幕間 2 お助けキャラの独り言
あたしには生まれた時から、前世の記憶があった。
だから、この世界が、大好きだった乙女ゲーム”光の乙女は愛を紡ぐ”の世界だと直ぐに気が付いた。
けれど、どんなに調べても、大好きな攻略キャラたちが見つからない。
それもそのはず、あたしが転生したのは、ゲームのヒロインたちが生まれるより十年近く前の世界だった。
最初は酷く絶望した。
でも直ぐに気持ちを切り替えた。
だって、あたしは今、攻略キャライチオシ、アラン・フィッシャーとほぼ同じ年なのだ。
それは、つまり、過去話でしか語られない、アランの幼少期をこの目で直接見る事が出来る!と言う事に他ならない。あたしとアランの年の差は5歳。これは、確実に学園で出会える。上手くいけば、ヒロインに代わって彼のトラウマを癒し、そのままゴールイン!も夢じゃない。
あたしは頑張った。
異世界転生のチート得点だろう、文字は読めるし、魔力は高い。一応、身分は子爵令嬢と貴族社会でも低い方だけれど、その分、礼儀作法は緩く、勉強、勉強と言われない。やりすぎは、目立つので程々出来る子供を演じつつ、貴族社会の現状と乙女ゲームの突き合わせをする。
アラン・フィッシャーの伯爵家での状況は、当然、簡単には知る事は出来ない。だけど、あたしはゲーム知識として知っていた。フィッシャー伯爵家は、アランの魔力について、熱心に教会に通い、相談していた。ならば、学園に入学する前に、彼と知り合うチャンスは教会にある。
教会の活動に興味は全くないけれど、アランと出会う為に、フィッシャー伯爵家と懇意の教会を探す。流石に、直接の接触は難しかったから、子爵家に近い教会の神父に取り入って、あたしの優秀さを広めてもらった。
年が近く、優秀な魔法使いである子爵令嬢、として、アランに接触するのだ。
あたしのその試みは成功した。初めて、アランに会ったのは、彼が学園に入ってすぐの13歳。あたしは8歳。
暗い目をした少年だった。声変わりの時期に重なった事もあり、酷く無口だったけれど、まだ体の出来ていない少年期の危うさが、ゲームのヤンデレスチルに繋がるのか、とワクワクして、ガン見してしまった。
そのせいか、その日はアランとはまともに話が出来なかったけれど、それからも、何回か、教会を通して話をする機会はあり、あたしは、学園入学後の彼との再会とその後のハッピーエンドに向けてのシナリオを何度も繰り返し、思い描いていた。
その為にも、彼には学園入学まで、不幸でいてもらわなければ困る。
彼の闇魔法に理解を示しつつ、トラウマを与えつつ、と言う、非常に難しいミッションをこなしていたあたしは、そこに、大きな落とし穴があった事に、気が付くのが遅れた。
あたしは、優秀過ぎた。シスターとして、教会に取り込まれてしまったのだ。
気が付いた時には、アランと一緒に学園生活を送る事は叶わない状況に陥っていた。
どうして!?
二度目の挫折に、あたしは女神を恨んだが、この国では、しがない子爵家の真ん中の娘に選択権はない。家族が貴族社会で少しでも立場が良くなる為に、あたしは、教会に売られたのだ。
とはいっても、別に違法な事をされる事も搾取されることも無く、才能のあるシスター候補として、大切に育てられたのだけれど。
でも、それは、あたしの望みじゃ無かったのだから、やっぱり、あたしは不幸だ。
まあ、アランとの学園生活は夢で終わったけれど、彼のトラウマは順調に育っているから、乙女ゲームが始まってからでも、巻き返しは可能だ。
そして、あたしは、自分が、ゲームのお助けキャラポジにいる事に気が付いたのだった。
これはこれで、かなり美味しい設定だ。
何が起こるのか予め知っているうえに、ヒロインにどの情報を渡して、どの情報を渡さないのか。いや、ヒロインだけじゃなく、攻略キャラたちへの情報提供の取捨選択権があたしにあるのだ。
ヒロインを誰とくっつけるのか。
全てはあたしがコントロールできる。
あはは。
なんて素敵!
この世界は、あたしの支配下にあると言っても過言ではない。
ああ、早く、早く、ヒロイン出て来て。
そう願っていたのに。
もう!なんだって、こう、何もかも上手くいかないの?!
攻略キャラたちの年齢差から、生まれた年はわかるし、特徴的なピンクブロンドを目印に、下町の美少女を探せば、ヒロインは割と直ぐに見つかった。
ちゃんと幼馴染の隠しキャラもいたから、間違いはない。
洗礼式に立ち会う為に、教区も移動した。
そうして迎えた洗礼式。
ヒロインは、ゲームのチュートリアル通りに、女神の祝福の光に包まれた。
『よっしゃー!』
後は、彼女を上手く使って、アラン・フィッシャーに近づくだけ。ちょっと王子との寄り道も良いかな。王子ルートは贅沢できるから、好感度上げておいて損は無いんだよねぇ。
楽しみ過ぎて顔がにやけてしまう。
なのに、おかしい。
全然計画通りに進まない。
どうして?
何が起こっているの?
この世界は、あたしの支配下にあるんでしょ?
どうして上手くいかないの?
ひょっとして。
他にも、誰か転生者がいるのかなぁ。
あたしの邪魔をする誰か。
きっと、見つけ出す。
そして、この世界から、叩き出してやる。
だって、あたしはこの世界で女神から選ばれた聖女、なんだから。