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ミッション 12

きっかけは王太后様の体調不良だった.。

高齢な王太后様は、お年に相応しくちょくちょく体調を崩していたらしいけれど、たまたま今回は、体調を崩す直前に隣国貴族の訪問を受けていたため、流行病への罹患が疑われた。

大体、なんでそんな危険人物との接触を認めたか、って話になるんだけど、なんか国同士の力関係や親戚筋の高位貴族で断れなかったらしい。でも、王族が流行病にかかったとあっては、王国の危機管理能力を疑われる。可愛がってくれた祖母の不調と、王太子の政治的立場を上手く揺さぶられ、フライス王太子は、極秘裏に、婚約者リリアンお嬢様に、友人として、ルミナを王宮に招き、祖母の治療を依頼した。


但し、ここではっきりさせておくと、ルミナは光魔法で病気の治療が出来る訳では無い。光魔法って使う人が少なすぎて、実際、何が出来るのかはよく分かっていないから、教える人も基本的な魔法の概念を教えた上で、ルミナの希望に沿って色々、指導していたみたい。乙女ゲームのルミナは、治癒も使えたけど、今、彼女が使えるのは、浄化の魔法だけ。多分、シナリオから外れてしまっているから、彼女の魔法の教師も別の人なんだろうなぁ。それに、お助けキャラ肉食シスターがウザ絡みしてきてたから、教会からも距離を取っていたし。


だから、ルミナの力を知っているリリアンお嬢様は、王太后様の周辺を浄化して、浄化の魔力を宝石に付与してもらえないかしら?と、相談してきた。フライス王太子にも気休めで構わない、と言われた。教会から、光の乙女グッズが届くより先に、本家(ルミナ)に来て欲しい、と政治的な思惑が絡んでいる事を謝罪された。彼の側近たちは近寄らせない、王太后宮は男子禁制にする、と安全も保障された。フライス王太子の側近、シャンブレー・オックスフォードとギャバジン・ツィルはルミナを貴族に取り込みたい派、だからね、ここ、重要。

それなら、と緊張しながらも、笑顔で手を振って出かけて行ったのに。


フライス王太子に頼まれ、王宮に向かったルミナと付き添いで行ったルミナ母は、帰って来なかった。


どんなに後悔した事か。

フライス王太子を信じていた。なにより、リリアンお嬢様を大切にしている筈のフライス王太子が、お嬢様を裏切るような真似をするなんて、信じられなかった。

夜遅くにルミナ父が宿に駆け込んできた時の様子が、頭から離れない。二人が帰って来ないと、真っ青な顔で縋られた。骨が砕けるかと握られた私の肩には、くっきりと指の跡が付いた。

「二人に何かあったら、ただじゃおかない。俺は彼女たち無しでは、生きていけない。その時は、」

そう言って私を睨んだ顔が、道連れを誓っていた。

あまりの剣幕に、宿に泊まっていた人たちが、起き出して来て、騎士様が一人、王宮に様子を聞きに行ってくれることになった。


けれど、待てど暮らせど、その騎士様も帰っては来ず。


一睡も出来ないまま、ルミナ父と夜を明かした私の元に、早朝、やって来たのは、アラン様、だった。

アラン様は、私たちの顔を見るなり、謝罪した。


ルミナはフライス王太子の婚約者になっていた。


光魔法で王太后様とその周囲の環境を浄化し、愛用のブローチに浄化の力を込めたルミナは、リリアンお嬢様を交えて軽くお茶した後、王太后宮を退宮した。その途中で、王太后様を見舞いに来た隣国の公爵と、ばったりと出くわしてしまう。

隣国の公爵は、ルミナ母のかつての恋人だった。

そして公爵は、いきなり、滔々と話し始める。

自分がいかに、ルミナ母を愛していたか。彼女がいなくなってどれ程心配したか。ここで会えたのは女神様のお導き。さあ、一緒に国へ帰ろう!


いやいや、待って!こんな展開、普通、ありえないでしょ!

