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ミッション 4

「ケイティ!」

「ルミナ・・・。」

「えーん、良かったよぉ。良かったぁ。」

グスグスと泣く光の乙女・ルミナがタックルする様に抱き着いてきた。私が転ばなかったのは、偏に支えて下さったアラン様のおかげである。

「死んじゃっちゃかと思ったぁ。」「私もだよ。」

思わず同意すると、ルミナの新緑の瞳から、どばーっと更に涙が溢れた。

「ごめんね、ごめんね。私が光の魔力持ちだって言えば、関係ないケイティは、帰してもらえると思ったんだよ。」

あー、うん。そうだとは思ったけど。でも、それは

「一番、言ってはいけない事だったな。」

私の代わりにアラン様が答えた。

「人さらいが二人を攫ったのは、どちらが目的の光の魔力持ちか、わからなかったからだ。ターゲットが明確になれば、そうではない方は、只の足手まといのお荷物だ。処分するのは当然だろう。」

足手まとい、お荷物、処分。

おう。

情け容赦ないお言葉。

ぐさぐさと胸に刺さります。

身を固くする私に気付いて、アラン様は一度降ろした私をまた抱き上げた。

今度は縦抱き。親が子供を抱っこする抱き方だ。


だから、近いです。お顔。


「ケイティ、と言うのか?偉かったな、よく頑張った。」

そう言って開いている方の手で、私の頭を撫でてくれたアラン様からはさっきまでの厳しい気配が消えていた。

はわわー。私一生頭洗いません。

でも、私は気が付いた。まだ、アラン様に助けてもらったお礼を言っていない!

これでは、只のダメな子だ。

「あ、あの、助けて頂いて、ありがとうございます。」

本当はちゃんと降ろしてもらって、頭もきちんと下げたかったのだけど、縦抱きされた状態ではぺこりと首が曲がる程度にしかならない。

アラン様は目を細めて微笑むと、また、頭を撫でてくれた。

って、言うか、いつまで抱っこしてくれてるのかな、嬉しいけど。


「ありがとうございます!」

ルミナも頭が真下を向く程、腰を折って礼を言う。

それに対して、アラン様は苦しそうな表情を一瞬浮かべた。

「アラン様!」

人さらいの方が片付いたようで、アラン様を呼びに騎士様が駆けて来た。

アラン様に抱っこされている私に向ける視線が痛い。

「あ、あの、降ろして頂けると・・・。」

もごもごと口ごもると、アラン様が、ああ、と気が付いてくれた。「レディに対して失礼だったな。」

そう言ってかがんで、私を開放すると、そのまま手を取ってそっと口付ける真似をする。

「勇敢なレディに敬意を。」


ひょえぇ~。

腰が、腰が砕けそうです。


そんな私を残してアラン様は荷馬車の方に去って行き、迎えに来た騎士様は、ルミナを促してその後に続く。そして、振り返って私を睨みつけると、「お前はここにいろ。・・・ただの平民風情が、いい気になるなよ。」と吐き捨てるように言った。

その言葉は、当然、ルミナにも聞こえていて、ルミナは驚きのあまり、その場に立ち止まった。

「ルミナ様?どうかなさいましたか?」

騎士様はいぶかし気にルミナを見下ろす。その目には、確かに憧憬があって。

「私も、私も平民です。」

震えるルミナの声を聞いても、彼は、不思議そうな顔をするだけだ。

「ですが、光の魔力持ちでいらっしゃいます。フィッシャー伯爵家は、皆、ルミナ様をお迎えする事を望んでおります。」


ちょっと待ったぁー。


ルミナの誘拐犯は下級貴族の筈。どうして、フィッシャー伯爵家が犯人なの?って言うか、今、ここで、犯人ってばらして良かった?

いや、まて、あれ?犯人は下級貴族だけど、助けたのがフィッシャー伯爵家だから、そのお礼にルミナを囲い込む、と?

あれ、あれ?そう言えば、アラン様が、最初に、何か言っていた様な・・・。

思い出せ、私!

