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聖女として召喚された私は無愛想な第二王子を今日も溺愛しています 〜星屑のロンド〜【完結】  作者: 春風悠里


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37.親友と最後の

 コテージの中はさっきと変わらない。簡素な長椅子に座るとアリスが距離を詰めて隣に座った。


「アリス……普通は真向かいじゃないかしら」

「真向かいだと触れないし!」


 ベターっとくっつかれる。

 これは……なんだか嬉しいわね。一緒に過ごしているのだと実感する。


「服と一緒で甘めの性格になったの?」

「服はレイモンドの趣味! さすがに毎日会える時にはくっつかないし」

「似合うと思ったのよねー、そーゆー服」

「うん、だんだんと私の趣味までこっち系に……。いや、セイカのせいだし! セイカから借りたゴスロリ本を見ているのを覗き見していたからでしょ、レイモンド!」

「え、話を振らなくていいのに……まぁ、そういう側面もあったかな」

「私のお陰だったの。いいことをしたわ」


 それも日記に書いていたわね……アリスは弟におさがりをあげるため、普段着は地味なTシャツが多かった。せっかく可愛い顔立ちをしているのだからと私の服を着てみるか聞いたけれど、やめておくと断られたのよね。羨ましそうな顔をしていたから、いつか着ると言う日を待って本を貸したりしていた。


「未来にはゴスロリが存在するの?」

「ないの! 仕方なく流行らせる羽目になったわ……」


 本当はそんなに積極的に流行らせる気はなかったけど、つい見栄を張ってしまったわ。

 

「ゴスロリって退廃美だよね。聖女がゴスロリを流行らせていいの……?」

「大丈夫よ。私が着ているだけで流行るし、適当な意義みたいなのをでっち上げてもらったから」

「……誰に?」


 ど、どうしよう。

 

「第二王子かな……」


 ああ、言ってしまったわ。でも、これくらいいいわよね。そうよ、日記をあの人に渡そうって思ってもらうわけだし……。

 

「恋人!?」


 まずいまずい。表情がつくれないわ。

 

「そんなの、どうだっていいじゃない」


 違った。日記をあの人に渡そうとアリスが思うのは今じゃなくて死に際……ああもう、そんなこと思い出したくないのに。変なボロが出る前にアリスの話にすり替えましょう。


「だからお嬢口調なんだね」

「使い分ける自信もないし、普段からそうしているわ。アリスの前では戻ってしまいそうだけど。アリスこそ、ぜんっぜん変わっていないけど大丈夫なの?」

「あら、大丈夫よ。必要な時には口調も変えているわ。そうよね、レイモンド」

「そうだね」

「ほらね! ノープロブレム!」

「器用ね……そういえば、昔から器用だったわね」


 その場その場で、どう言えば空気がよくなって上手くまわっていくか考えて動いていた。私がいじめられることもなかったのはアリスのお陰かもしれない。友人の多い彼女が、私のことを大好きな親友だって周囲に思わせるように振る舞っていたから。彼女がクラスにいるだけで雰囲気が明るくなる。そんな存在だった。

 私をクラスに溶け込ませようとしてくれた時もあったけど、私が嫌だと思っているのを察してすぐにやめてくれた。


「セイカは知っているの? 私が死ぬ運命だったこと」

「……知ってるわ」


 死ぬ予定の前日に、ここに召喚されたのよね。私と同時に……。

 

「セイカが聖女でなかったら、たぶん死ぬだけだったと思う。セイカがいたから魔女さんに見つけ出してもらえた。レイモンドも魔女さんに会えた。ありがとう、セイカは私の命の恩人だね」

「…………」


 え……?

 私がいたから……?

 私が聖女だから、アリスは死なずにここへ……?


 ああ――、そっか。私の魔王浄化には、今ここでアリスと会うのが必須条件なのね。それによって私はきっと――。


 どうしても目が潤む。


「私はアリスに救われていたの……アリスに会っていなかったら、リスカくらいしていたと思う」

「――え」

「辛くて、吸い込まれるようにカッターナイフを手に持ったことがあって……そんな時にアリスから変なメッセージが送られてきて……」


 ずっとそうやって救われていた。


「それから、自分を傷つけたくなった時はアリスにメッセージを送っていた」


 ずっと依存していた。

 軽く「変な言葉をちょうだい」と送るだけで、アリスは察して私の気持ちが違うところへ向くような文章を送ってくれた。


「そっか。気が紛れていたならよかったけど、変なメッセを送った覚えはない」

「カッターナイフを手首にあてようとした時の内容は『今日の月の影、めっちゃウサギ! 見れるなら見てみて!』だったと思うわ」

「変じゃないし! 感動を共有したいっていう友情あふれる内容じゃん!」

「おかしなアリスに救われていたけど、私も救えたならよかったな……」


 ずっと一方的に救われるだけだった。重荷になるだけだった。そう思ってた。でも……あんなに楽しそうな日記を書くような毎日を、私が聖女であることでアリスが死を回避して送れたのなら――。


