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ミッション 15 

乙女ゲーム『光の乙女は愛を紡ぐ』はチュートリアルで教会ルートと学園ルートの選択がある。けれど、ゲームだから、当然、一つのルートを攻略後にもう一つのルートを遊ぶこともできる。更に、攻略対象を変えて何度も繰り返し遊ぶ事が出来るし、全てをコンプリートしてからでないと、攻略できない隠しキャラ(チャルカ)がいる。

でも、それはゲームだから、何度も15歳からリスタートできるのであって、学園ルートを攻略しながら教会ルートの魔物討伐なんて、ゲームの世界でも出来なかった事を現実でやろうなんて、あのお助け肉食シスターは、一体、何を考えているんだろう。


流行病だって、まだまだ、沈静化した訳じゃ無い。そんな中、ルミナの作る浄化石は教会の稼ぎ頭になっている。そのルミナを魔物討伐の旅に出す?

普通じゃ考えられない。

ひょっとして、あのお助け肉食シスターはバッドエンドを狙ってるのかな?

ルミナになりたくて、なれなくて。

ルミナが邪魔で。

ルミナがいなければ自分がヒロイン、とか思ってる?

それなら、この世界を壊して?

ダメダメ。

あのお助け肉食シスターの考える事なんて、私にわかるはずが無い。


プルプルと頭を振って、私はアラン様に尋ねた。

「魔物討伐って、ルミナがですか?」

アラン様は沈鬱な表情で頷いた。

「ルミナとシスターを中心として、聖職者が数名。彼女たちを守るために、フライス王太子殿下が指揮を取って、近衛騎士団が出る。シャンブレー・オックスフォード卿、ギャバジン・ツィル卿も同行するそうだ。更に、魔導師団より精鋭が参加する予定だ。」

「アラン様は?」

「私は不参加だが、攻撃魔法と防御魔法に優れた魔導師が2名ずつ参加する。」


??


確かに教会ルートでは、教会主体で魔物討伐が企画されたけど、こんなに大人数では無かったよね。ヒロイン・ルミナに、攻略対象者4名の少数精鋭じゃなかったっけ?

あれ?


不思議そうな顔をした私にアラン様が、説明してくれる。

「具体的な討伐計画などは、流石に話す訳にはいかないが、この話は直に公表される事だし、ケイティもルミナが心配だろう?大まかな流れはこうだ。」


流行病が他国のように大流行を起こさず、けれど、それがいつ爆発するかわからない、常に隣に潜んで気を窺っているような恐怖が、リンクス王国を支配している。

流行病は、光の乙女ルミナの力で弱められているものの、このままでは、何も解決しない、そう、”聖女”アミが、教会の聖職者たちを募って、流行病の源である虎狼狸と言う魔物を討伐すべきだ、と言い出した。

「虎狼狸?」

私もリリアンお嬢様も共に首を傾げた。


今日、リリアンお嬢様は久しぶりに王都に出てきている。ニッチング公爵領で栽培し加工したハーブ製品を持って、ご用達の商会で新商品の打ち合わせだ。一応、共同経営者に名を連ねている私とアラン様も同席している。

相変わらずお美しいリリアンお嬢様だけれど、その美しさにしっとりとした落ち着きが加わって、益々魅力的だ。未来の王太子妃って言うプレッシャーがなくなって、自分に余裕が出来たんじゃないかな。婚約解消がリリアンお嬢様にとって、悪い事ばかりじゃなかったなら、良かったな。


「私は寡聞にしてそのような魔物を聞いた事が無かった。故にシスター・アミにどのような魔物か尋ねたのだが、要領を得ない。何でも、虎と狼と狸の体が混じった一種のキメラのような魔物では無いか、と言うのだが・・・。」

むむむ、と眉間に皺を寄せて考え込むアラン様も素敵だけど、何となく、私にはわかった。

それ、絶対口から出まかせ。だって、ゲームでは教会ルートのラスボスは闇落ちした悪役令嬢リリアンだったから。現状、リリアンお嬢様はフライス王太子とは婚約解消したけれど、悪役令嬢として、世間から憎まれてもいないし、闇落ちもしていないから、倒すべき魔物なんていない筈。なのに、アラン様に直接声をかけてもらえてあの肉食シスター、舞い上がったんだと思う。


