鈍感白魔道士は提案する
「…いた」
「ハルぅ〜あのお店のジェラート買いません?それで一緒に食べましょう?」
「…大丈夫です。お嬢様が召し上がりください。」
時計台広場までやってくるとベンチに座っているハルと写真の一人娘を見つけた。
一人娘はハルの肩に頭をのせさらに腕に抱きついてうっとりとハルを見つめていた。
久しぶりにみたハルは顔色があまり良くなかった。
夜ちゃんと寝ていないのかもしれない。
無表情で疲れ切った顔で一人娘の相手をしていた。
「…ハル」
「!?」
「なに?あなた?」
そんな2人の前まで躊躇なく向かうとハルに呼びかけた。
「…話しよう?」
「…サクラ」
ハルは驚いたように目を丸くし私を見つめる。
そんな目をじっと見つめる
「…ちょっと!ハルは今日私とデートなのよ!邪魔しないでくださる!?」
一人娘はベンチから立ち上がり私を睨みつけた。
「…ハル7
そんな一人娘を構うことなく再度ハルを呼びかける
「…もう知ってるんだね」
「…うん」
ハルは少し困ったように笑った。
「そういうことだから、大丈夫。あとは俺がなんとかするよ。心配しないで?」
「…」
ガシッ
「えっ?」
どっからどうみても全然大丈夫そうではない。
私はハルの腕を掴み引っ張った。
「…脚力増加」
そして自分に魔法をかけると一気に走り出す。
「ちょっ!ちょっと!!待ちなさい!」
一人娘が呼び止めているがそんなこと知らない。
私はハルを連れて走り続けた。
「はぁはぁはぁ…」
少し経つと魔法の効果が消えた。
後ろを振り返るが追ってなどはきていないようだ。
「…サクラ大丈夫?」
やはり戦士という職についているからだろうハルは全く疲れた様子もない。
「はぁはぁはぁはぁ…」
そんなハルの問いかけに久しぶりの全力疾走に息が整わないため私は返事がらできなかった。
「…あそこなら一目につかないし…少し休もうか?」
ハルは建物の影にある低い石垣を指差した。
私は息が整わないままうなづき石垣まで向かった。
「…」
「落ち着いた?」
「…うん」
「よかった。」
少し休み息を整えるとさっきまで時計台広場にいた時の表情とはちがいいつもの穏やかな声と表情でハルは優しくいった。
私は話をするためじっとハルを見つめる
するとハルは少し気まずそうに目を逸らした。
「…みんなに心配かけてるよね?」
「…心配」
「…そっかごめん。この数日ね。俺…色々考えたんだ」
そういうとハルは苦笑いを浮かべて話出す
「最初は話せばわかってくれるって思ってた。真摯に自分の気持ちを伝えればね…今までだってそうだったからさ」
ハルはモテる。
だけど女性関係で揉めることは一度だってなかった。
いつも相手のことを考えて穏便に優しく返事をするため女性たちはハルを困らせたくないと潔く諦めるからだ
だけど今回はどうやら違ったらしい
「お嬢様はね。俺の話を全く聞いてくれない、自分のことだけしか考えない。何度も話をしたけど無駄だった…だから…サクラもみてたと思うけど、あんな風に冷たい対応を取ったりして気を逸らそうとしているんだけど….あいにく効果はなくてね。」
慣れないことをしたからだろう疲れたような声でそういうと苦笑いを浮かべる
ギルドのみんなには俺のせいで迷惑かけてるよね。本当リーダーとして情けないなぁ
「…ハルは悪くない。」
「ありがとう…だけどそろそろ腹括らないといけないって思うんだ。」
そういうとハルは真っ直ぐ私をみた。
「俺…この結婚話受けようと思う」
「!?」
まっすぐな瞳の中に決意がら満ちていた。
だけど諦めたような、苦しいようなそんな表情をハルはしている。
「…そうすれば全て丸く収まる。少し話をしたら結婚後でもギルドは続けていいっていってくれたんだ。だから…」
村で他の子供に大事なものをらとられた時や強い魔物相手に窮地に追いやられた時等ハルはこの表情を浮かべてた。
「ダメ!」
