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ミッション 25

たどり着いたのは、港から北へ半日ほどの街。既に日も沈み、これから宿を探そうとしても難しいだろうと言う時刻だったが、護衛を依頼した冒険者のうちの一人が先行し、しっかり宿の手配を済ませていた。お陰で、私たちは旅の汚れを落として、ちゃんとした温かい食事も摂る事が出来た。

リンクス王国どころか、王都からでさえ出た事が無かった私にとって、同業者となる他国の宿屋のノウハウを知るまたとないチャンスだ。ただでさえ、建物自体が王国と帝国では、全く違うから、宿の外観も内装も全然違う。食事が小さなお盆に乗って一人分ずつ提供されたのも驚いた。別に特別仕様、と言う訳では無いらしい。慣れない味でも美味しく、食後のお茶が絶品だった。どうやら、これはこの地方だけに生育する低木の実を乾燥して作ったお茶らしい。リリアンお嬢様のハーブ茶に匹敵する美味しさだ。

これぞ旅の醍醐味、というのだろうか。

私が色々な発見を楽しんでいる間に、アラン様は情報収集を終え、今後の予定をチャルカと話していた。


そして、夜中。

ある程度の大きさの街には必ずある、と言う、祠の前に私達はいた。

白木造りの祠は、小さな犬小屋位のサイズで、前面に扉は付いているが、常に開いているらしい。じゃあ何の為に扉付けたの?って思うけど、そう言う物、何だって。よくわからん。で、中には小さな龍が祀られている。その前には小さなひし形のお供えが山と積まれていた。

「ほとんどが、龍の鱗を模して木か石を削って作った供物だ。」

自分も懐から一枚の鱗を取り出してアラン様が説明する。

「鱗に願いをかけて祈れば、偉大なる初代龍皇帝が聞き届けてくれる、と言われている。勿論、そんな事実はこれまでは、一つもない。けれど、今回ばかりは確実に本体につながるだろう。」


アラン様の手の中で、白銀の鱗が黒く染まっていく。

「闇魔法、ですか?」

アラン様は頷いて、色が変わった鱗を小龍の小さな頭の上に乗せた。その為に作られているのだと明らかにわかる、小龍の頭の二本の角の間に、捧げられるように置かれると、鱗は溶けたバターのように小龍の表面を覆った。


『えっ、こんなことして大丈夫なの?』


頭から泥水をかけられたようになった小龍の像に、どう反応して良いか迷っている私の目の前で、像は形を変え始めた。

ぐにぐにぐに、と黒い塊が動き出し、私は驚いてアラン様にしがみつき、チャルカは腰の短剣を構えた。アラン様だけは、こうなる事を予想していたのか、いつもの様に冷静で、いや、むしろ、ちょっとワクワク?していた。


ぐぐーっと、最期に伸びをするように二本の腕を天に伸ばし、小龍の像は、小人になった。アラン様の闇魔法で染まった体は、白磁の肌と黒髪黒目に変わっていた。

「おお、意外と早いお帰りだったな、ご子孫。」

しゃべった!?

いや、それより、ご子孫って何?ひょっとしなくてもアラン様の事ですか!?ちょっと、その話、もっと詳しく!に、しても、こ、これは・・・。

なんかあまりにも非日常すぎて、テンションが変な事になっている。私は、アラン様と新しく生まれた小人を交互に見ては、ほぇ、とか、はぁ、とか、意味不明な感嘆詞を口からこぼしていた。

流石にチャルカの緊張感も緩んで、ポンポンと、私の背中を軽く叩く。


「タイミングが大事だからね。私は自分のツケは自分で払う。奪われた物も取り返すしね。」

「おやおや、あれは、正当な取引だろう?」

「本当に、そう思っているのなら、わざわざ、鱗などよこさないのでは?これは、貴方と繋がる為の必要アイテムでしょう?」

ふっ、バレてしまったか、そんな風に肩を竦める小人は、話の流れから言って、初代龍皇帝関連の人?もの?なんだろうけど・・・。


「か、」

「か?」

「かっ」

「かっ?」

「かっわいいー!」

私の目はきっとキラキラしていたに違いない。私が何か言う度に、期待したように胸を反らす小人さんは、”可愛い”にがっくりしたように。その場に倒れ伏した。

「いやーん、可愛いいー。」

思わず、すくい上げて、すりすりしてしまった。

私の手のひらの上で、遠い目をして脱力している元小龍の小人さんは、金太郎の腹掛け姿のぽってりとしたお腹の金太郎カットの幼児だった。元小龍だったからか、腹掛けには”金”では無く、”龍”の文字。って、ここで何故、漢字!

もう、何、このカオス。誰か、私を止めてー!暴走している自覚はあるのに、何だろう、止まらない。

小人さんをぬいぐるみのように抱き締めて、クルクル回り出した私に、流石に、異常を感じたのか、アラン様が、私の肩を掴んで自分の胸に抱き寄せた。


一瞬にして、我に返る。

ぺいっと小人さんを引き剥がして、祠の中に戻すと、アラン様は、今度は片手で私の顎を掴んだ。そのまま、至近距離に顔が近づいてくる。

別の意味でパニックになった。

「あああ、あらあらあら、あらんらんらんさま?」

「黙って。」

静かに紡がれる言葉が、発せられるたびに、アラン様の息が私の顔にかかる。

もう、駄目だ。心臓が持たない、死んでしまう。


きっと、時間にしてほんの数秒。

だけど、私には永遠に近い時間が流れ、アラン様はのぞき込んでいた私の目から、視線を外した。

「うん、これで、大丈夫。魅了の効果は消えている。」

顎を掴んでいた手は、そのまま、ごく自然に頬を撫で、私に安堵した笑みを見せて、アラン様は小人さんに向き合った。

「これは、これは、我のせいでは無いぞ!魔法耐性の無い者など、何故、連れて来たのだ。そのような者が龍の権能に耐えられる筈が無かろう!我は悪くない!」

アラン様の咎める視線に、慌てて小人さんが言い訳を始める。


魔導師長であるアラン様は勿論、乙女ゲームの隠しキャラだったチャルカも実は魔力持ちだったりする(平民なのにおかしいよね)。一方、転生者と言えど、特に何も特典をもらっていない私には無い。

小人さんは、初代龍皇帝の関係者で、強い魔力を持っているから、魔力を持たない、私のようなモブ平民は、すぐに魅了される、らしい。

モンハンナ帝国の建国時には非常に役立った能力だったらしいけど、それって、どうなの?


何はともあれ、私達は、モンハンナ帝国に来た最初の目的、初代龍皇帝に会う、はこうして、叶ったのだった。

え?小人さんが初代龍皇帝なのかって?

そんなはずないじゃない。

小人さんは、初代龍皇帝の分身の一つだよ。だから幼児、なんだね。でもって、小人さんを通じて、本体に話をするんだ。

これからが、本番。





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