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ミッション 3

因みに、乙女ゲーム『光の乙女は愛を紡ぐ』での私の推しキャラも、アラン・フィッシャーなので、当然、肉食シスターに譲る気は無い。かと言って、主人公・ルミナがアランルートに入るのも、ちょっともやっとする。仕方ないよね。推しキャラだもん。


アラン・フィッシャー、伯爵家次男。ゲーム登場時点で、主人公の15歳年上の31歳。腰まで届く長いストレートの銀髪とけぶるような紫の瞳の美貌の魔導師長。数少ない、複数属性持ちで、実は隠しているけれど、闇属性も持っている。複雑な生い立ちから、かなりの皮肉屋で、魔物討伐に参加する主人公たちを、お荷物扱いする。けれど、それは心配の裏返しで、危険に近寄らせたくないからの行動で、ピンチの時には必ず助けてくれるツンデレキャラだ。たまにボソッと呟かれる「無事で良かった」「無茶をするな」等々のセリフが、かなりのユーザーの心を打ちぬいた。かく言う私もその一人だったのだけれど。

それは置いておいて。


現時点、主人公10歳時では、アラン様は25歳。既に高位魔法を会得していて、王宮魔導師として、確固たる地位を確立し始めた頃だ。華やかな活躍の裏で、人々の醜い下心に人間不信の一歩手前まで来ていた時期の筈。

そんなアラン様が王都とは言え、こんな下町の教会に来る。しかも、子供の光魔法の教師として。どして?

あの肉食シスターは、私のアラン様に何をしたと言うのだろう。


考えていても何の解決にもならない事ぐらい、10歳+20ン歳の私は知っている。

ならば、行動あるのみ!

今の私は自称ルミナのお世話係だ。ルミナもそれを認めているので、彼女に関する事柄についてだけは、結構我儘が通じる。

「今日から、新しい先生が来るんだって。とっても偉い人だから、断れないんだよ。でも、私も他の子も、今日は一緒に行けなくて。こんな事頼めるの、チャルカしかいないんだ。」

「ケイティ、駄目だよ。チャルカはもう一人前の職人さんなのだから、私達みたいな子供に関わっていられないよ。」


自分も不安でたまらないのに、こうやって人の事を思いやれるのは、やっぱりルミナが光の乙女だからなのかもしれない。

そんなルミナをチャルカが見捨てるはずも無く、チャルカはルミナの送迎をしてくれる事になった。ただ待っているのも時間の無駄だろうから、私は出張鍛冶屋さんをお勧めした。

前世でスーパーなんかに来ていた、包丁研ぎの人みたいなの、ね。


教会の横で、包丁を研いだり、歪んだ鍋を直したり、曲がった釘を直したり。

この世界の鍛冶屋さんは結構色々出来るのだ。

チャルカの修行にもなるし、顔も売れる。子供が修行でするから、と値段を安く設定すれば、かなりのお客さんが見込めると思うんだよね。

そうやって、チャルカが教会(の横)にいれば、何か起こっても、直ぐ、対応が出来るし、もし、沢山の人が来てくれたら、それだけで、何かしようなんて、思わなくなるかも、だし。


ひょっとしたら、アラン様の護衛の人たちから、どうして、アラン様がルミナに魔法を教える事になったのか、その理由も聞けるかもしれないしね。

用事が済んだら、私も覗きに行ってみようかな。

ちょっとして、若いアラン様をちらっとでも見れるかも。


なんて、夢見ていた時もありました。


どうしてこうなった?

はい、私は今、ルミナと一緒に、荷馬車の中に放り込まれています。頭から、ずた袋を被せられて、足首を縄で縛られています。


アラン様をチラ見したかったんだよぉ。ただ、それだけなんだよぉ。


「どっちが光の魔力持ちなんだ?」

ぼそぼそと、荷馬車の荷台で話す、男たちの言葉が聞こえてくる。

おいこら、おやじ。そんな聞こえるように言うんじゃない。ルミナが自分のせいだって、悲しむじゃないか!

「あ、あ、あのっ。」

震えながら、ルミナが声を出す。

「わ、私が光の魔力持ちです。ケイティは無関係だから、逃がしてください!」

ぎゃー、やめて、ルミナ。それ、言っちゃいけない奴!!

