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ミッション 22

お助けキャラ肉食シスターのモンハンナ帝国での情報を集める傍ら、リリアンお嬢様はフライス王太子に、一緒に帝都に行ったはずのアラン様とルミナの安否を確認するよう依頼した。

リンクス王国からの問い合わせをのらりくらりと躱していたモンハンナ帝国も、一緒に帝都入りしたシスターが、龍巫女ともてはやされているのだ、アラン様達の事もご存知ですよね、と強気の書面を送られて、ようやく正式な返書を返した。

今日、フライス王太子がここにいるのは、その返書に書かれた答えをリリアンお嬢様に伝えるためだ。


冬の間、王宮はルミナ達の帰国を促す要望書を送っていたが、それ以外の何もしていなかった。

国力の差があるから、と言って、冬期間の山越えが危険だからと言って、王太子の婚約者を長期間拘束する理由にはならない。モンハンナ帝国にもリンクス王国の大使館はあるし、南に下れば、海から船で帰る事も可能だ。だから、西方山脈近くに滞在していた討伐隊の大部分は、当初は重症で動かせなかった者ですら、回復した順に南下し、交易船に同乗して、冬の間に帰国している。

その手配はリリアンお嬢様のニッチング公爵家がしたのだから、間違いはない。


それもあって、フライス王太子はリリアンお嬢様の依頼を無下には出来なかった。


19歳になったフライス王太子は、まあ、乙女ゲームのスチルそのものの姿、で宿屋の食堂の椅子に座っていた。相変わらず、場にそぐわないですね。

相対する席には、アラン様とリリアンお嬢様が座っている。フライス王太子の後には、ギャバジン・ツィルが立っており、出禁が生きているシャンブレー・オックスフォードは宿の外、玄関前に突っ立っていた。目立つからどっか行って欲しい。真剣に。


最初はね、あれから何年も経っているし、ルミナと一緒に学園にも通ったみたいだから、少しはまともになったかな、と思って、フライス王太子の護衛として、中に入れてあげたんだよ。

でも、ここにいる筈のないアラン様が現れた途端、こっちの事情も聞かないで、ルミナはどこだ!どうして一緒じゃないんだ!彼女を守るのがあんたの役目じゃ無いのか!等々。叫んで詰め寄ろうとしたから、顔にカップの中身をぶちまけました。


リリアンお嬢様が。

「リ、リリー?」

リリアンお嬢様の行動にフライス王太子がドンびいた。

「あら、わたくしとしたことが。折角、ケイティが淹れてくれた新製品のハーブ茶でしたのに。無駄にしてしまいましたわ。ごめんなさいね、ケイティ。」

「え?謝罪ってそっち?」

ギャバジンが驚いた。


ハーブ茶をかけられた当の本人・シャンブレー・オックスフォーは呆然と顔から、ハーブ茶を滴らせている。

あと少し遅ければ、私がやっていたところだった。

と言うか、私がやりそうだったから、代わりにリリアンお嬢様がやってくれたんだろうな、きっと。

だって、流石に平民の私が伯爵令息の顔にお茶をぶっかけたら、只じゃすまないよね。

でもさ、許せないでしょ。アラン様がどんなに苦労して、ルミナをここまで連れて戻って来てくれたのか、知らないで。

「自分は、虎狼狸討伐もせずに、戻って来たくせに。」

ボソリ、と呟いたつもりの私の言葉は、意外と響き、シャンブレー・オックスフォードは、真っ赤になって下を向き、そのまま宿の外に出て行った。

流石に護衛対象のフライス王太子を放って帰ったりはしないだろうから、玄関前にいるのだけれど、何と言うか、うん、成長してないね。


冷ややかな視線になるリリアンお嬢様に、フライス王太子は居心地が悪そうだ。

シャンブレーに名指しで非難されたアラン様だったけれど、そこは、流石の年長者の貫禄で、一切の感情を交えず、フライス王太子が帰国してからの魔物討伐隊に起こった出来事をかい摘んで説明した。

そして、龍廟の封印解除とその後の龍の鐘の発動に、ルミナの血統と自分の右腕が使われた事、その後、帰国の代償にルミナが記憶を捧げたことを告げると、王太子たちは絶句した。そっと外のシャンブレーの姿を窺って、どうして、リリアンお嬢様があんなに怒ったのかを理解したとばかりに頷いた。


「ん、ん。」

と軽く咳払いをして、フライス王太子は場の仕切り直しを図る。アラン様の話を聞いてしまった後では、モンハンナ帝国からの返書を見せる事を躊躇している様だったが、覚悟をきめたらしい。

「結論を言うと、魔導師長と光の乙女は行方不明、らしい。」

「「「・・・・。」」」

私達三人の言いたい事は、きちんと伝わったようで、フライス王太子は、リリアンお嬢様に読むように促した。


書面を何度も読み直し、堪え切れない溜息を小さくついて、リリアンお嬢様はそれをアラン様に渡す。

アラン様は私の為に、それを読み上げてくれた。

『お問い合わせのあった、アラン・フィッシャー魔導師長と光の乙女ルミナ様は、現在、当モンハンナ帝国帝城にはご滞在されておりません。』

「?それだけ?それだけですか?」

続きを待っていた私だったが、その後もアラン様は沈黙を守り、フライス王太子は、気まずげに視線を彷徨わせた。


「つまり、帝国は、帝都に招いておきながら、フィッシャー魔導師長様と光の乙女ルミナの所在を把握していない、と断言した、と解釈してよろしいのではないでしょうか。早速、抗議文を送る事に致しますわ。」

こうなる事を半ば予想していたリリアンお嬢様は、冷静に次の手を打つ。

しかし、それに待ったをかけたのは、フライス王太子だった。

「リリー、実は、シスター・アミからの書状もあるんだ。」

そう言って、フライス王太子が懐から取り出したのは、紛れも無い、魅了の香水の残滓を纏った(当然、王家で解呪済み)肉食シスターからの手紙だった。王族相手に、そんな危険な香水を使った時点でアウトなんだけど、高貴な身分の人間宛の手紙が、検閲されないって、思ってたのかな?


『親愛なるフライス・パール・リンクス王太子殿下にこのような悲しい事実をお知らせしなくてはならない私の心は張り裂けそうに痛みます。ですが、』

と続くシスター・アミの手紙は、如何に自分がリンクス王国を大切に思っているか、教会に身を置くシスターとして、どれ程、光の乙女を慈しんできたか。けれども、彼女には自分の存在が重荷だったようで・・・云々、と長々と書き連ねてあった。

「で、結論は?」

思わず、相手が王太子殿下とはいえ、中身の無い手紙の内容と肉食シスターの勝手な言い分にいい加減限界がきた私は、素で尋ねた。

シャンブレーがここにいたなら、不敬、不敬と騒ぎ立てる事間違いなし、だ。


「『龍廟が開いた後、気が付いたら、二人はいなくなっていた。必死で探したが、見つける事が出来なかった。これだけ捜して見つからないのだから、そちらに帰国しているのでは無いのか。勝手にいなくなられて、モンハンナ帝国側も迷惑している。』

と言う事だ。」


やっぱりね。

シスター・アミは、アラン様とルミナが初代龍皇帝の力を借りて、帰国した事を知らないんだ。

だから、二人が勝手に帰国した、その途中で何があっても、帝国の責任では無い、と強気に出ている。

アラン様のお話だと、きっと二人とも死んだと思ってるんだろうな。

でも、そうそうあんたの好きにはさせない。

二人から奪ったものは必ず取り返す。


前世の私に誓って。




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