 私は、自ら望んで聖女になるわ。


「七百年後ってどうなの?」

「それがね……未来については詳しく語ってはいけないらしくてね。ほら、過去を変えちゃ駄目じゃない?」

「雑談で変わる?」


 ふふっとわざとらしく笑ってみせる。クラスでの休み時間の、なんでもない雑談のように。

 

「明日にはそのツチノコちゃんキーホルダー、爆発するから外した方がいいわよ」

「え!?」

「って言ったら外しちゃうでしょう? 爆発はしないけれど」

「びっくりしたぁ……」


 ずっとあっちの世界で鞄につけていたツチノコちゃんキーホルダー、まさかこっちでも見るなんてね。レイモンド様が再現したらしいけど、そのままだわ。……愛されているわよね。


「もしかして未来でツチノコちゃんが流行ってる!? 王都でキモ可愛いが長年の間トレンドに!?」

「全然。影も形もないわ」

「駄目だったかー……」


 本当に……昔のままね。

 アリスの部活の帰りを待って、公園で雑談して、仕方なくそろそろ帰ろうかと立ち上がった日々を思い出す。


「元気が出た。帰ろうかな」


 昔と同じ言葉で言ってみた。

 そんなに長くはいられないわよね……タイムトラベルだし。ここまでよと魔女に切り上げられるくらいなら私から……。


「もう? 魔女さん、早く帰らなきゃいけないの?」


 あら。部屋の片隅に突っ立っていたのね。

  

「そうねぇ……夕方頃まではいいんじゃないかしら。お昼にはアリスちゃんの好きなフルーツサンドも出してあげるわ」

「やった!」


 まったく。七百年も遡ってフルーツサンドの話がまた出るなんて。……もう、一緒に食べられる日は二度とこないのね。


 そうして――、私たちは夕方までずっとおしゃべりをしていた。レイモンド様も嫌な顔をせずにニコニコしながら話を聞いていた。この先、絶対にアリスを幸せにしてくれると確信できた。


 やっぱり、どうしてもたまにお互い涙目になって、何度も拭った。私に友人ができた話もした。アリスの子孫だと言えないのは残念だった。


 光魔法で祝福もし合った。すごくアリスらしかった。幸福感とわくわく感と今日を迎えられた喜びが湧き上がってくるような……そうね、クリスマスの前の日のよう。サンタさんを信じていた頃の……。こっちではイブなんてないし、クリスマスの夜にプレゼントが枕元に置かれる習慣だけれど。アリスたちの絵本によってね。


 今、目の前にいるアリスはまだ全世界に光魔法を届けていない。国全土までだ。けれど、メイドの出産に立ち会ったことで命の重さを感じ、次の冬のクリスマスにはこの世界全てに光魔法を届ける予定であることは書いてあった。正確には、届けられる気がすると言ったらレイモンド様にそうしようと強く提案されたらしいけど……おそらくは実際にそうなるのだろう。それだけ聞くとすごい存在だと思ってしまう。でも……。


「ねぇ、アリス。この世界が好き?」

「うん。大好き! 神様の愛情が目に見える優しくて穏やかなこの世界。皆に親切にしてもらって支えられて……だから私は私なりに皆を支えられたらなって。平和だけどね」


 手紙と同じことを言ってるわね。

 そんな顔をしないでよ。平和であることに申し訳なさなんて感じないで。大丈夫よ、世界なんて赤子の手をひねるように……なんて言ったら怒るかな。軽々と救ってやるわよ。私の親友が祈らずにはいられないこの世界、あなたが遺した絵本はずっと絵柄を変えながら出版され続けているのよ?


 前の世界でもアリスは居場所をくれて……そしてこの世界でも、遺してくれた日記と手紙に私は勇気づけられていた。


「詳細は言えないけど……ここに来てからもアリスに救われていたの。聖アリスちゃん、頑張ってね」


 もう……二度と触れることはできない彼女の頬をなでる。


 アリスには友達も多い。ここでもそうだ。日記にはたくさんの名前が登場する。だからせめて、私の存在を刻みつけてやるわ。

 

 ――唇に軽くそっとキスをする。


 驚くアリスに、文句を言われる前にと私の最上級の笑顔を向けた。


「世界は任せて」

 

 ――私はこうして、七百年前のこの場を立ち去った。

 

 もう永遠に会えない。

 同じ世界にいた、唯一の親友だったのに。


 私は魔女と共に――、彼女が死んだあとの世界へと戻った。


 

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