私の横で、ルミナ父は気を失った。

私も気を失いそうだよ。アラン様は、この辺りから、実際に現場に立ち会ったらしい。

「その場には、他に誰がいたのですか?」

答えはそこにあった。


隣国の公爵の横に立っていたのは、アラン様も知るあのシスター。感動に打ち震えて「よかったわねぇ、ルミナ様、本当のお父様に会えて。」などと言っていたらしい。


そう。ならば、この出会いは、あのお助けキャラ・肉食シスターの差し金だ。

あらかじめ、隣国の公爵に接触して、あなたの昔の恋人が娘を生んで、その娘は光の魔力持ちだと、囁いたに違いない。

お助けキャラ独自の、信じがたい知人ネットワークを駆使し、お助けキャラだから、と深く追及されないその万能の知識で、あの肉食シスターは、強引にルミナを遺伝子上の父親に会わせた。

それがルミナにとって幸せかどうか、は全く関係なく。


光の乙女が隣国の公爵の隠し子とわかり、彼女が隣国に連れて行かれても、リンクス王国はそれを止める大義名分がない。父親が生き別れた娘を引き取る、と言われてしまえば、正義は向こうにある。


取り敢えず、廊下の真ん中でする会話では無い、と、場所を移して行われた話し合いで、フライス王太子とルミナの婚約が決まった。


「どうしてですか?」

思わず、私は叫んだ。

だって、フライス王太子がリリアンお嬢様に首ったけなのは、誰もが知る所だ。フライス王太子とルミナの婚約は、リリアンお嬢様との婚約解消を意味する。

『王太子の婚姻は国の為にある。』

貴重な光の乙女を隣国にとられないよう、彼女を王国に紐づける。

その為の王太子との婚約で、そこに当事者の意志は存在しない。

誰もが望まない婚約と婚約破棄。


図らずも、乙女ゲームの悪役令嬢リリアン・ニッチング公爵令嬢と同じ運命をお嬢様は辿る事になった。


「ルミナ達は、ひとまず、王宮内にある礼拝堂に入った。あそこには簡易とは言え宿泊施設が併設されている。教会の高位者が、宿泊する施設なので、設備も整っている筈だ。」

アラン様はそこで一息ついた。

「私がここへ来たのは、ルミナの無事を知らせるためだ。本当はニッチング公爵令嬢が来たがっていたのだが、今、彼女はルミナに付き添って、彼女を政治の道具にしようと接近してくる有象無象を相手にしている。私もこの後すぐ戻るつもりだ。」

「!?アラン様!私も連れて行っていただく訳にはいきませんか?」

「ケイティ?流石にそれは無理だ。」

「途中まででいいんです。せめて、ルミナに、」

そう言った後、自分がルミナに会った所で、何が出来る訳でも無い事を思い出す。

「あ、な、なら、ルミナのお父さんだけでも、会わせてあげる事は出来ませんか?」


ルミナ父は気を失ったまま、昨日の疲れがたまっていたのだろう、そのまま眠ってしまっていて、起きる気配がない。

しかし、アラン様は、左右に首を振った。

「ケイティ、それは止めておくべきだ。今、一番危険なのは、ルミナの父上だ。」

「どうして、ですか?」

「ルミナの母上が、隣国の公爵に向かって言っていた。『この子の父親は、この国の下町で、毎日、懸命にパンを焼いている男性です。彼以外にルミナの父であり、私の夫はおりません。』と。」

ルミナ母!カッコ良い!

そしてルミナ父、そんな所で眠っている場合では無いよ。まあ、眠いのは仕方ない。私も眠い。

けれど、そのルミナ母のかっこ良い啖呵のおかげで、ルミナ父は、ルミナを手に入れたい者達のターゲットとなってしまった。攫って人質とするか、殺して憂いを亡くすか、懐柔して言う事を聞かせるか。


「ケイティも他人事では無いぞ。ルミナの一番傍にいる友人だ。平民の子供など、どうとでもなると思っている貴族が殆どだ。」

丁度その時、昨晩、王宮に様子を見に行くと出て行った騎士様が、更に数人の騎士様を伴って帰って来た。アラン様が、ルミナ父と私の為に呼んでくれた応援の護衛だと紹介してくれた。

「十分に気を付けるように。」

アラン様は私の頬に右手を添えて、じっと目をのぞき込む。そんな状況じゃないにも拘わらず、私はドキドキしてしまった。

ポン、と最後に頭を軽く叩くと、アラン様は行ってしまった。


色々考えて、対策を打たねばならないのに、今は、何も考えられなかった。



ミッション 12

王太后様の病を癒そう














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