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ミッション 21

モンハンナ帝国の情報が集まるにつれ、リリアンお嬢様の美しい眉間に皺が寄っていった。

初代龍皇帝のおかげで、あり得ない事に、その日の内にモンハンナ帝国からの脱出を果たしていたアラン様とルミナの居場所を、モンハンナ帝国は未だ、把握できていない。と言うより、その存在自体を忘れている可能性もある。

100年ぶりに龍廟の封印を解き、皇帝が龍の鐘を鳴らしたのだ。

帝国中がその話題に沸いており、現皇帝の正当性を証明した教会のシスターは、”龍巫女”と崇められ、連日がお祭り騒ぎだ。


暫くすると、皇帝だけでなく、騎士団長に宰相、国際的にも名前の知られた人物以外にも見目の良い騎士や文官などが、”龍巫女”の周囲に侍って、彼女の歓心を買おうとしているという情報も入るようになる。言葉にするのも恥らわれる行為が、日中堂々と行われ、当人たちは、全くその行動を異常とは思っておらず、一時期の狂乱から醒め始めていた良識のある者達は、眉をひそめている、と言う。


大体、乙女ゲームのハーレムエンドなんて、物語だから美しく描かれているが一人の女性に複数の男性が恋愛感情を持ち、その関係が成り立つことは歪で異常だ。

いくら大陸一の大国とは言え、国の中枢部が、色ボケしていたのでは、屋台骨が揺らぐ、と言うもの。

私たちの計画の為には、ある程度、モンハンナ帝国が混乱してくれている方が助かるのだけど、アラン様の腕とルミナの記憶を取り返す前に、帝国が亡くなってしまえば、元も子もない。


「皇帝の奥さんとか、取り巻きの男性たちの奥さんや婚約者、恋人は、何も言わないんですか?」

あんまりな状況に、私はつい聞いてしまった。R18を謳うだけあって、攻略対象者は社会的地位もある、そこそこの年齢の人物ばかりだ。TL要素の強い『光の乙女は愛を紡ぐ』とは違い、常識・人間関係が複雑で簡単には断ち切れない筈。

乙女ゲームでは攻略対象者の本来の婚約者は、悪役として断罪される事が多い。まさかもうすでに断罪されてしまった?


「皇妃様も初代龍皇帝のお血筋を引いていらっしゃるから、流石に皇帝も無下には出来ないのね。皇妃様はご実家に帰られて、様子見の状態よ。なにせ、現当主が、龍巫女のハーレムに加わっているから。」

とリリアンお嬢様はあきれ顔だ。


だから、この混乱に紛れて帝国に入ろうと言うのだ。

「本当にケイティも行くの?」

リリアンお嬢様の眉間の皺の原因の一つが私、と言うのは何とも心苦しい。

ありがたい事に、とても心配してもらっている。

何の魔力も持たない。物理的な力も、政治的な力も、宗教的な力も。何も持たない平民の娘が、無謀にも大陸一の大国に乗り込もうと言うのだ。

無事で済むとは思われない。

いや、ひょっとして、国境を越える事すら出来ないかもしれない。


でも、これは私が決めた事。

モブ平民を言い訳に、これまで何もしてこなかった。

だけど、じゃあ、どうして、私は前世の記憶を思い出したんだろう。

ヒロインでも悪役令嬢でもない。

物語に登場するかも怪しいモブ平民が、前世の記憶を持っている意味。

この世界に何らかの役割を与えられたから、じゃないのかなあ。


確かに私がルミナに関わった事で、乙女ゲームのルートは滅茶苦茶になってる。一番恐れていた流行病は、今年になっていくつか治療薬が発表されて、重症化が避けられるようになった。

教会側は、これを虎狼狸が討伐されたからだ、と大々的に宣伝し、モンハンナ帝国での肉食シスターの立場強化に懸命だ。でも、この治療薬の開発にも、あの肉食シスターはお助けキャラとして関わっているのは間違いない。だって、ゲームでは、光の乙女の浄化によって、王国は清浄化されたけれど、その他の国では、病気はまだ猛威を振るっていて、それを悲しんだ光の乙女の祈りによって咲いた花が、治療薬になった、のナレーションが流れたからね。お助けキャラなら、その詳細を知っていてもおかしなことはない。


私が、あの肉食シスターを嫌いな一番の理由は、そのゲーム知識を、この世界を救うために使わないからだ。

確かに、彼女の知識を彼女がどう使おうと、それは、彼女の勝手で、私がそれを恨むのはお門違いだとは分かっている。

でも、自分や大切な人が死んでしまうかもしれないのに、その病気を確実に治す薬の元になる花を知っているのに、ずっと黙っている。なんて。許せない。


でも、私も肉食シスターに自分が転生者だって、隠していたんだから、ある意味同罪なのかな。

もっと積極的に、彼女や攻略対象者たちに関わって行けば、流行病の被害をもっと抑える事が出来ていたのかもしれない。だって、私はモブ平民だけど、ずっと子供の頃から、リリアンお嬢様やフライス王太子たちに出会っていた。攻略対象者だから、と避けずに、前世の知識を話していたら、治療薬の元の花の事も、もっと早くに見つけられたのかもしれない。


モブ平民だから。

そう言って逃げて来たから、ヒロインだからとルミナに全部押し付けて来たから。

だから今、私はこんなに中途半端だ。


何も覚えていないルミナは、目覚めてすぐはルミナ父をとても警戒していた。

それはそうだ。父親、と言っても、血の繋がりが無いから、容姿に似ている所は一つも無い。16歳の女の子につきっきりで世話を焼く40代のおっさん、なんて、下心があると勘繰られてもおかしくはない。ルミナ母は、まだ王宮に留められている。むしろ、ルミナが帝国から帰国できなくなってから、監視の目が厳しくなった、とリリアンお嬢様から聞いている。


ルミナがモンハンナ帝国を脱出し、ここに隠れている事をいつ、王家に報告するのか。

それは、アラン様とリリアンお嬢様の判断にお任せしている。

私はただ、毎日、ルミナが平穏に暮らせるようにその手伝いをするだけだ。

ルミナが回復してきて、少しずつ動けるようになってきて、そろそろ、頃合いかな。


と、言う訳で。

今、宿屋には、フライス王太子が来ております。





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