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 その後もそれとなく都市のことを聞きながら移動していると、思ったよりも早くマリスレイブに到着した。その後も雑談を交えながら城門の前で検査の列に並んでいると、後方から冒険者と思しき集団に護衛された商人らしき男と、何か大きな荷物を載せた馬車が近づいてくるのが見えた。


 一体何を運んでいるのか気になり列から少しばかり身を乗り出して様子を窺うと、その馬車には大きな鉄の檻が乗せられており、中には元気のなさそうな幾人かの人が乗せられているのが見えた。一瞬エルフなのかと思い、ないはずの心臓がドキリとした感覚があったが、幸いなことにエルフではなくそのことに安堵した。


 「あれは…奴隷か?」


 「あぁ、多分そうだろう。中に乗っているのは…獣人…か。いくら亜人でもあんまりいい気はしないな」


 「いい気はしない、か。」


 「マジクさんは、奴隷は賛成派なのか?」


 「奴隷といっても様々だからな。例えば犯罪奴隷は過酷な労役を課すことで犯罪の抑止力にもなるし、借金奴隷も自分の意志だけでは借金を返すことのできない自制心の弱い人に、強制的に借金を返さざるを得ない環境を作ることで却って借金完済までの期間が短くなるという利点も存在する。ただ…今運ばれてきた獣人の子供たちはそのどれにも当てはまりそうにないな。犯罪奴隷には見えないし、借金奴隷というにも体型や衣服からするとそれほど困窮した生活をしてきたようには見えない。まさかとは思うが…」


 「多分、どこか亜人の村から攫われてきたんだろうな…胸糞悪い。昔はこの都市もこんなんじゃなかったんだけどな」


 「昔?何か転換となるような出来事でもあったのか?」


 「よくある話さ。マリスレイブは代々マリアーベ伯爵家の領地でそれなりに栄えて来ていたんだが、先代のマリアーベ伯爵はよくできたお方でな、この都市の経済規模をそれまでの数倍にまで引き上げたといわれるほどの名君だったのさ。しかしかなり若くして亡くなり、おまけに跡継ぎがいなかったんだ。それで伯爵家を継いだのが、その弟君で現マリアーベ伯爵、モコナ・マリアーベ様だ。ただ彼には兄君ほどの領地経営の才能は無く、彼が爵位を継いでから少しずつではあるがこの地が衰退していったんだ。」


 「本来なら伯爵家を継ぐことが無かったという立場に加えて、優秀な兄と常に比べられてきたんだろうな。プレッシャーがすごそうだな」


 「それでも大きな問題は発生し無かったし、衰退したといわれる経済規模だって先代の就任以前に比べれば大きかったから、無難ではあるが領地経営は出来ていた方だと思う。ただ、優秀だった兄の影には常に悩んでいたんだろう。自分の代でもう一度、兄以上の繁栄をさせなければならないと思ったんだろう」


 「それで手を出したのが、亜人奴隷の売買による経済の活性化か。奴隷は高額だから効果が早く出るんだろう。しかしそんなことをしていたら、亜人との関係も悪くなるだろ…それともそんなこと気にしなくてもいいほど、この都市では昔から『教会』の力が強かったのか?」


 「順番としたら逆だな。昔はそれほど教会の力が強くはなかったけど亜人の奴隷を扱うようになって、教会との癒着を強くしていったんだ。流石に伯爵家も、後ろ盾となるような大きな力が欲しかったんだろうな。それで教会の力を背景に、領内での亜人の奴隷販売の規模も大きくしていったのさ。周りの領主たちも回復魔法を取り仕切る教会と正面切って敵対するのは避けたかったから、大した妨害もなく短い期間でこの都市は亜人の奴隷を扱う市場になっちまったのさ。亜人と関係が悪化したことによる経済的な被害よりも、亜人を奴隷として販売して儲けた方が簡単に儲けることが出来ると判断したんだろう」


 「何というか…気が滅入るような話だな。ダクエル達はあまり良い感情を持っていないという事は分かるが、この都市の住民も皆、同じような感じなのか?」


 「いや、多分好意的に受け取っている奴の方が多いと思う。亜人の奴隷を売買するようになって経済的には昔よりも発展しているからな。冒険者は護衛の依頼が増えているし、都市の宿泊場なんかも常に満員状態だ。奴隷商なんかは言わずもがなだな。もちろんこの都市に昔から住んでる俺達からすれば、生まれ故郷が豊かになるというのは喜ばしいことなのかもしれんが、その豊かさの源泉が罪のない多くの亜人の犠牲の上で成り立っているのだと思うと素直には喜べんのさ。おっと、俺達の順番が来たようだ、さっさと手続きを終えて都市の中に入ろうぜ」


 都市の住民も必ずしも亜人の奴隷に好意的ではないという事か。この情報が何に使えるか分からないが、ま、悪いようにはならないだろう。


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