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第54話 約束のキュン

「これがララだなんて信じられないわね」

 祭服を身に纏い祈りを捧げる美しい女神像を見上げる。


「確かに、見た目あれからは想像がつかないな」

 意地悪なことを言いつつもレイモンドの口調はどこか楽しそうだ。


「もしかして、ララが女神レラだって知っていたの?」

「まさか。あんなのが女神だって誰が想像できるんだ?」

「でも、さっきはあんまり驚いていないようだったから」

「驚いたと言うより、安心した」

「安心? どうして?」

「ララの魔力は宮廷魔術師の比じゃない。今は味方だからいいが、あれは脅威だ」

 そっか、その上ドラゴンまで敵になった場合、この国の軍隊でどこまで戦えるか考えていたのかもしれない。


 ミノワール宮殿の女神像を横切り、裏にある庭園に歩いていくと甘い花の香りが漂っていた。


「意外……」

 王宮の庭園は何処もかしこも格式ばった様式にのっとり作られていた。寸分の狂いもなく引き詰められた石畳や花や銅像、噴水までもあるべき所にきちんと配置されている。


 最も寵愛する妃のための庭園がこんなに素朴だなんて……あえて、大きさを揃えていない花々と控えめな装飾。

 まるで、田舎貴族の庭のようだ。

 でも、なんて落ち着く場所なんだろう。


「気に入った?」

「うん、素敵」

「それは良かった。奥に小さな東屋があるんだ」

 手を繋いだ指先に、レイモンドはチュッとキスをするとそのまま白い霞草が揺れる庭を進んでいった。


「うわぁ。可愛らしいわね」

 東屋はピンクの蔦バラが満開に咲き、柱には小さなガラスタイルが輝いている。


「珍しいだろ? 中のテーブルもお揃いなんだ」

 屋敷の中でもガラスタイルのテーブルは見かけたことがない。繊細で壊れやすいガラスタイルを外で使うなんて、この庭を作った人は妃を愛していたのね。

 キラキラと光を反射してまるで宝石箱をひっくり返したようなテーブルの上にはたくさんのケーキに、オレンジジュースが置かれていた。


 ん?

 このテーブル見たことがある。


「昔、この庭園でライラが子供たちを集めてお茶会をしたことがあるんだ」

 そういえば、そんなことがあった気がする。


「もしかして、ララの本を貸してあげた時?」

 ここだったんだぁ。

 一度しか来たことがなかったから忘れていた。


「あの時の約束覚えているか?」

 約束ってなんだろう?

 レイモンドがなぜか期待一杯の目で見つめてきてるけど、本を渡したこと以外に何かあったかな?



 考え込む私の頬をレイモンドは両手でそっと触れると、そのまま無言で私の顔を眺める。

 何?

 ほんの数十秒だったが、触れられた頬に熱が集まってくる。

 恥ずかしさのあまり顔を背けたくても、頬を抑えられているので身動きできない。


「レイモンド……」

 解放して欲しくて震える声で名前呼ぶとゆっくりと綺麗な顔が近付いてきて、私のおでこにチュッとキスをする。


「81」

 へ?

 呆然と呟く私に、レイモンドはニヤリと笑って今度はこめかみにキスをした。


「82」

 何?

 何かの遊び?

 混乱する私をよそに、淡々と数字を言いながら耳たぶや首筋、次々に口付けしていく。


 そして、涙目の私のまぶたに、チュッチュと2度唇を押し当てると「99」と嬉しそうに笑った。


「許してくれるなら、100回目は大人のキスをしてもいいか?」

「大人のキスってどんなの?」

 バカなことを聞いてしまって私は後悔した。


 ニヤリと意地悪く笑い、レイモンドはそっと私の唇に軽く触れるだけのキスをした。

 これは101? と思ったけれどレイモンドはもう数をかぞえない。

 その代わり、私の顎を抑え触れるだけのキスから大人のキスへとゆっくり誘いながら、深く甘いキスをした。

 身体中の力が抜けていき、抵抗することができない。


 どうしよう……よくわからないけど涙が頬をつたって流れた。

 不安でレイモンドのシャツをギュッと掴むと、熱い唇が離れて胸の中に抱きしめられる。

 なんだか、ホッとしてしばらく目を閉じたまま二人でそのまま身を寄せ合っていた。


「キュンてした?」

 悪戯が成功した子供のように浮かれた声でレイモンドは私を覗き込んだ。





どうでしょう。

皆様もキュンとしてもらえたでしょうか?

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