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鈍感白魔道士の新たな生活




「…ハル?」

「こんな時間に珍しいね。」


移動する前日の夜

なかなか寝付けなく飲み物でももらってこようと部屋をでて食堂に向かう途中でハルと出会った。


「…寝れない?」

「サクラも寝れない?」

私がそう聞くと同じようにハルも聞いた。


「…寝れない」

「そっか…じゃあ少し2人で話をしない?」

「…わかった」


2人でギルド館の中庭にやってきた。

ギルド内に植物が好きな人がいて定期的にお世話してくれているため多くの木々や花々が生き生きとしている。

そこにある木製のベンチに私たちは座った。


「…改めて…ありがとうね?」

「…どういたしまして?」


ハルにお礼を言われて首を傾げながらそう答えた。


「なんで疑問系なの?」

「…私よりトウマとコウ」


ハルのために解散の手続きや移動の準備、各メンバーの調整したのはトウマやコウが中心だ

私はそんな2人のお手伝い程度の事務処理をしていただけでお礼言われるようなことではない。


「2人にもちゃんとお礼を言ったよ。だけどこの選択を選ぶきっかけをくれたのはサクラのおかげだから…ありがとう。」

「…うん」


今度はお礼をちゃんと受け止める

ハルは嬉しそうに微笑んだ。


「…今日はなんだか村をでた時とよく似た気持ちになってなかなか眠れないんだ……ねぇサクラ村を出るって決意した時のこと覚えてる?」


「…覚えてる」

私たちの村は森の動物を狩ったり畑の作物を育てたりして生計を立てているありふれた村だった。

そんな村に時々商人がやってきて少し珍しいものを売ってくれ、その中に子供向けの本があった。


強くてカッコいい旅人の本。

私たちはその本に夢中になった。

何度も何度も読み返してこの話が好きだとか、このセリフが良かったなんて語り合ったりして、そしたらある日ハルが旅人になりたいって言い出したのだ。


「あの本とは違ってギルドという拠点があるけど…強くてカッコいい大人になりたかったんだよ俺は。」

「…なってるよ?」

ハルは強いし、カッコいい、誰もが認めるギルドリーダーだ

「…そうじゃないんだよ。サクラ…」

そういうとハルは小さく首を振ったあと真っ直ぐ私を見つめた。


「俺は…サクラが旅人のことをカッコいいって言ったから村を出ることにしたんだよ」

「…?」


たしかにいったと思う

だけどそれが旅をするきっかけになったということがよく分からない。

私は首を傾げながらハルを見た。

するとハルは少し困ったように微笑んだ。


「サクラは本当に鈍感だよね。…だから、はっきり言わせてもらうよ。」


そういうとハルは真剣な瞳を私に向けた。


「俺はサクラにとって1番カッコいい男でありたい。俺はずっと…ずっとサクラのことが女性として好きだから。」


「…………!?」

私にとって1番…女性として……それは…

理解した瞬間驚きのあまり声が出なかった。



「サクラが旅人をカッコいいって…トウマ以外の人をカッコいいっていったの初めて聞いて、それなら俺は旅人みたいになりたいって思ったんだ。」


全く気づけなかった。

だってハルはいつも私のことを子供扱いしてきた。

そんな風に思われてるなんて想像していなかった。


「…私は」

だけど自分の気持ちは1番理解している。

私の1番は…


「トウマだよね?知ってるよサクラの好きな人は、だけど諦めきれなくてずっとサクラを思ってた。」


そう言ってハルはいつものように穏やかな表情で私を見つめた。



「基本無口なのにいきなり思ってもいない方向に暴走するとことか、朝が弱くて起こす時大変なとことか、甘いものに目がなくてたくさん食べすぎるところとか…」


「…悪口?」


「ちがうよ。そういうとこ全て引っくるめて好きだってこと。」


私がムッとするとハルは微笑んだあと再度真剣な目を向ける

「…今回、誰か違う人と結婚してしまえば諦めることができるという考えもあったんだよ。だけど…サクラは俺を呼び止めた。ただの幼馴染としてやリーダーとして俺を必要としてくれていたとしても…すごく嬉しかったんだ…だから…」


そういうと私の髪を一房手に取った。


「もう、自分の気持ちを我慢することをやめることにした。俺はこれからサクラを全力で落としにいくことにする…」


そういってハルは私を見つめながら髪に唇を落とした。

「好きだよサクラ、これからもずっと…」

「…っ!」


その時のハルの目がのぼせてしまいそうなほど熱く、そして甘かった。



「おはようサクラ」

「…眠い」


移動する朝はトウマが私を起こしてきた。

何度かぐずる私をトウマはいつものように優しく接しながら対応してくれた。


「…今日はなんか目の下にクマもあるな?寝れなかったのか?」

「…うん」


移動する緊張感はもちろんあるがさらにハルが…

思い出したらなんだか恥ずかしくなって顔が熱くなる。それを覚ますように手のひらで頬をさまさせた? 


「…サクラ?」


そんな私を不思議そうにトウマが見ていた。

その時

「おはよう、トウマ、サクラ」

「!?」

「おはようハル」


昨日のことを思い出している最中にその本人であるハルが登場した。


「サクラ昨日は寝れた?」


ハルはというといつもと変わらない。

いつもの優しげな表情でそう聞いてきた。


「…寝れなかった」

「??」

昨日のことを思い出すと恥ずかしくなってまともにハルの顔をみれずトウマの後ろに隠れながらそういうのが精一杯だった。


「サクラ…なんだか様子が…どうした?」

トウマは不思議そうにそう聞いたが答えられるわけがない。


「はよー」

「おはようございます。」

「おっはー」


そんな話をしているとダイチ、コウ、ナツもやってきた。

「3人ともおはよう」

「おはよう」

「…おはよ」


「ん?お前ら何してんだ?」


ハルから逃げるようにトウマの後ろに引っ付く私を見てダイチが首を傾げる。


「それは俺にも…」「俺昨日、サクラに好きって伝えたんだよ。」

「「「!?」」」

トウマがわからないと答える前にハルが言葉を被せるようにそういった。


「だから照れてる。ねぇ?サクラ?」

ハルはいつもの穏やかな表情でそういうとトウマの後ろに隠れる私を覗き込んだ。


「…バカハル」


なんでそんなことをみんなの前で言うのか、混乱しながらもハルを睨みつける


「はははっ、顔真っ赤かわいいね。」


「えーー!うそーー!」

私の反応を見てナツが最初に大声をあげ興味深そうに私たちをみる


「そっそっそっそれで!さっさっサクラはなんと??」

いつもとは違い呂律の回らない状態になっているコウがハルと私を交互に見てきいた。


「ハルが………サクラに…………」

ダイチはというと立ったまま固まっていた。


「いいかいみんな?」

そんな混乱状態の中ハルがそれぞれの顔を見回して言った。


「俺はもう遠慮するつもりはないよ?全力でサクラにアプローチするつもりだからそのつもりで」


ハルはいつもと変わらない優しい笑みでそう告げるのだった。




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