伝説の鎧鍛冶がビキニアーマーしか売ってくれない
「ここが、伝説の鎧鍛冶屋の店……何という迫力だ……」
かつて龍が棲んでいたとされる山の上、岩壁を削りだして作られたであろう無骨な店構えに私は高揚感を抑えられずにいた。
「やはり私もS級になったことだし、こういった最高クラスの店で装備を買わないといけないからな」
かつてはぼろ布のような服でスライム相手に苦戦した私が、今では伝説級の装備を購入しにいくとはあまりにも感慨深い。
「懐かしいなあ、あのぼろぼろの装備も。ところどころ素肌が出ているから野卑な冒険者に下品な目を向けられたなあ」
鍛冶屋の前でかつての冒険を思い返す私、だがそろそろ勇気を出して入ってみなければならない。
「よし、入るぞ!」
ガチャ
「……いらっしゃい、どんな装備を探してんだ?」
入るとすぐに店主とみられる人物に会うことができた、彼こそが異界から来たとされる伝説の鍛冶師だ。
漆黒のような黒髪に筋骨隆々の体、ゴーグルとガントレットは仕事道具だろう。だが真に特筆すべき点はその身にまとうオーラだ、恐らく腕っぷしの面でも私と互角、それ以上かもしれない。
ゴクリ、生唾を飲むと私は意を決し言葉を発す。
「この店で一番良い装備を見せてくれ」
店主は片肘をついて私に言った。
「分かった、俺が造った中で最高のものを見せてやる」
そうすると店主は店の奥に行った。そして数分後店主は驚愕の装備を持ってきた。
「これが最高の装備だ、ビビったか?」
「な、嘘だ……」
そこにあったのはまるで水着のような鎧、素材は赤怒竜の鱗に蛇魔人の皮を使い装飾にブラッドバタフライを使った豪華な仕様だがそれにしたって面積が少なすぎる。はっきり言って大事な部分しか隠れない、肩と膝だけは辛うじて鎧の体裁を保っているかもしれない、あと兜も。でもそれにしたってバカにしてるとしか思えない装備だ。娼婦だって着ないぞこんなの。
いや、もしかして……
「私に実力が足りなくて商品を売れないってことですか?」
「いやこれが最高の装備なんだが」
話が通じねえ、なんだこの変態鍛冶屋。こんな装備着て冒険に出かけられるわけないだろうが。
「あんた、こんな装備着て冒険に出かけられるわけないって顔してるな」
「それは……そうだが」
「この装備のステータス表だ、一級鑑定人のお墨付きだぜ」
そうして出されたステータス表がこれだ。
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竜王のビキニアーマー 装備レベル:95(神器級)
物理防御:657(岩魔人級)
魔法防御:1200(クイーンドラゴン級)
属性耐性:火(100)、氷(70)、雷(70)、水(90)、土(80)
特殊効果:衝撃吸収
(肉体への攻撃を鎧が受け止める)
魔法機構
(魔法防御の値を物理防御に加算する)
完全防備
(急所攻撃・即死攻撃を無効化する)
竜王の威厳
(物理防御を10%減らし、攻撃力が1.5倍上がる)
不死の蛇
(致命ダメージを受けた際にHPを30%回復、クールタイム24h)
ブラッドスピード
(敵に攻撃を与える度に攻撃速度UP1%(最大300%)
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「強い……見た目と裏腹にちゃんと神器級だ」
「でも……」
「流石にこれを着るのは無理だ」
そりゃあそうだ、私だって冒険者である前にうら若き乙女である。これを着るのは尊厳を脱ぎ捨てるようなもの、店主が買わないの?みたいな目で見ているけどプライドはここで捨てるべきじゃない。
「他の装備は売ってくれないんですか?」
例えばあそこに立てかけている鎧とかは売ってくれないんだろうか。
「あれは防御性能が低いからね、とても売れるようなものじゃないな」
「じゃあ、一応値段聞きますけど何Gです?」
もう帰る気持ちは決まっていたけど、念のため価格を聞いてみる。こちらとしては全財産である1000万Gで買える様な金額だといいのだが。
「値段は大体140万Gかな」
「か……かいま……でも……(安い!だが!)」
「お嬢ちゃん可愛いから100万Gで!」
「ちくしょう!買うよ!!!!!」
だって安いんだもん、しょうがないじゃないか!プライド捨てて命拾えるならそりゃあプライド捨てるよ!S級なら頑張れば一月ほどで稼げる金額だし!
「ここで装備していくかい」
「これをここではちょっと無理かな……」
「普通に体格とかに合わせて調整するから、できれば装備してってほしい。奥に更衣室もあるんで」
「じゃあ着ます」
いや、流れるままにここで装備していく感じになったけどこれで本当にいいのか私!しかし、そんな葛藤とは裏腹に割とスムーズに着れて、店主の目の前に立つことになる。
「ふむ、なるほど、なるほど」
(恥ずかしい~!!!!!)
肌がすーすーするとかいう感じは装備の効果でないものの、とにかく服の感覚が無さすぎる。例えるなら大衆浴場で裸になったまま外に出てきてしまった感じ。装備がどんな技術を使っているのか羽のように軽いのもそれを加速させる。
(どうして私がこんな辱めを受けているんだ……)
「素晴らしい、鎧のジャストフィットシステムが上手く作動しているな」
店主は腕組をしながら鎧を観察している、目線はゴーグルに隠れてよく分からない。
「店長」
「なんだね」
「そんなシステムあるならこの場で着替える必要なかったですよね、後ゴーグルつけているのってビキニアーマーを凝視しているのを外から見えないようにするためじゃないですか」
「よし、ご来店ありがとうございました~!!!」
「二度とこねえからな!この変態店主!」
「へ!定期的なメンテナンスをしとかねえと鎧の特殊効果が発動しねえんだよ!」
私は勢いよく山を走り抜けて帰った。最後に店主に言われた捨て台詞を気にした私はその後数年腕の立つ女鍛冶師を探しまわったが見つからなかった。
ある日、鎧の特殊効果が上手く発動しなくて困っていたところ全身鎧を着こんだ店主にダンジョン深部で会うことができた。これも何かの縁と素材と引き換えにメンテナンスをしてもらったが、店主が着ているちゃんとした全身鎧を前に、どう考えてもビキニアーマーは趣味だろうとしか思えなかった。
それからさらに数年後、ビキニアーマーは高ランク冒険者に流行ったが店主はその頃には別の異界へとビキニアーマーを広めにいったためその光景を見ることは無かった。