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第20話 黒猫 (キュン2)


「愛なんてもともと曖昧なものだろ。目に見えるものじゃないし」

「だからそれは神殿で誓いの魔法がすんだら呪いが発動するのよ」

「じゃあ、以前の婚約者はきちんと神殿で誓いの証明をしたのか?」

 普通、子供の頃に交わされる婚約は家同士だけのことが多い。ある程度成人に近くなってから、きちんと神殿で誓うのだ。


「いいえ。まだだったけど」

「だろ。それなのに婚約は続かなかった」

「まあ、そうだけど」

「それよりこれは魔術師から聞いたんだが、自分の命を対価にすれば一人の人間を死ぬまで呪ったり、その血筋の人間まで呪うことはそんなに珍しいことじゃないそうだ。だが、呪いにも限界があり、時間が経つほど効力は弱くなり人数が多くなればほとんど影響を及ぼすほどではなくなるそうだ」

「それって、もう呪いは人を不幸にするほどの力がないってこと?」

「そうとも言えない。神殿できちんと確認されたみたいだからな」

 レイモンドの話に、ちょっと期待しまったけど。そう簡単に呪いは無くならないのか。



「そんなに落ち込むな。どう関係するかわからんがその本に魔法をかけた人物を探せばもっと呪いについてわかるはずだって言っていた」

 レイモンドは私のもつエンジ色の童話を指さした。


「これ?」

「そう、だって偶然にしてもできすぎだろ。登場人物とそっくりな君と俺。しかもそれを読むことができるのも君と俺。関係がない方がおかしいだろ」

 言われてみればそうだけど持ち主を探すって……もう昔からうちの図書室にあったものなのに。「まさかこの本と呪いをかけた人物が一緒ってことはある?」

 同じ人物なら、この本に呪いの解呪方法が書かれているのも納得がいく。

 だって、この世の中そうそう偶然なんてあるわけない。


「うーん、それはどうかな。その本の本当の持ち主は意外に近くにいるんじゃないかとも言ってた。呪いをかけた人物と同じならどんな意味でヒントになるような本をよこしたんだ?」

 確かに。先祖代々の呪いをかけるような人物だ。執念深くて陰湿なやつに決まっている。そんな人間がヒントなんてくれるはずがないか。


「どうして、この本の持ち主が近くにいると?」

「ああ、この本の魔法はそれほど古いっものじゃないんだと。アンジェラはこの本をどこで手に入れたんだ?」

「これは、うちの図書室にあったものよ」

「そうか……ところでアンジェラ、君は猫を飼っている?」

 レイモンドが急に耳元で声を潜めた。


「いいえ、飼っていないわ」

 レイモンドの声の大きさに合わせて、私も小声で返事をする。


「そうか、わかった。今日はもう遅いからこれで帰るよ」

 唐突にベッドから降りると、私の頬にちゅっと触れるか触れないかのキスを落としマントをひらがえしベランダから出て行った。


「もう! 何よあれ」

 考えることはいっぱいあるけど、今日は無理だ。

 イケメンすぎて思考が停止しちゃう。

 熱くなる頬を枕で隠しベッドの上で一人悶えた。



 そういえば次の約束はないな、とちょっと寂しく感じたのも束の間。レイモンドは5分もしないうちに、今度は黒猫の首を捕まえて戻ってきた。




「怪しい猫を捕まえた」

「ララ!」

「飼い猫じゃないのに名前をつけてるのか?」

「だってずっと庭に住んでるみたいだし」

 名前がないと不便だ。

 猫といえばキキだけど、それじゃ安易すぎるかなと思ってララにした。


「なんでララが怪しいの? そんな掴み方したら痛いじゃない」

 動物虐待。

 私はレイモンドからララを奪い取り、どこも怪我がないか確かめるためにベッドに寝かせた。

 相変わらず毛並みは綺麗だし肌艶もいい。


「ララ、痛いところはない?」

 頭を撫でながら優しく聞くと、「にゃー」とゆらゆらとしっぽを振った。

 庭にいると時々現れては膝の上に乗ってくる。以前、庭師から煮干しをもらっているところを見かけたし屋敷の従業員たちで世話をしているのだろう。


「そいつフレドリック領にもいたぞ。連れて行ってたか?」

「いいえ、黒猫なんてどこにでもいるでしょ」

「魔力が同じだからあそこで見たのは間違いなくこいつだ」

「この子、魔法が使えるの?」

 魔女の使い魔ってこと?

 この世界で初めて見た。


「すごーい」

「感心している場合じゃないだろ。こいつ、この本と同じ魔法の匂いがする」

「ララが?」

 思わず、スンスンと嗅いでみたけど、魔法の匂いってなに?

 ほのかに金木犀の匂いはするけど。


「おい、お前いったい何者だ?」

 レイモンドがララの眉間にデコピンした。


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