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第16話 公爵視点 呪いの秘密

 なかば無理やりレイモンド殿下がアンジェラを庭に連れ出すのを見送ると、私は執務机に投げ出された国王からきた手紙を睨みつけた。


 アンジェラとレイモンド殿下との婚約を考えて欲しい。

 いかに二人の婚約が王室と公爵家の発展のために役立つかが延々と書かれていた。

 似たような手紙を国王からもらうのは2度目だ。

 前回は、ライラとその一族を牽制するためだったが、今回はランカスター家の富と兵力を取り込むつもりなのだろう。

 自分の息子が呪いで犠牲になるかもしれないのに、それさえも政治に利用しようと企んでいるのだから、あいつももう終わりだな。



「偽善者め」

 吐き捨てた言葉は自分のことのようにも聞こえる。



 1度目に婚約の話が持ち上がった時には、アンジェラの婚約者数人が婚約を続けられない身体になっていた。


 呪いなど、偶然に過ぎない。

 婚約者の替えなどいくらでもいる。

 そう考えていたのに、忌々しく王家のゴタゴタに巻き込まれたおかげで呪いの真偽をはっきりさせなくてはならなくなった。


「古い魔術にかかっていることは確かです。これが祝福の類ではないですし、呪いかと言われれば調査してみないことには何とも……」

 神官は歯切れ悪く答えた。

 解呪できないものを呪いと認めては神殿の威厳に傷がつくとでも思ったのだろうか。

 所詮神官など当てにしていない。神官に解呪できるのならとっくに先祖がやっている。


「今どき呪いだなんて考えすぎだが、神官が呪いではないと結論を出するまで婚約の話は保留で」

 神殿まで巻き込んで呪いの事実を調査した結果、やはり呪いではないという確証は持てなかった。

 だが、呪いとは断定だできないと言いつつ神官は呪いの解き方を話していった。

 

 完全なものではないが、魔女の魔力より強いドラゴンを倒し、そのハートを持ってすれば呪いを打ち消すことができるだろうと。

 それを聞いた王は、アンジェラの呪いを暴いたことに罪悪感を持ったのか。王家の蔵に眠る古いドラゴンハートを譲るので、試しに呪いを解いてみようと言い出した。


 大勢の神官の見守る中、見事解呪は失敗する。

 どうやらドラゴンを倒した人間しか力を引き出すことができないらしい。

 以来密かに公爵家の騎士をドラゴン討伐に出しているが中々成果を上げられないでいた。


 万が一アンジェラの呪いを解くことができればアンジェラの希望する結婚をさせてやれる。


 解呪が失敗したことで婚約は速やかに破棄されたが、神殿でも呪いを解くことはできなかった事実を、まだ幼いアンジェラに伝えることはできなかった。


 そしてもう一つアンジェラに隠していることがある。

 呪いには続きがあり、アンジェラが女神の祝福を持つものを愛した場合、自らの手でその命を消し去るだろうというものだ。

 今はレイモンドには女神の祝福である紋章は現れていないが、これから先現れないとも限らない。その場合、レイモンドに何かあれば呪いのことを知っている王族から、暗殺の疑いをかけられるかもしれない。

 アンジェラ自身がレイモンドを手にかけるなどあってはならない。



 だが、昼間のレイモンドの提案も一理ある。

 この国で、レイモンドほど魔力量が多く、剣の腕に優れているものはいない。


 ドラゴンを倒せるとすればレイモンドだけかもしれない。

 幸い。レイモンドには好きな人いて、アンジェラを愛することはないと言っている。初めからそう言われていればアンジェラもこれは政略結婚だと割り切れるだろう。万が一レイモンドに王家の紋章が現れたら即、婚約破棄すればいい。



 執務室のドアが軽くノックされた後、妻のミランダが顔を出した。

 面差しがアンジェラに似て目を奪われるほどの美人だ。40間近だというのに白い肌にはシワひとつなく、瞳には信頼が愛情が滲んでいた。

 彼女を悲しませるわけにはいかない。


「あなた、レイモンド殿下がお見えになったとか」

「ああ、アンジェラと婚約したいそうだ」

 私はかいつまんで、レイモンドの話を説明した。


「そうですか、どうなさるおつもりですか?」

 私の迷いをわかっているように、そっと膝に手を乗せる。

 その手を優しく握りしめ、ため息をつく。


「この話お受けしましょう」

 はっきりと、ミランダが言う。

 娘を愛していない男と婚約させるのに、少しの迷いもないようだった。


「いつまでもウジウジしていたらあっという間におばあさんになってしまいます。殿下も全て承知の上で婚約を申し込まれたのですし、この際どうなるか見守りましょう」

 ニッコリとミランダは口元に笑みをたたえた。

 この思い切りのいい性格はアンジェラも受け継いでいる。

 きっと、私が反対してもこの婚約話は流れないだろう。


 ため息をもう一つして、私はミランダの頬に唇を寄せた。


「まあ、こんなところで」

 拗ねたようにミランダは言ったが、怒ってはいないようだった。

 その顔がアンジェラの困った時の顔にそっくりだ。


 レイモンド殿下も苦労しそうだな。






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