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 依頼自体はすぐに片が付いた。ダクエルのパーティーが草原でのんびりと草を食べていたブラック・シープに気づかれないように大きく囲い、その囲いを少しずつ狭めていく。ダクエル達が頃合いを見て大声を出し、一か所に追い立てる。そこにはこの中で一番腕の立つ俺が気配を消して待ち構えており、ダクエル達に追い立てられ、混乱し、殺到するブラック・シープを手当たり次第に狩り殺していく。


 何頭かには逃げられてしまったが、恐らくあの生き残った個体も人間(?)の怖さを知ったことで、二度とこの辺りには近づかないことだろう。


 残ったのは死屍累々な光景…とまでは言えないが、それなりの数のブラック・シープの死体が横たわっていた。ブラック・シープの毛皮はギルドで購入してもらえるので、一体一体丁寧に毛皮を剝いでギルドで借りたマジックバッグに詰めていく。正直討伐にかかった時間よりも、毛皮を剥ぐことに費やした時間の方が長かった。


 「やっと最後の一体が終わったか。それで残った死体はどうする?新人冒険者が近くに来るということもあるし、腐って変な病気が発生したらまずいだろ。一か所にまとめて燃やしておくか?」


 「いや、ここに来る途中にスライムを見かけたから、ほっときゃ勝手に処分してくれるだろう。燃やすにしても、油だってタダじゃないから…と、ほらあそこ見てみろ。すでに何体か近づいてきているぞ。もしかしたら、俺達の戦闘音を聞きつけてやってきたのかもしれないな」


「くははは、面白いことを言うな、マジクさんは。スライムにそんな知能があるわけないじゃないか。ま、運が良かったことには変わりはないがな」


 運が良かった…というわけではない。あのスライムは先行して都市周辺のことを探らせていたサーチ・スライムの眷属だ。俺が討伐依頼を受領したときに、その死体を吸収させるために俺達の後をつけるように指示していた個体がようやく追いついたのだ。


 未だこの周辺に配置できている眷属の数が少ないため経験値の獲得量こそは少ないが、ひとまずは情報収集を優先させているのでそのことに関して不満があるというわけではない。


 しかしこれほど大きな都市の周辺で俺の眷属による情報網が完成し、効率よく経験値の獲得が出来るようになれば……考えるだけでもワクワクするが、過ぎたる欲は身を滅ぼしてしまう。慎重に行動し、しばらくは身の丈に合った行動を心がける。


 帰り道、マリスレイブことを聞きながらさりげなくではあるが、一番気になっていることを聞くことにした。


 「そういえば、あの都市にはゼノン・パルドクスというアダマンタイト級の冒険者がいるそうだな。どういった人物なんだ?」


 「興味があるのか?いや、冒険者なら気になって当然と言えるか。うーん、あの人の事か…実力はその位に見合っただけのものがある。しかし、残念ながら人柄はそれに追いついてはいない…といった感じだな」


 「人柄に問題があるのか?俺が言うのもなんだが、全員ではないけどミスリル級以上の冒険者って結構我が強い所があるというか、あまり人と協調するってことが無いって言うか…つっても、俺も基本的にはソロで活動してきてるからあまり人のこと言えないんだがな。って、そんな身内の恥になりそうな情報を、他所から来た俺にあっささりと言っちゃっていいのか?」


 「ま、いいんじゃねぇのか?マリスレイブにいる冒険者のほとんどは知っていることだし、都市の衛兵の間でもかなり知れ渡っている情報だからな」


 「大丈夫なのか?アダマンタイト級の冒険者がそんな不名誉なことで有名で」


 「有名といっても、俺達冒険者や都市の兵士たちの間でってことさ。実際、貴族や金持ちの商人、ギルドや都市の要職の人が相手だと普通の応対が出来ているから、これといった問題は今まで起きてこなかったわけだしな。都市の住民も接点がほとんど無いから性格が悪かろうが気にも留めないだろ。民間人にとって重要なのは、魔物から自分たちの生活を守ってくれる相手かどうかということだけなのさ」


 「つまり同業の…魔物を相手にするような職業の、冒険者や兵士からの評判があまりよくないということか。普通なら周囲から浮いているそんな冒険者はとっくにくたばりそうなものだが…強いから問題ないということか」


 「ゼノンさんにとって関心があるのは金か権力、もしくはそれなりの戦闘能力があるかどうかという点だけさ。俺達の様な銀級以下の冒険者なんて、肉の壁ぐらいにしか思ってないだろうしな。ただ、一部には彼の強さに惚れ込んで心の底から尊敬している奴もいるが、多分マリスレイブに拠点を置く冒険者全体の一割にも満たないだろうな。まぁ、一回の稼ぎがデカいから、めったにギルドに顔を出すということが無いってのが唯一の救いではあるな」


 ゼノン・パルドクスは冒険者仲間からの評判は良くない、か…少なくともゴルドスの持つ情報にこれは無かった。やはり現場の者にしか分からない苦労というものはあるのだ。これが分かっただけでもこの依頼に参加した価値があると思えた。


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