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ミッション 23

モンハンナ帝国の対応はわかった。

アラン様の予想通りだった。ならば、私達の計画を実行段階に移す。


「この度、フライス王太子殿下をこちらにお招きしたのは、許可を頂きたいからです。」

改めて、アラン様が口を開く。

「光の乙女を守れなかった罰として、私、アラン・フィッシャーの魔導師長の任を解き、王都追放処分としてください。」


「魔導師長を解任して、王都追放?」

「待て待て待て。どうしてそんな事になる?流石にそれはやりすぎだろう。」

アラン様の申し出に、フライス王太子もギャバジン・ツィルも理解できずに目を白黒させている。

罪を問わない、と言うなら当たり前だ、と答える。

討伐隊として、きちんと虎狼狸を倒したのだ。

モンハンナ帝国に長期間滞在した事で、懐柔されたのでは、などと容疑を駆けられる可能性もあるから、これまで通りの地位を約束して欲しい、と言われても、多少、周りは騒ぐだろうが、王太子としては片腕を犠牲にしてまで帰国した魔術師長の忠誠を疑うような真似はしたくない。ほんの少し、心に留め置く程度には警戒するとしても。

けれど、光の乙女を守れなかったから、解任?追放?


「モンハンナ帝国からの正式な書面、そして、シスターの手紙から、向こうは私が生きていて、帰国した事を知らないのでしょう。」

シスター・アミは、龍廟に入ったまま出てこない自分たちを、禁忌に触れたと説明したのだろう、とアラン様は続ける。

「実際、龍廟の中には、資格の無い者は排除されるシステムが組まれていました。」

多分、私達に話した時は敢えて黙っていたのだろう、アラン様は少し詳しくフライス王太子に説明する。

「シスターに従った騎士達はその罠に囚われていました。何故、彼女が無事だったのかは、わかりません。しかし、彼女は龍廟で何かを手に入れ、それによって、何らかの力を得た様でした。私とルミナは、柱に吸い込まれ、遠くに龍の鐘が鳴る音を聞いたのです。」

「龍の鐘を鳴らすための、生贄?」

「恐らく。」


沈黙が続いた。

やがて、フライス王太子が口を開く。

「死んだことになっているのなら、其方の魔導師長の職を解く事と追放に意味は無いだろう?」

「いいえ。」

とアラン様は首を振った。

「光の乙女が失われた事を国民に説明する必要があります。」


今までは、病の魔物・虎狼狸討伐に成功し、モンハンナ帝国に滞在している、と思われていた。けれど、春を過ぎても帰って来ない光の乙女に、帝国に捕まっている、とか、帝国に寝返ったとか、色々な噂が出てきているのも事実だ。

今回のモンハンナ帝国の書簡は正式なものだ。

これをもって、帝国は、ルミナの返還要求に対し、無関係、を表明できる。

一方的な主張が通っているようだが、リンクス王国がこの件に関して、消極的だったのは、紛れも無い事実だ。


つまり、リンクス王家は、ルミナとアラン様を見捨てたのだ。


「フライス王太子殿下にとって、ルミナは帰って来ない方が、良かったんですよね。」

そう、断言した私に、今度こそ、フライス王太子は青ざめる。

「だって、ルミナが帰って来なければ、殿下の婚約者にリリアンお嬢様が復帰できるから。」

「えっ!?」


これは乙女ゲームのノーマルエンドのお約束だった。

攻略対象者との好感度をルートに入る手前で止めて、悪役令嬢とも敵対せず、友情をはぐくんだ時のエンディング。ある意味、ハーレムルートより難しいし、誰ともイチャイチャしないなんて何のための乙女ゲームか、と疑問視されたルート。

光の乙女の力で王国の危機が救われた後、光の乙女は、身分違いを理由に身を引き、王太子妃にはリリアン・ニッチング公爵令嬢しかいない、と再婚約する。


実際、フライス王太子がルミナと婚約するときにどんな約束が交わされたのかは知らない。

だけど、婚約中のフライス王太子がどんだけリリアンお嬢様に首ったけだったかは、知っているから、彼が何の見返りもなく、リリアンお嬢様との婚約を解消するとは思えなかった。

案の定、今度は真っ赤になったフライス王太子をリリアンお嬢様が問い詰める。


フライス王太子とルミナの婚約は、この流行病が落ち着くまでの暫定的なもの。光の乙女を自国に囲い込むための手段であって、彼女が、この国に留まってくれるのであれば、婚約者はフライスである必要はない。但し、市井にいたのでは、誘拐の危険もあり、新たな婚約者にも貴族の身分が欲しい、と色々な思惑があった。あの時は、ルミナの実父が滞在していたこともあり、一番身分の高い、フライス王太子を婚約者にするしかなかった、と言うのである。


「三年、と言われたのだ。」

必死の形相でフライス王太子は続ける。

「三年で流行病に目途をつける、その間に、彼女の相手に相応しい貴族を探すから、と。・・・、その、ニッチング公爵もご存知だ。」

「お父様も?」

流石にフライス王太子の独断や王家の暴走では無かったようだが、リリアンお嬢様も初めて聞く話だったらしい。

私には貴族社会の事は全くわからないけど、色々、面倒くさそうだな、とは思った。巻き込まれたルミナにとってはいい迷惑だ。


「それで?」

だけど、そんな貴族の都合は、どうでもいい。

「流行病も下火になってきたし、ルミナが滞在しているのは、実父の国。恩を着せる事も可能、と、考えて、何もしなかった、と?」

私の言葉は、王太子に向けて放って良い言葉では無かったのだろう、流石に、ギャバジンがむっとする。

だけど、最初に、この下町の宿屋に来た段階で、お忍びである時点で、私達の立場は対等だ。

それが、この宿屋で、私とリリアンお嬢様が会う時の大前提だ。


「殿下・・・。国の方針である以上、公爵家に属するわたくしに反対する権利はございません。ですが、せめて、18の成人を迎えた時には、教えて頂きたかった。・・・これは、独り言でございます。」

「リリー・・・。」

フライス王太子は、リリアンお嬢様を振り切るように、アラン様に視線を向ける。

「フィッシャー魔導師長にも、迷惑をかけた。其方があちらに拘束されたのは予想外だった。

其方なら、問題ないだろう、と。全て上手くやってくれるに違いない、と勝手に思い込んだ。邪魔になってはいけないと、敢えて何もしなかった。詳細を調べもせず、他の事を優先した。全て、私の怠惰だ。そのツケを払わせてしまった。」

すまない、と頭を下げる王太子に、アラン様は無言で頷き、謝罪を受け入れたけれど、ギャバジンがむっとして反論した。

「殿下!ご婚約の解消から、魔物討伐まで、全て、国の方策です。殿下個人が謝罪する必要は、全くございません!」

「だとしても、だ、ギャバジン。

私は、今ここで、リリーに誠意を見せるべきだと思うのだ。彼女の心を傷つけた。その償いを。

本来なら、ルミナ嬢にも謝罪をすべきだと思う。だが、彼女に謝罪したところで、それは自己満足に過ぎないだろう?せめて、ご母堂を解放して差し上げたいが・・・。今、帝国に光の乙女が不在とあれば、彼女の行方を知ろうとご母堂の身に危険が及ぶかもしれない。今しばらく、王宮で保護させてもらいたい。本来なら、光の乙女本人も保護したいのだが・・・。」


「御心配には及びません。ルミナはわたくしが保護いたしますわ。」

リリアンお嬢様は断言した。

「ルミナは生きて、ここにおります。」







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