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 奴隷棟の外壁のわずかな段差伝って、4階の高窓を目指す。


 登りよりも下りの方が難しいと感じながら、なんとか目的地の4階にたどり着いた。鳥を同化して擬態すれば楽に偵察なども出来るかもしれないが、羽の動かし方など鳥のように上手く飛べるようになるまでかなりの訓練が必要になりそうなので当面は諦めている。


 索敵の能力を使い個の階層に巡回兵がいないのは確認済みではあるが、念のためもう一度周囲を見回し安全を確かめる。問題なさそうなので、先程の記憶を頼りに目当ての人物を探し…程なくして見つけることが出来た。


 警戒させないようゆっくりと近くによると、やはり俺がただのネズミではないことを確信しているようであり、訝し気な目をこちらに向けくる。


 ネズミの形態でも人の言葉を話すことは出来るが体の構造的に発音が難しいという事もあるし、会話に夢中になって巡回兵に見つかってしまうのもまずいかと思い、思い切って体にとりつき『念話』をするため『寄生』することにした。


 『突然スマナイ。ただこの方法以外で、周囲に俺という存在がバレることなくコミュニケーションをとる手段が無かったのだと理解してもらいたい。俺の名前はゼロという。ちなみにこの能力を俺は『念話』と呼んでいる。頭に念じたことを俺に伝えることが出来るから、試しにやってみてくれ』


 『そんなこと急に言われたって出来るわけ…って出来た。こりゃすごいな。おっと、僕の名はロルフという。歓迎するよゼロ。何せここに収容されて以降ずっと暇だったからな』


 『いや、歓迎って…得体のしれない俺が言うのも何だけど、少しは警戒したらどうなんだ?』


 『する必要があるのか?今の俺の状態は行動の自由が阻害されている。ゼロに俺を害する意思があるなら、俺にそれを阻む手立てはないからな。警戒するだけ無駄というだけさ』


 『何と、まぁ、達観しているというかなんというか…まぁいいか。そういえば最初に聞いておきたかったんだが、お前は最初から俺がただのネズミではないって気が付いていたようだったけど、どうして分かったんだ?』


 『簡単さ。君にはネズミ特有の獣臭さが無かったからね』


 『匂いか。それは俺の能力では再現できていないということか。ありがとう、今後の課題としておくよ。ちなみにその匂いを元にして、人間が感知できると思うか?』


 『まず無理だろうね。多分獣人でも気が付くのは余程近くに寄られなければ、僕のように訓練を積んだ狼系の獣人種でもなければ気が付かないんじゃないのかな?街中にいれば他の匂いに邪魔されて、まず気が付かれることはないと思うよ』

 

『なるほど、気を付けるに越したことはないからな、油断はしないようにしておかないと。ところで、どうして訓練を積んだお前がこんなところに拘束されているんだ?』


 『悔しい話なんだけど、目の前で子供を人質に取られてしまったからなんだ。何とか援軍を呼ぼうとしたんだけど…逆に人間達の方の援軍が先に来てしまってね』


 『人質…ってことはもしかして、最近話題になっている獣人たちの賊という事か?』


 『賊…ね。確かに人間達側からすればそうなのかもしれないな。でも僕たち獣人からすると、奴隷とするために何の罪のない獣人の村々を襲っている人間達の方が『賊』と呼ぶに相応しいと思うな。僕たちはそれに対抗しているだけさ』


 『それもそうだな。スマン、言葉を間違えた』


 『ま、呼び方なんてあまり気にしてないから大丈夫だよ。仲間たちは自分たちの組織のことを同胞を救い出す『義勇軍』って呼称していたんだけど』


 『了解だ。それでその義勇軍で獣人の同胞たちを助けようと行動していたお前が、すでに捕らえられていた獣人を人質に取られてしまい、逆に拘束されてここに繋がれているというわけか。本末転倒じゃないか』


 『面目ない』


 『いや、その言葉は俺にじゃなくて義勇軍の仲間に言うべきだろ。まぁ、いいか。それで、その義勇軍の活動で聞いた話だが、冒険者や商人を襲う事に意味があったのか?獣人の奴隷を運んでいないなら、助け出す同胞もいなかったんだろ?襲うだけ無駄じゃないのか?』


 『一種の示威行為だね。今の僕たちだけの力じゃこの都市を襲撃して、同胞たちを解放することは出来ない。それでも同胞が他の都市に売り払われてしまうのを黙って見過ごすわけにもいかない。行方が分からなくなってしまえば、助け出すことが永遠に不可能になるからね。でも獣人達が都市の外で活動していると多くの人間が知れば、奴隷商は襲撃されることを恐れて獣人の奴隷を都市の外に出するのに躊躇するだろ?』


 『なるほど。つまり俺達は協力し合えるかもしれないという事か…よし、単刀直入にお願いするんだけど、俺に協力してくれないか?俺はこの都市の奴隷をすべて開放したいと思っている。その為には戦力が必要だ、君たち義勇軍の力を貸してくれないか?』


 話してみた感じ人柄も悪くなさそうだし、何よりも利害関係が一致する。彼をきっかけとして、『義勇軍』との協力関係を築いて見せる。

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