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飲み会を終え店の外に出ると日はすっかり落ちていた。ダクエル達と別れ宿へと帰る。夜の町というのは色々と後ろ暗い情報を得るにはもってこいの環境ではあるが、今日の情報収集はここまでにしておくことにした。
部屋に帰るとすでにエリーは帰ってきており、くつろいだ状態で俺を迎えてくれた。
「くつろいでいるところ悪いんだけど、少し聞きたいことがあるんだけどいいか?」
「大丈夫よ。それで何が聞きたいの?言っておくけど、私もそれほどこの都市のことを調べ尽くしたわけじゃないから」
「その事じゃないから問題ない。今日偶然見かけたんだけどさ、この都市ではエルフだけでなく、獣人たちも奴隷とするために攫われてきているんだ。その辺りの情報は何か持ってないのか?」
「あぁ、そのことね。奴隷商のことを調べているうちに少し耳に挟んだだけで、ここ数年で獣人たちの取引が増えたという話を聞いたぐらいで大した情報は持ってないわ。もしかしたら潜入組が何かしらの情報を持っているかもしれないけど…うすうす感づいてはいたけど、まさか獣人たちもエルフと同じように攫われてたなんて…」
「残念ながら、そうらしいんだ。しかしこれはチャンスでもある。獣人たちとも協力することが出来れば、子供たちの救出作戦が上手くいく可能性も上がると思うんだ。だから情報が欲しかったんだ」
「ほんっと、この都市の奴隷商って見境が無いというかなんというか…周りに敵ばっかり作って、自分たちがやり返される可能性も少しは考えたらいいのに」
「目先の利益にとらわれて周りが見えなくなるほど、奴隷売買って儲かるんだろうな。実際ゴルドスもつい最近奴隷の販売に手を出して、短期間のうちにかなり儲けていたみたいだ。それまでは麦の卸売りをしていたみたいなんだが、一袋売って儲けが銅貨数枚の生活にはもう戻れないって思っていたようだしな」
「地に足のついた商売を何故続けないのかしら?別に麦の売買だけで生活が出来なくなったとかじゃないんでしょ?」
「奴隷の食事として麦を奴隷商に売っていたようなんだが、そこでその奴隷商の羽振りの良さを羨ましいと思ったんだそうだ。まぁ奴隷1人売れたらすぐに金貨何枚もの利益になるからな、麦を細々と売っているのがバカバカしくなったんだろう。それで話は戻るんだが、獣人たちの住処の場所なんかの情報もないのか?」
「残念ながらないわね。私が言うのも変かもだけど、エルフって排他的だから基本的には他の種族には興味が無いのよ。だからどこにどんな種族が住んでたかなんて分からないのよ」
「ってことは、獣人たちの場所を探すところから始めなきゃならないのか。手間がかかるが仕方ない。後日、ギルドで情報を集めてくるとするか」
「私の方でも機会があれば調べておくことにするわ。あと潜入組からも何かしらないか聞いておくわ」
「頼む。どんな些細なことでもいいから聞いておいてくれ、今は少しでも情報が欲しい」
「あと、今日私が調べた情報なんだけど…正直あまり集まっていないの。途中経過でいいなら報告するけどどうする?」
「いや、別にいいや。この件はエリーに任せてあるからな。それに事を起こす前に奴隷商の関係者から行方不明者を大量に出して、警戒されてしまうのが一番厄介だ。出来る限りの被害は出したくないから、事前の調査には慎重すぎるぐらい時間をかけてくれ。ミスリル級冒険者という肩書が必要になりそうなときはいつでも言ってくれ、出来る限りの協力はしよう」
「その時はよろしく」
「了解だ。んじゃ、俺はちょっと出てくる」
「どこに行くの?って、聞いてもいいのかしら?」
「構わんよ。目的地はエルフの子供たちが捕らわれている奴隷商の館。今の段階で解放することは出来ないが、子供たちに声をかけて救助が来ていることを伝えるぐらいは出来るだろ」
「それは子供たちにとって、とても心強いことだろうけど…大丈夫?ああいった施設って結構警備が厳重でしょ?」
「忘れたのか?俺はスライムだぜ?どんな小さな隙間からでも侵入することなんて今の俺にとっては朝飯前さ。助け出すことは出来ないけどな」
「そういえばそうだったわね。ま、一応礼を言うわ」
「感謝の気持ちは現物で…いや、ローゼリア様に報告しておいてくれ。出来れば俺の活躍を強調するような形でな」
「貴方ってそういったところがホント抜け目がないというか…まぁいいわ。感謝しているのは事実だしね」
「頼んだぞ。じゃ、行ってきます」
今回奴隷商に侵入する本当の目的は、館の構造を自分の目で事前に確認会いたかったのが主な理由だ。次に子供たちに助けが来たことを伝えて元気づけ、救出の時まで出来るだけ元気でいてもらう事。まぁ、正直に伝える必要はないだろう、実際子供たちを元気づけることには変わりは無いのだから。
恩は売れる時に売る、これが今の俺のモットーなのだ。




