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噂のアズマ夫妻  作者: キムラましゅろう


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12/16

ジラルド、揺さぶられる

「ジラルド!」


ムギ=リョウタロウに激似の若い文官に

ココロときめくメルシェの姿を見て狼狽え過ぎたジラルド。


メルシェに部屋を追い出され、

魔術師団の詰め所にトボトボと戻って来たジラルドにバディのイスラ=クレメイソンが駆け寄って来た。


「……イスラ、遺跡の調査に参加したんじゃなかったのか?」


「だってジラルドが居ないからつまらないんだもの。だから一人で帰って来ちゃったわ」


「ふーん……」


心ここに在らずのジラルドの様子を見て、イスラは尋ねた。


「どうしたの?なんだか元気がないじゃない。私がなんでも相談にのるわよ?」


その言葉を聞きつつも、ジラルドの足は止まる事なくフラフラと詰め所の建物へと向かっている。


「いや、いい……」


力なく答え、前を歩いて行くジラルドの背中に向けてイスラが言った。


「もしかして、文書室に配属された文官の事?」


その瞬間、ジラルドの足が止まった。


「……なんで知ってるんだ?」


「我がクレメイソン家の情報網を舐めないでもらいたいわね、聞いてるわよ?奥様が大ファンの俳優にそっくりなんですってね」


「そっくりなんてもんじゃない……」


ジラルドは片手で顔を覆う。

イスラはクスッと笑いながらジラルドの肩に手を添えた。


「奥様、喜んでらっしゃるんじゃない?

10代の頃からのファンなんでしょ?かわいそうなジラルド、案外簡単に乗り換えられちゃうかもしれないわよ?」


イスラのその言葉にジラルドは目を向いた。


「乗り換えるっ!?俺からムギ似の野郎にかっ!?メルは騎乗位はあんま好きじゃないのにっ!?」


「きじょっ……!?な、なんの話よっ!!」


今年24歳になり更に妖艶な色気を増すイスラだが、実はまだ処女である。


自ら投げかけた爆弾が思いがけない形で返って来て、思わず顔を赤らめて狼狽えた。


そんなイスラの様子などお構いなしにジラルドはブツブツと独り言を呟き続けている。


「まさかメルに限ってそんなっ……でもメルはあの顔が誰よりも好きな訳だろ……?もしあの顔で迫られたらコロッといってしまうんじゃないか……?いやでも俺の小芋はそんな女じゃないっ……」


