49.二人の少女
その世界には、誰でも知っている二人の少女の物語がある。七百年の時を隔てながら結ばれた絆の話。二人の少女の友情の話だ。
一人の少女は異世界からの迷い子。恋を育み愛を実らせ異世界での文化を世界中へ広めた。子供たちはクリスマスの朝、枕元にプレゼントを見る。赤い服を着た少年と少女が、眠っている間に世界中を駆け巡り、子供たちだけに光の祝福と共にプレゼントを配ってくれるからだ。
――この世界を愛した少女、アリス・オルザベルによる私たちへの贈り物。そう誰もが思っていた。
それだけではないことが、後に判明する。七百年後に現れた聖女の死後に出された出版物により明かされた。
アリス・オルザベルは聖女セイカ・ツキシロの異世界での親友だった。彼女が無事に魔王を浄化することを願い、世界中へと死ぬまで光を届けていた。死後も永遠にそれが続き、蓄積する人の負の感情が減るように祈っていた。
七百年後に召喚された聖女は親友の思いを胸に、魔王浄化へと大きな一歩を踏み出す。人々の痛みに寄り添い、涙し、この世界の住人の祈りを携えて浄化に成功した。
聖女は親友の意思を継ぐように、クリスマスの夜には必ず祝福の光を世界中へと届けた。彼女の愛する夫のピアノの音色と共に。クリスマスの夜、その曲を聞かずに眠る者はいないだろう。『星屑のロンド』という名のその曲は、不思議な歌詞と共に聖夜の至るところで今も流れている。
その音色が世界中へと響かなくなった時、彼女の夫が天に召されたのだろうと誰もが思った。それから幾年か過ぎ、クリスマスの祝福の光と共にありがとうと微かに声が聞こえた。理由は翌日に判明する。聖女はその夜、息を引き取っていた。同じ屋敷に住む彼女の娘に「おやすみなさい」と言ったのを最後に旅立ったという。
『聖女の日記』
最後に、彼女の本から私たちへのメッセージを抜粋してここに記そう。
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私は一人のなんてことのない普通の女の子だったわ。特別情に厚いわけでもない。世界の平和を祈るようなタイプでもない。どちらかと言えば、生まれなければよかったと後ろ向きなことばかり考える性格。異世界での友達もアリスしかいなかった。
どうかまた、聖女がこの世界に現れるのなら、その女の子を支えてあげてほしい。重い使命に押し潰されそうになるかもしれない。プレッシャーに耐えられなくて泣いてしまうかもしれない。そんな重荷を抱えなくていい世界にしてほしい。聖女はただの媒介でいい。この世界の人々の祈りを解き放つだけの存在。それだけで魔王の浄化ができる世界にしてほしいわ。千年後には最弱の魔王しかいない。そんな未来にしてくれるわよね?
私はこの世界に来て幸せでした。
どうかこの世界の全ての人と、そして次の聖女にも幸せを。
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聖女セイカ・ツキシロは独特な服を着て特徴的な言い回しも多かったという。存命中も闇系と呼ばれるその装いは大流行し、没後は多くの名言がまとめられている。『聖女の日記』を元に映像化もされ、今もなお根強い人気を誇り、その魅力にはまってしまう熱狂的なファンがあとを絶たない。
聖女の役目を終えたあとの彼女の名はここには記さない。世界の平和のために中立を保ち、尽力したことだけを記しておこう。
二人の少女の友情の物語は、この世界がある限り語り継がれるのだろう。




