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旦那サマは筆頭魔術師サマ

「え?アレ?え?えぇっ!?

俺、今妻に捨てられたっ!?やっと帰って来たのにっ!?」


2年間の迷宮(ダンジョン)攻略から戻って来たばかりの王宮筆頭魔術師、ジラルド=アズマ(23)が妻のメルシェに離婚届を叩きつけられた。


(王宮筆頭魔術師とはその名の通り、王宮内…いや国内で一番の魔力保有量と実力を持つ者にのみ与えられる称号である)



あまりに唐突だったし、正直言って2年前と別人の様になっていたメルシェに度肝を抜かれ、しばらく金縛り状態になっていたジラルドだが、ようやくショックから抜け出して我に返った。


そして冒頭の言葉を吐いたわけだ。


そんなジラルドにチームとして共に迷宮(ダンジョン)攻略を成した友人、ジュスタン=コックス(22)が狼狽えた様子で声を掛ける。


「そんな事よりまず、お前っ結婚してたのかっ!?いつっ!?いつの間にっ!?」


その場にいた魔術師の同僚たちも次々にジラルドを質問責めにした。


「どうやって知り合ったんだよっ、あんな美女と!!」


「あの官服(ローブ)は魔法文官ですか?

知り合ったのは王宮内ですかっ?」


「歳は?身分は?」


突然起こった珍事件にジラルド達が囲んでいたテーブルが騒然となる。


ジラルドは額に手を当てながら答えた。


「名前はメルシェ、歳は確か3つ下だから今ハタチか……

文書室の(ヌシ)の紹介で結婚した、でも急遽攻略命令が下って、式を挙げた次の朝に家を出たっきりだ……」


ジラルドの説明にジュスタンが食い下がる。


「……もしかして初夜を済ませてそれっきり……?」


「?だってずっと迷宮(ダンジョン)に潜ってたし」


「いや、でも何度か地上には上がったじゃん?その時に手紙とかちゃんと出してたんだろうな?」


「手紙?手紙ってアレだろ?自宅の郵便受けに入ってる新術承認状とか召喚状とか……それって嫁さんにも出すもんなの?」


「手紙は公文書だけじゃねえよっ!

……じゃあ……まさか2年間、音信不通……?」


「家出る時に待ってる、って言ってたぞ?」


「「「……………」」」


ジュスタンが大きなため息を吐いてジラルドの肩を叩いた。


「うん、諦めろ。そりゃ~捨てられるわ。律儀に離婚届を直接渡しに来てくれただけ、相手の誠意に感謝しろ……って、聞いてねぇしっ!」


話も聞かずにジラルドは口元に手を当て何やらブツクサと呟いている。


「ブツブツ…驚いたな、あんなに田舎の小芋ちゃんだったのがまるで別人じゃないか、芋々(いもいも)しくて可愛いかったのに…

アレはホントにメルだったのか?え?家がもうないって?

アレ?俺の荷物は?…ブツブツ…」


「お~い、ジラルドさん?」


ジュスタンや同僚たちが憐れみの眼差しをジラルドに向けて見守る。


そんな中で、ジラルドとバディを組む王宮魔術師のイスラ=クレメイソン(23)がジラルドに告げた。


「良かったじゃないジラルド。2年間も放っておくって事はさして好きでもなかったんでしょ?見たところどこにでもいる普通の女だったし、貴方には釣り合わないわよ」


レディ・クレメイソン……イスラ=クレメイソンは伯爵家の三女で貴族令嬢だ。

幼い頃よりその膨大な魔力量を買われ、魔術師としての英才教育を受けてきた才女である。

妖艶な容姿と気位の高さから、魔術師でありながらも“レディ”を付けられる美女だ。


彼女がジラルドのバディになったのは今回の迷宮(ダンジョン)攻略からで、ジラルドに恋情を抱くも彼が既婚者と知り、歯痒い思いをしてきたのだ。


魔術オタクで一般常識に欠けるジラルドを何度も誘惑するも、本人に全く気付いて貰えないという残念な結果が続いているという事を、プライドの高い彼女は墓まで持って行き、隠し通すつもりらしい。


しかしこれでジラルドはフリーだ。


今までは噂を利用して遠く離れた妻を牽制したり嫌がらせをしたりしていたが、こうなったらもうグイグイ押しまくって必ずオトシテみせる……イスラは内心ほくそ笑んだ。


そんなイスラを他所にジラルドがいきなり立ち上がり、


「アレはホントにメルだったのか?ニセモノなんじゃないのか?俺のカワイイ小芋ちゃんがあんな男を直ぐに勃○させるような女になるなんて俄には信じられないぞ……」


と、ブツブツと独り言を言い続けた。


そして、


「……確かめよう」


とそう言って、皆には何も告げずにスタスタと立ち去ろうとしている。


「ちょっ……ジラルド!?」


ジュスタンやイスラや同僚たちは、それを呆然と見ていた。


しかし突然ジラルドが立ち止まる。


「「「…………?」」」


何やら思案したかと思うと振り返り、

ジュスタンに問いかけてきた。



「メルって今はどこに住んでるんだ?」


「……いや知らねぇよ」



今すぐ妻を追って色々と確かめたいジラルド。


まぁとりあえずはメルが籍を置く文書室へと手掛かりを探しに行く事となった。


しかしその日はもうメルは帰宅した後で、

本人の同意もないのに住所は教えられないと門前払いを食らってしまう。


ムカついたので自白魔法でも掛けてやろうかと思ったがジュスタンが止めるのでやめておいた。



「ふふふ……まぁいいさ。俺の索敵魔法を舐めんなよ♪」


「索敵て。嫁さんは敵じゃねえだろ……」


呆れ返るジュスタンを尻目にジラルドは不敵な笑みを浮かべた。



王宮筆頭魔術師ジラルド=アズマ。


攻略不可、人類史上唯一現存する未踏破の異境と言わしめた迷宮(ダンジョン)を攻略した立役者が、たった一人の女を探す為に久々に魔力を解放したのだった。



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