だから私は強く否定する。
ハルがこういう表情を浮かべる時はいつだってそうしてきたのだから。
「サク…」「ハルは渡さない」
ハルが名前を呼ぼうとしたがそれに被せるように私は言葉を出した。
ハルはギルドの大切なリーダーで、大切な幼馴染。
あんなわがままお嬢様になんて渡したくない。
「…行こう」
私は立ち上がると座ったままのハルに手を差し出した。
座っていると自分より小さいハル
まるで小さな頃のハルのように感じた。
「…うん」
ハルはゆっくりと私の手を握った。
「…連れてきた。」
「…みんな」
私はハルを事務所に連れてくる
そこにはダイチ、コウ、トウマ、ナツが変わらずにその場に残っていた。
「ハル、サクちゃーん!心配したんだから!!」
ムギュ
ナツは事務所についてそうそう私はに向かって抱きついてきた。
「よう、ハル」
トウマは落ち着いたまま椅子に座っている
「ハル、サクラ…」
コウは事務所の窓の近くでホッとしたように立っている
「戻ってきたか…」
ダイチは事務所内をうろうろしていたが私たちがつくと立ち止まり真っ直ぐこちらをみた。
「じゃあ、話し合いをするか」
「…うん」
トウマがそういった。
「といっても、解決方法わかんねぇよ。」
ダイチは頭を掻きむしりながら顔を顰めた
「役人か一人娘の弱音を握るべきでは?それで脅すとか?」
「それもありだが…嗅ぎ回って弱音握るまでギルドは現状のままだ、保つか?」
コウの提案にトウマは首を傾げる
「ギルド共有貯金はあるけど、このまま本当に依頼ゼロならもって半年かな…」
「それまでに見つければいいんじゃね?」
「一応俺の方でもそういったことを依頼を受けながら探ってみたけど…半年で探すのは難しそうだったね。」
ダイチの言葉にハルは苦笑いを浮かべてそういった。
「えーもうめんどくさいからやっちえばいいじゃん!」
ナツがまたまた過激な発言を口にする
「バカが、相手は役人だぞ!魔物とはちげぇーんだよ!」
ダイチがナツの発言を否定した。
「バカとはなによ!」
「バカにバカっていって何が悪い!!」
「なんですって!」
「落ち着け!2人とも!」
いつものように2人が喧嘩をしはじめそうになりトウマが止めにはいった。
「……ギルド解散」
「「「えっ?」」」
そんな中で私は静かにそう告げると
言い争っていたダイチとナツ含めて5人が一斉に私の方をみた。
そんな中で私は静かにそう告げると
言い争っていたダイチとナツ含めて5人が一斉に私の方をみた。
「…どういうことですか?」
コウが恐る恐るそう聞いた。
「…役人手が届かない場所まで逃げる」
話を聞いてから私はずっと頭の中にある考えが浮かんでいた。
「どういうこと??」
「なるほど…」
「それもありだね。」
「えっ!?今のでわかったのか?」
トウマとハルが納得したようにうなづくがコウ、ナツ、ダイチは理解していないようで戸惑っていた。
「…人いれば結成する」
「「「??」」」
「…ようするに、サクラはこの城下町でのハル率いるこのギルドを解散させて、役人の手が届かない地域で新たにギルドを結成させようっていってるんだよ」
「…そう」
トウマが2人にわかりやすく説明をしてくれた。
「…ですが全員が慣れ親しんだ城下町から他の地域へ移動してくれますでしょうか?」
「それは、来れる人だけでいいと思う。みんなに事情話してそれぞれどうするか考えて決めていけば…どうだろう?」
「…いいと思う」
6人でそれぞれ意見を言い合い、その結果慣れ親しんだ城下町を出ていく方針で進めることとなった。
ギルドメンバーをみんな呼び出しハルは申し訳なさそうに事情を話す
それに対して誰も不満は言わなかった。
それどころかハルを励まして皆が元気づけてくれた。
この町に残る人、どうするかよくよく考えてから動きたい人、身辺を整理してから動く人、ハルとともに一緒に逃げる人
それぞれの道を選択していった。