サラサラの銀髪が光りを弾いて美しかった~。軽く汗をかいていたからか、ほのかに体臭が、って、おい!そうじゃないよ、私。


「すまない。これは、俺の責任だ。光の魔力持ちに過剰反応した俺の家族がやった事だ。」


あぁ、確かに、そうおっしゃっていた。

ひょっとして、チャルカルートは回避できなかったんだろうか?


「ルミナ!ケイティ!」

そんな混乱した私に、チャルカの声は救いだった。

私たちに向かって走って来るチャルカは焦ってはいたけれど、怪我をしてはいなかった。チャルカルートで死にそうになって、道端に転がっていたスチルが崩れ落ちる。

良かった、チャルカは無事だ。なら、これはチャルカルートじゃない。

けれど、駆け寄るチャルカに騎士様は、鞘のままだったけれど、剣を向けた。

「平民!それ以上、ルミナ様に近寄るな。」

向けられた殺気に、切り殺されてもおかしくない、と実感した。


「さあ、行きますよ、ルミナ様。」

強引に背中を押すように連れて行かれるルミナを私とチャルカは、縫い付けられたようにその場に立ち竦んで、見送るしかなかった。

あの騎士様にとって、私たちを切るなど、人さらいを切り捨てるよりきっと簡単だ。むしろ、光の乙女ルミナにまとわりつく邪魔な羽虫、程度の認識かも知れない。


大丈夫、大丈夫。アラン様はすまない、って言ってくれた。きっと、大丈夫。

何度もそう繰り返して、ようやく声が出るようになった。

「行こう、チャルカ。」

私は歩き出した。荷馬車とは、反対方向。王都に向かって。

今、ここで、ルミナに駆け寄ったところで、私とチャルカに出来る事は何もない。例え、アラン様がかばってくれたって、それこそ、ただの平民風情、しかも子供だ。せいぜい、良くてはした金を握らされてさよなら、悪ければ口封じに人生サヨナラ。

なら、今、ここでは、謝ってくれたアラン様を信じよう。


「おい、ケイティ、」「黙って、チャルカ。」

私はチャルカの手を握ってずんずん歩く。「ルミナの両親に知らせなきゃ。もし、このまま、私たちが帰らなかったら、ルミナも私達も行方不明扱いだよ。」

助けは来た。

けれど、その助けが、全ての問題を解決する訳では無いのだ。


こんな時の為の、お助けキャラだ。

そう思った私は教会の肉食シスターに助けを求めた。

そして、絶望する。

この状況を生み出したのは、こいつだった!


この女、自分がルミナに避けられている事を逆手に、教会上層部にフィッシャー伯爵家に掛け合って、アラン様を魔法の教師に推薦するよう仕向けやがった!

乙女ゲームのシナリオを知っていれば、アラン様の両親が、アラン様の闇属性を忌避している事を当然知っている。ルミナの、光の乙女の魔力をもって、アラン様の闇属性を封印する、そんなありもしない事を信じるほど、追い詰められていたなんて。


くうぅっ。

アラン様がルミナの教師になるなんて、あり得ないから油断してた。実際、魔導師としてお忙しいアラン様は、今日一日、の約束で教会を訪れていたらしい。


何が、フィッシャー伯爵家で保護してもらえれば、安心、だ。

何が、私が様子を見に行きますわ、だ。


お前の魂胆駄々洩れ、なんだよ。

「これで、堂々とアランの傍にいられる。」って、丸聞こえだ。

光の乙女を保護した功績をもって、フィッシャー伯爵家でルミナの専属魔法教師となる。

それが、肉食シスターが提案した交換条件だ。

「モブ平民とルートの壊滅したモブ隠しキャラじゃあ、どうしようもありませんわぁ。」

顔色を変えた私たちに、止めを刺すように、自分の優位を押し付ける。


「では、ごきげんよう。わたくしは、これから、光の乙女のお世話をしに、参りますの。」

肉食シスターは高笑いを残して消えた。


おのれ、許すまじ。

乙女ゲームのシナリオを知っているのは自分だけだと思うな!


ミッション4

アランルートを回避しよう


コンティニュー





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