「ちょっとジラルド?」


持ち直したイスラがジラルドに追い縋る。


「俺は小芋を信じる、信じるぞ……」


「もうっ、いいじゃないべつに。奥様に捨てられた時は私が慰めてあげるわよ」


昏い目で何も見ていないジラルドの腕にイスラが絡みつく。


「ふふ」


ジラルドが何も言わないのをいい事に、イスラはぎゅうぎゅうと体を押し付けながら歩いた。




◇◇◇◇◇



「あ、もう就業時間だわ。みんな今日は定時で上がれそう?」


トキラが時計を見やり、皆に声を掛けた。


「僕はもう終わりです」


ムギ=リョウタロウのそっくりさん、新しい同僚のケント=バレイルが返事をする。


メルシェも書類を纏めて引き出しに片付けながら答えた。


「わたしも今日は残業なしでいけそう」


二人の返事を聞き、トキラが嬉しそうに言った。


「じゃあさ、バレイルさんの歓迎会も兼ねて、今日はみんなで晩ごはん食べに行かない?」


トキラのその提案にバレイルが笑顔で言う。


「恐縮です、でも嬉しいな。早速お二人と仲良くなれそうで良かったです」


だけどメルシェは少し思案してこう答える。


「でも今日は室長もお休みだし、歓迎会なら室長も居る時にきちんとした方がいいんじゃない?」


「じゃあ、ただの食事会に切り替えよう♪

ムギ様似の顔を愛でながら食べるゴハンは絶対に美味しいよ♪」


「うーん……ごめんね、今日は早く帰るわ。旦那がちょっと気になるし」


メルシェが言うとトキラが「あぁ」と顔をニヤリとさせた。


「そうだった、我が国の筆頭魔術師様がかなり心配してたもんね~。これでメルシェの帰りが遅くなったら、どんな奇行に走られるか分かったもんじゃないもんね、はははっ」


「……完全に面白がってるわね、でもまぁその通りよ。今日は帰って、アイツの好きなゴハンでも作るわ。バレイルさんもごめんなさい。また日を改めて」


メルシェがそう言うと、バレイルが頷いた。


「わかりました。今度ご一緒出来るのを楽しみにしています」


「それじゃあまた明日」


メルシェは鞄を持って文書室を出た。


だが後ろからバレイルが追いかけて来る。


「メルシェさん」


――ファーストネーム呼びだわ。

おトキさんもわたしを名前で呼ぶから釣られたのかしら。


「どうしたんですか?何か忘れものでも?」


メルシェが問うと、バレイルは少し困った様な表情で告げた。


「さっきは変な事を言ってすみませんでした」


「変な事?」


「……僕が旦那さんを羨ましいと、僕もそんな風に貴女に思われたいと言った事です」


「ああ」


「すみません、初対面で言う事じゃなかったですよね。それによってメルシェさんと気まずくなるのはイヤなんです。どうか許してください」


「気にしてませんよ?でも聞く人によっては誤解されるかもしれないから、あんな風には言わない方がいいかもしれませんね」


「え?」


「口が滑ったのがわたしで良かったですね」


「え?いや、その……」


「大丈夫です。わたしも一瞬アレ?と思ったけど、すぐにちゃんとした理解が出来ましたから。筆頭魔術師に憧れて羨ましく思うのは当然ですよね!」


「まぁ本人はあんな感じですけど」とそう付け加えて、メルシェはビシィッと親指を立てた。


「でもあのメルシェさん……」


「ではまた明日、お疲れ様でした!」


メルシェは爽やかな笑顔で颯爽と踵を返す。


そして「今日の夕飯はアレかアレかな~」と言いながら軽快な靴音を響かせて去って行った。


後にはポツンとメルシェの方へ伸ばした手を見つめ、所在なく立ち尽くすバレイルが残された。



文書室のある王宮の南翼棟のエントランスまで来た時に周囲の騒がしさに気付く。


――何かあったのかしら?


気にしながらもエントランスから外に出ようと足を進めていると、入り口の所で大きな黒い塊が見えた。


「!…………ジラルド」


黒い塊は膝を抱えて蹲るジラルドであった。


「なんでそんな所で蹲ってるのよ、入り口で座ってたら、他の人に迷惑でしょう?」


「メルぅぅ……」


側に来たのがメルシェだと知り、ジラルドは情けない顔をしながら見上げた。


「なんて顔してるの」


「だってメル……俺はどう頑張ってもムギにはなれないのに……それなのにアイツ、あんな顔ぶら下げてメルの前に現れるなんてっ……」


情けないほどに弱り果てた顔をしたジラルドを見て、メルシェは呆れながらも可笑しくて笑ってしまう。


「ぷっ、別にバレイルさんだって顔が似てるからってムギ様にはなれないのよ?

いつまでそんな事気にしてるの。ホラ立って、帰るわよ」


メルシェはジラルドの腕を引き、立ち上がらせた。


ローブの裾を(はた)いてやる。


「今夜はジラルドの好きなごはんを作ってあげる。何がいい?」


「メルぅ……トマトシチューがいい……」


「ふふ、ホント好きね。

わかったわ。今日は仕上げにチーズものせてあげる。トロッと溶けたチーズが美味しいのよ」


そう言ってメルシェはジラルドの手を引いて歩き出した。


ジラルドはチーズの蕩けたトマトシチューを想像したのだろう、ポツリと呟いた。


「美味しい……おかわり」


「ぷっ、まだ食ってねぇだろ」


メルシェは吹き出しながらも思わずツッコミを入れる。


ジラルドは繋いだ手をぎゅっと握りしめてきた。

メルシェもそれに応えるように握り返す。



王宮勤めの者がまじまじと見ていたが、いつもの事なのでもう慣れっこだ。


明日からまたどんな噂をされるかわからないけど、

ジラルドが元気を出してくれるならそれでいい、とメルシェは思った。















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