「私にも、是非に討伐に参加して欲しい、と言われたのだが、討伐対象がそのような未知の魔物であるならば、きちんと下調べが必要だろう、後から合流するから、と言って、その場を辞してきた。」

「けれど、本当にこの病がその虎狼狸と言う魔物のせいならば、倒すべきではありませんこと?それに、王太子殿下自らが参加されるなら、王家が病に真剣に対応している事を十分に民に知らし召すことが出来ます。ただ、王太子と言う身分では軽率、と思ってしまいますが。」

リリアンお嬢様はフライス王太子が心配んだなあ。

婚約解消したとは言え、ずっと仲の良い婚約者同士だったんだ。そりゃあ、病の元の魔物退治に行くと聞かされれば、穏やかではいられないだろう。

私も、乙女ゲームで知っているとは言え、現実のアラン様が魔物と戦うのは見たくない。


「光の乙女に聖女、神殿の聖職者、魔導師に加え、近衛騎士も一個中隊参加します。魔物討伐と言っても、きちんとした軍が編成されていますよ。」

「一個中隊って、どれぐらいの人数なんですか?」

「およそ、200名です。」

「200!?そんなに?」

私はびっくりして大声を上げてしまった。なにその人数。そんな大勢で行かないと不安なら、魔物討伐なんて言い出さなきゃいいじゃない。


「そんな数の近衛騎士が王都を留守にして、王宮は大丈夫なのでしょうか?」

リリアンお嬢様の心配はそっちかぁ。流石、公爵令嬢。

「流石に、国王陛下はじめ、王族の身辺をお守りする第一師団からは、シャンブレー・オックスフォード卿率いる王太子殿下の親衛隊のみの参加です。その他は第二、第三師団から騎士と身の回りの世話をする侍従、工兵・軍医・輸送・兵站などの非戦闘部隊も含めての200名です。」


「その、」

私はおずおずと手を挙げて発言を求めた。この乙女ゲームの世界には挙手して指名されてから意見を述べる、文化は無い。けれど、この緊張下において、私が、多少非常識な行動をとっても、特に問題にはされなかった。

「その虎狼狸って魔物のいる場所はわかっているんですか?」

「ああ、隣国との国境、西方山脈にその巣があると、女神さまの神託があった、と。」


西方山脈。

それは、ルミナの実父の国との国境にある、峻険な山々の連なる天然の要害。

そして、乙女ゲーム”光の乙女は愛を紡ぐ”の教会ルートで、ラスボスとなったリリアンお嬢様と光の乙女ルミナが、戦う地。

そのラスボス・リリアンお嬢様の代わりに、現れたと言うのが病をもたらす魔物・虎狼狸。


ところで、ルミナの実父の国、ゲームでは若き皇帝が支配する隣国、としか、表記されていなかったけれど、この世界ではモンハンナ帝国と言う。なんか、えっと思う名前だけど、ゲーム制作者の中に、はまっている人でもいたのかな。そして、この大陸でモンハンナ帝国は一番大きい。乙女ゲームのヒロインのいる国が大国だと思っていた私には、結構な衝撃だったけど、ここ、リンクス王国はモンハンナ帝国と東側で国境を接している。それが西方山脈だ。リンクス王国にとっては東側でも、モンハンナ帝国にとっては西方だから、西方山脈。ややこしいよね。


そんな豆知識のような事を思い出して、つい、現実逃避してしまった。


ひょっとして、私、勘違いしていたのかな。

乙女ゲームの教会ルートでは、魔物は隣国との国境西方山脈から、湧き出て、リンクス王国と隣国を襲う。学園ルートでは、国を壊滅させかねない流行病が最初に発見されたのが、西方山脈の麓に位置する隣国の村。ともに、ルミナの実父の国が関わっていた。

それって、もしかして、バッドエンドの仕込みをしているのは、隣国?

全く関係が無いと思っていた、二つのルートは、実は、同じ盤面に展開されていた?


どんなに考えても、私はただの平民のモブ。出来る事は限られている。

お助けキャラ肉食シスターの口から出まかせであっても、アラン様に何かあってからでは遅いから、教会ルートの魔物討伐の詳細を思い出そう。あの旅でのイベント情報や西方山脈の地図や採集ポイント。

だけど、どうやって、それをアラン様に伝えるか、それが問題だなあ。



ミッション 15

魔物討伐の攻略情報を作ろう



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