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城門での検査を終え、都市の中へと入る。ちなみに俺達が初日に利用した城門は冒険者ギルドから最も離れた位置に存在する城門を利用した。当面は利用するつもりはない。つまりは感じの悪いエルフの奴隷を連れたミスリス級冒者のマジクという男の記憶は、彼らの中から直に消えることだろう。
思えば、あそこまで簡単に入場できたのは、普段から兵士に対する態度の悪いゼノンのおかげなのかもしれない。彼らに高位冒険者である俺の機嫌を損ねる事を躊躇させたのだ。そう思えば、わずかにだが彼に感謝の気持ちが湧き上がる。ほんの一瞬ではあったが。
冒険者ギルドに入ると、依頼となった場所が比較的都市に近く、移動にかかった時間が短かったという事もあり、少し早い時間であったため人が少なかった。依頼の報告もすぐに終わり報酬を受け取る。
「しかし、良かったのか?マジクさん。報酬を折半にしてしまって。今回の依頼じゃ俺達魔物を追い詰めただけで、ほとんどマジクさんが討伐してくれたのに」
「いや、どちらかというと大変だったのは討伐よりも素材の剥ぎ取りの方だったからな。それを思えば、俺の方が働いていないような気もしないでもない。まぁ、少しでも負い目があるのなら、この都市のことを色々と教えてくれた報酬だとでも思ってくれ」
「マジクさんがそういうのなら、ありがたくもらっておくよ。それでよ、少し時間も早いことだし、この後一杯どうだい?」
「そう…だな。ご相伴にあずかろう。出来れば色々な情報が集まりそうな場所を紹介してくれるとありがたいんだが」
「あぁ、任せてくれ」
向かった場所はギルドからほど近い飲食店だった。やはり時間的にはまだ早かったようで人の入りは少なかったが、すでに来ていた客のほとんどは俺達と同業の方と思しき格好をしている。まぁ、立地からすると恐らくは冒険者がメインの客層となるのだろう。
流石は地元出身の冒険者、良い場所を知っている。冒険者は職業柄様々な場所に向かい、現地で生の情報を入手し、帰ってくる。酒が入れば当然口も軽くなり、思わぬ重要な情報も入ってくる可能性もあるのだ。
「いや~マジクさん、思ったよりも飲むペースが速いな。見た目の割に結構酒豪だったんだな。ついていくのがやっとだぜ」
「まぁな。昔から酒を飲んでも比較的酔いにくい体質なんだ。俺個人とすれば、酒を飲んだことによる酩酊状態ってのになりたい時もあるんだけどな」
「やっぱ、ミスリル級ともなると人体の基礎スペックが俺達凡人よりもはるかに高いんですかね?今日のネス(マジク?)さんの剣技、剣筋が速すぎて正直よくわからなかったんスけど、有名な流派のものなんスか?」
「いや、基本的には我流だな。俺は辺境の村出身で毎日のように木刀を振っていたけど、剣の師匠と呼べる人はいなかったな。冒険者になってからは練武場で剣の鍛錬をしている人を見て勉強はしたけど、直接人から習ったという事は無いんだ」
「それでミスリル級まで上り詰めたってことは、よほど才能に恵まれていたってことっスね」
あらかじめ「マジク」という冒険者のアンダーストーリーを作成していたので、こういった質問にもよどみなく答えることが出来る。ちなみに本物のマジクはマジックキャスターなので彼の人生の記憶は参考にはならなかった。
それにしても、やはり酒の席というのは人を饒舌にさせてくれる。俺はスライムなのでいくらアルコールを摂取しても酔う事は無く、常に頭がクリアな状態で会話することが出来る。会話の中でさりげなく知りたい情報を聞きながら、重要なものは忘れないようにと逐次眷属達にも流しておく。
依頼の時は必要最低限な会話しなかったメンバーとも多くのことを語らうことが出来た。どうやら俺がミスリル級ということもあり、若干遠慮していた部分もあったようだ。これならフランクに付き合える銀、もしくは金級の冒険者に擬態すればよかったかもしれん。まぁ今更変更するのも面倒だ、それにミスリル級ともなれば他の冒険者から舐められることが無いので良しとしておこう。