人さらいどもは、私とルミナのどっちが光の魔力持ちか、分からなかったから、二人とも攫った。

もしここで、本物がわかったなら、邪魔な偽物は不要だよね。

それって、つまり・・・。


「ほぅ、今、喋ったのはどっちだ?」

「私です!私が光の魔力持ちです。」

ずた袋を外して、私とルミナの顔を確認した人さらいは、ニヤリと笑うと、「ふん、確かにこっちの子供の方が、神聖な感じがするな。」と超失礼な事を言った。

「ピンクの髪と聞いていたが、二人とも黒いぞ。おい、水と油を持ってこい。」

人さらいの命令で、ボウルに用意されたそれを、外したずた袋を裂いた布にふくませ、ごしごしと髪の毛を乱暴に擦った。


チャルカルートでのルミナの誘拐を知っていた私は、ルミナが教会に行くときは必ず、例え子供でも護衛をつける事を徹底させた。それともう一つ。ルミナが乙女ゲームのヒロインであることを如実に語るそのピンクブロンドの髪の毛を、染める事。わずか半日、外で不特定多数の目に触れる時に、誤魔化すことが出来れば良い。

そして、それはここまでは成功していた。

                         

もともと、黒い私の髪に変化はなく、ああン!?と表情を厳しくした男が、ぐい、とルミナの髪をひと房強引に引き寄せた。

水と油をしみこませた布は、一拭きで、安物の染料を拭い取り、ルミナの目立つピンク髪が現れた。

「こっちが本物だな。」

そう言うと、人さらいは、いきなり、私の足を縛ったロープの結び目を掴んだ。

ほどいてくれるのか、とルミナがホッと表情を緩めるのが見えた。

違うよ、ルミナ。これはね、邪魔者の私を・・・


結び目を掴んだ人さらいは、そのまま私を持ち上げると、勢いよく、荷馬車から放り投げた。


地面に叩きつけられた方が、恐怖は少なかったかもしれない。

私の名を叫ぶ、ルミナと、指差して大笑いする人さらいの声が、高く、空に放り投げられた私にも聞こえた。

一瞬の静止。

そして、落下。

私と言うモブの死が、主人公ルミナにどんな影響を与えるのだろう。

『こんな裏設定、一体、誰ルートよ。』

ぐちゃり、と潰れたトマトのような自分を想像して、短い第二の人生だったと思う。


だけど、私は潰れたトマトにはならなかった。

途中から、落下速度が落ちて、私はふわりと誰かの腕の中に着地した。

「大丈夫か?」

その聞き覚えがあるけど、ちょっと違う声に、ぎゅっとつぶっていた目を、恐る恐る開けた。

近い、近い、近い!

推しの顔が、めーっちゃ、近くにあった。

息が停まって、キュン死するかと思った。


私を助けてくれたのはアラン様で。風魔法を使って、落ちてくる私を受け止めてくれたのだった。

ああ、女神様!私、こんなご褒美もらって良いのでしょうか?

恐らく真っ赤になって、口と目をこれでもかと見開いた私は、物凄くブサイクだったと思うけど、アラン様はそんな私をしっかり抱いたまま、

「すまない。これは、俺の責任だ。光の魔力持ちに過剰反応した俺の家族がやった事だ。」

と、平民の私に謝った。

俺!

アラン様から”俺”頂きました!

乙女ゲーム内の31歳のアラン様は魔導師長の地位もあって、一人称は”私”だ。”俺”と言うのは、好感度がカンストして、初めてエンディングで使われる一人称だった。

でも、でも。まだ、25歳のアラン様は自分の事”俺”って言うんだねー。尊い。

さて、横道に逸れてはいけない。

私はアラン様の謝罪を聞いて、理解した。

「私は、光の魔力持ちじゃありません!その子は、ルミナは、まだ、荷馬車の中です!早く、行ってあげて下さい!」

けれど、アラン様はモブ平民の私を姫抱っこしたまま、スタスタと歩いて、荷馬車の向かった方角へ向かう。


「自分が死にかけたと言うのに、他人を気遣うのだな。」

向かう先から、何やら聞こえてくる叫び声に、びくっと体が震える。

アラン様はそんな私を安心させるように、更に強く抱き締めてくれた。

「大丈夫だ。この先で待ち伏せをしている。心配いらない。君の友達は、必ず無事に連れて帰ると約束する。君が光の魔力持ちの少女に付けてくれた鍛冶屋の少年が、君たちの危機を、ちゃんと俺に知らせてくれたおかげだ。」


チャルカ、グッジョブ!



ミッション 3

誘拐を回避しよう


クリア?




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