど、ルミナもルミナの両親も、望んだ事では無いのだ。

貴族と平民の身分差の大きいこの世界で、平民の望みなど、道端の石ころより価値が無いかもしれない。けれど、それでも、平民の幸せが貴族に保護される一択では無いのだ。

私の必死さ、と言うより、リリアンお嬢様の手紙を持ってきた者を軽々しく扱えない、と言う、その一点で、商会長は、行動を起こしてくれた。


そして、相談したその日の内に、ルミナは自宅に帰って来た。

付き添っていたのは、立派な制服の騎士様で、その騎士服から近衛であると推測した私は、ルミナの無事を感謝するとともに、ひょっとして、不味いルートに足を踏み入れたのではないか、と震えた。


フラグ、だったわ。


今、私の目の前でニコニコ笑っている美少女は、リリアンお嬢様だ。依然と変わらぬ美少女振りにそこはかとなく色気が混じり始めて、何とも形容しがたい美しさだ。

今の私は、彼女が公爵家の一人娘で、王太子様の婚約者である事も知っている。だから、まさか、お祭りの時の様に、正体を隠して会いに来てくれるなんて思ってもみなかった。

滅茶苦茶嬉しい。彼女の手を握って飛び跳ねてしまうくらいには浮かれてしまった。

だけど。

そっと視線を隣に向けると、そこには口元に笑みを浮かべたけれど、目は笑っていない、恐ろしく整った顔立ちの少年が座っている。


フライス・パール・リンクス王太子。

リリアンお嬢様の婚約者、だ。


何で、あんたまでここにいるー!


乙女ゲームの王道攻略キャラ。金髪金目(但し、王家の人間の瞳は特殊で時に赤く染まるのが特徴、その特徴を持っていない事が彼の劣等感)の完璧王太子が胡散臭い笑顔で、下町の宿屋の食堂のギシギシ言う椅子に座ってるって、これは、何の罰ゲームですか?

あれですか、俺の婚約者に何させとるんだ、わりぁ、って奴?

この頃って、この二人、まだちゃんと婚約者してたんだよね。

関係が怪しくなるのは、ルミナが学園に入ってから、つまり、乙女ゲームが開始してからで。ぶっちゃけ、ルミナのせいなんだけど。

リリアンお嬢様は今は、ドリルヘアじゃ無いし、昔、話をした記憶からも、悪役令嬢からは程遠い性格だったんだけど。人は変わっていくのね。恋って怖いわ。

って、そんなフライスルートも回避しなくちゃいけないのに。

どうして、あんたまでここにいるの?ルミナ!

とチャルカ。

そして、アラン様!

またお目にかかれて嬉しいです!じゃなくて、私、アラン様はルミナの誘拐には無関係だって、ちゃんと商会長さんに言ったのに。どうして?そんな諦めた目をしているの?


「改めて、久しぶりね、ケイティ。そしてあなたたちも。」

うちの粗茶を優雅な仕草で一口飲んで、あら、懐かしいわ、と微笑んだその笑顔のままで、リリアンお嬢様は言った。

「あのお祭りの時は、とてもお世話になったわ、ありがとう。ずっと、直接、お礼が言いたかったの。」

ブンブン、と私は首を振る。

「お嬢様を迎えに来た人から、沢山お礼をもらったって、お父さん、あ、父が言ってた、あ、言ってました。ちょっと、部屋で休んでもらっただけなのに、貰い過ぎだって。」

そんな言葉に詰まる私に、リリアンお嬢様はちょっと寂しそうな顔をして、

「ケイティ、あの時みたいに普通に話して。あなたは、きっとわたくしの正体に気が付いてしまったのね。」と言う。

だから、私は、悪いのはリリアンお嬢様じゃなくて、その隣の王太子殿下だと、わかってもらいたくて、ちらりと視線を彼に動かした。

そう!この顔に、ピン、と来ない国民はいない。だって、そこ!そこの宿屋の奥の壁に、国王ご一家の肖像画が飾ってあるのよ!、私からみたら、ばっちり、遠近法で隣り合って見えるわ。


私の視線誘導に気が付いてくれたリリアンお嬢様は大きく溜息をついて、隣の少年をきっと睨んだ。その顔も可愛らしいとデレる王太子。

私は何を見せられているのか・・・。

「もう、フライスのせいですわよ、わたくし、ケイティに会うのをとても楽しみにしていたのに。台無しですわ。」

「それは、困ったね、リリアン。でも、婚約者の私としては、君が私との約束より優先するものが何か、とても、とても、興味があったのだよ。」

そう言ってリリアンお嬢様の手を取る王太子。


おーい、私の隣に、あんたの運命が座ってるよー。


フライスルートで、悪役令嬢のリリアンお嬢様を卒業記念パーティの場で断罪した時のあんたのセリフ

”リリアン、君との婚約を解消する!彼女こそ、光の乙女ルミナこそ、私の運命だ。私は、このルミナと愛を紡いでいく。”

そうのたまうキラキラスチルを思い出すわー。怒っ。

リリアンお嬢様みたいな完璧美少女婚約者がいるのに、いくら光の魔力持ちだからって、ルミナと浮気するあんたが、私は一番嫌いだった。きっと今の私の背中にはゴゴゴゴゴっていうエフェクトが出てると思う。


「私は嫌われているのかな?」

「オホホー、マサカ。オウタイシデンカ。ソンナコト、アリマセンワー。」

私とフライス殿下の間に冷ややかな空気が流れる。

「ケイティ。」

そんな空気を溶かしたのは推しが私を呼ぶ声だ。

「今回の、ルミナ嬢に関わる事件は、全て王室預かりとなった。こんな事を引き起こした当事者の身内でありながら、厚かましいのだが、ルミナ嬢は攫われてはおらず、昨日は、礼儀作法の勉強の為、教会のシスターと共に、フィッシャー伯爵家に泊まった、と。

そう言う事になっている。」

苦しそうに言うアラン様に、私は推しにこんな表情をさせるフライス殿下が益々嫌いになった。

何があっても、フライスルートはぶっ潰す。心の中で、私はフライスに向かって中指を立てた。





ミッション5

王太子ルートを潰そう


スタート




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